「パパ活」モブの下剋上 ――ゲーム世界転生直後に追放され、異世界でも最底辺に転落した俺。勇者に成長する孤児を拾うと、美少女ママがもれなく付いてきた。王女や聖女にも頼られ神速で成り上がり、ざまぁ満喫する
7-5 ランスロット卿を、完膚なきまでに叩き潰す
7-5 ランスロット卿を、完膚なきまでに叩き潰す
「勘違いするな」
ランスロット卿に、俺は言い渡した。
「リーダーとしての判断は、俺が下す。あんたは前衛として、道中も戦闘中も、俺の判断に従ってくれ」
「なにっ!」
見る見る、額に血管が浮き出てきた。
そらこのプライド馬鹿なら怒るだろうけどさ、ここだけは譲れないんだわ。なんせ俺の家族であるマカロンやティラミスに加え、恩人ノエルの命も懸かっている。命令系統がふたつもあってそれぞれ矛盾してたら、全滅は見えてるからな。
「ここからは、あんたのパーティーも俺のパーティーもない。十人パーティーとして、この難関ダンジョンに挑むんだ。そこんところを思い違い」
俺は言い切った。
「王家の立場で考えてもみろ。別にあんたのパーティーにクエスト完遂を託してるわけじゃない。誰が成し遂げたっていいんだ。目標は守護神復活だからな」
「いいわね、ブッシュ」
ノエルが微笑んだ。
「それなら、王女様のご希望にも合致する」
よくわからんが、ノエルは王女となんか取り決めかなんかがあるようだな。
「アホらしい。交渉決裂だ」
ランスロット卿は、きっと俺を睨んだ。
「ブッシュ、お前は勝手にしろ。国王陛下から命じられた誇りあるパーティーとして、我らは孤高の道を征く。ほら、みんな行くぞっ」
だが、誰からも賛同の声は上がらない。白けた空気が、ランスロット卿パーティーの間に流れているだけだ。
「どうしたっ」
「イキるなよ、情けない。あんた一応、貴族だろ」
俺は奴を睨んだ。権力を笠に着るしかできない、この小悪党を。こんな奴、前世の底辺社畜時代に、腐るほど見てきた。おおむね、政治力と運だけで成り上がった小物上司に多い。必要以上に自分をでかく見せないと、クソみたいな実力が周囲にバレるから。
「なんならあんたのパーティー、ここで解散でいいぞ。全員、俺が引き受ける。あんたはまた、冒険者ギルドで一からメンバーを探せばいい。お互いウィンウィンだろ、それなら。自分のパーティーで突き進みたいっていう、あんたの目論見どおりだし」
「そんなことができるものか。そもそもノエルは借金のカタとして、私のパーティーに縛られているのに」
「いや、あんた勘違いしてるな、ランスロット卿。ノエルは借金のカタとして、『始祖のダンジョン探索クエストチーム』に縛られてるんだ。あんたのチームがここで解体されるなら、俺のチームに所属してもいいだろ。縛りは変わらない」
「ブッシュ……」
ノエルの瞳が潤んだ。
「あ……ありがとう……」
「私のチームが解体されるわけないだろ」
ふんぞり返った。
「ほら、全員行くぞっ」
「ならここで、あんたのチームで多数決をしよう。ランスロット卿に従い、これまでのパーティーで探索を続けるのか。それともランスロット卿パーティーはもうここで解散し、俺のパーティーに個人として参加するか」
「私はブッシュのパーティーに入るわ」
真っ先に、ノエルが声を上げてくれた。
「ブッシュの判断なら、私の命を預けられる。それに……王女様の願いも叶えてくれるもの。……私の両親の名誉だって、回復してくれるに違いないわ」
「ノエルさんがブッシュチームに移るなら、俺も行くっす。ノエルさんは、俺達のパーティー一の存在だ。実質、俺達のリーダーっすからね。リーダーに従うのは当然っす。……それに儲かりゃ俺、どこのチームがどうとか、どうでもいいし」
剣士クイニーが、苦笑いを浮かべてみせた。
