1-7 サラマンダー戦

「罠だ。くそっ!」


 ハルトマンの叫びが聞こえたと同時に、三体のサラマンダーからの炎が俺達を包んだ。


「あちっ!」


 思わず声が出た。熱湯に手を突っ込んだような痛みを感じる。だがそれは一瞬だった。すぐに痛みが引く。


 三体の最初のブレス攻撃はほぼ同時。ノエルの耐炎魔法は一度の炎なら防げる。時間差で攻撃されていたら危なかったが、威力を高めて瞬殺しようとした敵の戦略のおかげで耐えることができたんだ。ガチ、ラッキーってもんだろう。


「次やられたら後がないぞ。陽動しろっ」

「おう」


 ハルトマンが左に駆け込む。姫と俺は右に回り込んだ。のそのそと体を動かしたサラマンダーの横首に、ボウガンの矢がブスブス音を立てて突き刺さった。ノエルだ。耐炎魔法は五分に一度しか撃てない。その間はこうして、遠距離攻撃で俺達を補佐してくれる。弓でなく連射可能なボウガンなことも良かった。こうして三体の首に素早く傷をつけられるからな。


 ハルトマンは、サラマンダーの直近まで駆け込んだ。敵の間合いは炎で無限大。こちらの間合いは剣で一メートル。適切な判断だ。それに足元のほうが、相手はブレス攻撃がしづらくなる。下を向かないとならないし。


「やっ!」


 前足の爪元に剣を振るうと、脚が飛んでくる前に退却する。それを何度か繰り返している。


「こっちもあれだ」

「はい、ブッシュ様」


 俺と姫も習った。だが……こっちにはサラマンダー二体がいる。一体の脚を斬る間に、もう一体に攻撃されてしまう。危ないので斬りつけるところまで行かず、牽制が精一杯だ。と――。


「パパーっ!」


 叫び声と共に、マカロンが突っ込んできた。子供とは思えない速度で。思わず――といった様子で、手前の一体がマカロンを振り返る。駆け込んでくる子供に向け、大きく口を開けた。喉の奥が赤熱している。


「くそっ!」


 目前の一体の脚に斬りかかり一瞬、怯ませると、マカロンを狙う野郎の後ろ足をやってやろうと、俺は駆け出した。だがすでにサラマンダーの喉が、皮膚を通してすら真っ赤に輝いている。


「マカロンーっ!」

「パパーっ!」


 凄い勢いで突っ込んできたマカロンに、炎が襲いかかる。その瞬間、マカロンは体を倒して滑り込んだ。仰向けで。剣を上に構えて。


 炎のわずか下を抜けたマカロンの剣が、サラマンダーの喉を切り裂いた。縦に。血が噴き出し、サラマンダーが苦悶の叫びを上げる。ふらついた体は、マカロンの上に倒れ込んだ。


「マカロンちゃん!」


 タルト姫が駆け込む。俺がこっちの一体を牽制している間に、なにか腕を動かしている。引っ張るように。


「大丈夫っ」


 叫んだ。


「マカロンちゃんは無事よっ」


 タルト姫に抱えられているのは、マカロンだった。左腕が下敷きになったようで痛そうに顔を歪めてはいたが、命に別状はない。


「よし。ならこっちだ」


 マカロンに習い、サラマンダーの下に突っ込んだ俺は、首を狙って剣を振るった。さっと首を引いてかわしたサラマンダーが、俺を睨んで大口を開けた。噛み込んでくるつもりだろう。だが、その顔は苦悶に歪んだ。


「わしもおるぞ」


 ハルトマンが野郎の尾を切り刻んでいた。どうやら向こうの一体はもう処理し終わったようだ。


「初手は敵三体だったが、今やこちらが三人……いやマカロンちゃん入れて四人がかり。トカゲ料理もおいしそうだわい」


 かっかっと笑う。


「ブッシュ殿、とどめは任せた。お主の位置が最適だわい」

「わかってる」


 剣を構え直すと俺は、サラマンダーの首を斬り飛ばした。





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