1-10 八ツ首ドラゴンとの乱戦

「よしっ」


 まず初手でひとつ、俺は首を無力化した。首は太く手応えもかなりあったが、なんとか剣が鎧を貫通。すぱっと斬り落とすまでは無理だったが八割方切れたので、首はだらんと垂れ下がった。もはやこの首は、死んだも同然だろう。


「ブッシュ殿っ」


 見ると、ハルトマンも剣を振り切ったところだった。俺と違い、完全に首を落とし切っている。さすがは王国の近衛兵。プティンの斬撃魔法で、端の首が寸断された。


 これで三つ。残りの首は五つ。


「えいっ!」


 気合一閃。タルト姫の剣が、俺とハルトマンの間の首に食い込んだ。……だが女子だけに、膂力に劣り、首に三割ほど食い込んだだけだ。剣が抜けなくなって、姫は飛びじさった。――瞬間、俺達の体を、ノエルの耐炎魔法が緑色に包む。


「姫っ!」


 転がり込んだハルトマンが、姫の剣を握り直し、そのまま力技で端まで斬り裂くと、姫の足元に剣を投げた。


「油断めさるな。次が来る」

「はいっ――あっ!」


 タルト王女の悲鳴に、ドラゴンのブレスが重なった。残った四つの首から、一斉に炎のブレス攻撃が俺達を襲ったのだ。さすが……というか、同じ胴体からの攻撃だけに、一糸乱れぬ同時攻撃。ちゃんと俺達前衛四人に振り分けられている。


「パパーっ!」


 俺達大人の激走にようやく追いついたマカロンが、駆け込んだ勢いのまま、俺に向けて飛んだ。


「パパに任せろっ」


 やりたいことはわかっている。しゃがんだ俺は、両腕で輪を作った。組んだ両手で、飛んできたマカロンの足を受ける。


「ぬおーっ」


 そのまま、立ち上がる勢いで、マカロンを高く放った。


「えーいっ!」


 跳躍の勢いを生かして、マカロンは剣を振るい、首に剣を食い込ませる。


「ぐおーっ!」


 絶叫と共にまたひとつ、首が垂れた。マカロンはそのまま、ドラゴンの背に乗っている。振り落とされないよう、背中に剣を突き立てて。


 あと三つ。緒戦の劣勢を見て取ったのか、ドラゴンは後じさりした。距離を取ったほうが有利と考えたのだろう。当然だ。離れて高所の首からブレス攻撃すれば、向こうははるかに有利だ。俺達に耐炎魔法はもうない。次に使えるのは四分後だ。


 そのまま首を振り回し、俺達前衛を牽制する。背中のマカロンのことも嫌がっているようだ。暴れ馬のように跳ね回っているが、マカロンは剣にしがみついてこらえている。


 ――くそっ。


 揺れる首に、有効打が入らない


「それーっ!」


 プティンの斬撃魔法が飛び、端の首を落とした。周囲には土埃が舞い上がり、湿気った香りとドラゴンの血の臭い、それに炎に焼かれた地面の臭いが立ち上っている。


「また来るわっ!」


 前線まで駆け込んできたノエルが、ボウガンを連射する。敵の喉がまた赤熱し始めている。残りふたつの口からブレス攻撃を受ければ、被害範囲は広い。おそらく俺達はそれで全滅だろう。


 ボウガンの矢は頭に飛んだ。敵は首を振り、矢を交わす。


「それでいい。なんとか、敵を怯ませてブレスを防げ。前衛が剣の間合いまで突進する隙を作れっ」

「わかってるっ」

「ブッシュさん、右の首がっ!」


 ティラミスの声が飛んできた。見るとその首だけたまたま牽制が弱く、絶好の位置で口を開いていた。タルト王女に向かい。


「姫ぇーっ!」


 傲然とハルトマンが駆け込んでくるのと、炎のブレスがタルト王女を襲うのが同時だった。


 ハルトマンが炎に包まれ体が燃え上がるのが、俺の瞳に映った。



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