「ランスロット卿の弱みでも握って小銭でも……とか考えてたけど、もうほんと性格悪いんで、探るのもうんざりというか」
溜息ついた。
「チンピラの俺でさえ呆れ返るって、相当すよ」
「あたしも解散に賛成。ブッシュがこれだけ急激にたくましくなったの、なんか理由があると思うんだ」
スカウトのエリンに、頼もしげに見つめられた。
「なぜか隠してきた嫁さんと子供のためかもしれないけどさ、多分それだけじゃないっしょ。そのへん……冒険者として興味がある。あたしだって、お金だけで動くわけじゃないからね」
「わしもブッシュチームに参加しよう」
魔道士ボーリックが続けた。
「どうやら、ブッシュには本当に、謎エンチャントの能力がありそうじゃ。先ほどブッシュチームが合流してから、わしの魔法も切れ味が上がったでのう……。その謎を解き明かしたい。新たな魔法錬成のヒントになるなら、命など差し出したってかまわん。魔道士なら、誰しも本望じゃて」
ほっと息を吐くと続ける。
「それにこのダンジョンは、かなりの難関。ならやはり、全体をエンチャントするリーダーの元でなければ、命も危うかろうしの」
「ほらな」
俺は、ランスロット卿に両手を掲げてみせた。
「これで決定。あんたのチームはここで解散だ。せいぜい、国王に報告でもしとけや。全員に愛想尽かされて単騎になりました、とな」
「この……へ、平民風情があ……」
手が剣の柄にかかる。例の、「神殺しの剣」とかいう仰々しい奴の柄に。
「抜くのは勝手だが、覚悟はしとけ」
ガトーが割り込んできた。自らも、短剣の柄を握り締める。
「ブッシュは今日、あんたのチーム全員の命を救った。あんたも含めてな。……それなのに先程あんたは剣を抜き、ブッシュを侮辱した。今一度抜くなら、それはもうブッシュの敵ってことだ。俺も妖精プティンも、あんたを敵と見なして攻撃するからな」
「そうだよ。もうボク、黙ってられないよっ」
俺の胸から飛び出したプティンが、肩の上に腰をおろした。
「妖精の魔法、一度受けてみる? 多分あんた、魔法の輝きを見る前に死ぬけど」
プティンの手のひらに、紫の光が輝き始めた。いやプティン、おしゃべりのお前が、よくぞここまで黙って我慢した。
「パパの敵なら、あたしの敵だよっ」
マカロンもランスロット卿を睨みつける。
「それにランスロット卿、あんたは勘違いしているようだが……」
ガトーが続けた。
「あんたのチームは今、解散した。ここにいるのは全員、ブッシュのパーティーだ。もちろん、ボーリックもエリンも、クイニーだってあんたに牙を剥く。神殺しだかなんだか知らんが九対一であんた、勝てると思うのか。見たところあんた、一対一でも負けるだろう」
「うぐぐっ……」
柄に掛けた手が、小刻みに震えた。冷めた目でその様子を眺めている九人の上に、視線がうろうろと動いている。
「俺はタルト王女の参謀のひとり。ここで起こったことは全て、姫様に包み隠さず伝える。ランスロット卿は休憩中にブッシュに斬り掛かった挙げ句、正当防衛で討ち取られましたとな。もちろん、俺以外の六人も証人だ。いくらあんたに金と権力があろうと、賄賂で大法院を手なづけていようと、これだけの証言を覆すのは無理だぞ」
「そ……それは……」
「そもそも死んだら、もう賄賂もクソもない。大法院も手のひらを返してあんたを叩くだろうよ。潮目が変わったと気づいてな。そもそも信頼で結ばれた繋がりじゃあない。金の切れ目が縁の切れ目だ」
「それにボクは、王女様のソウルメイトだからねっ。ボクの見聞を、王女様は全部わかってるよ。魂が繋がってるからね。悪事は姫様にも丸見えだよ」
「どうする、それでも剣を抜くのか」
侮蔑し切ったようなガトーの視線を受けると、ランスロット卿の手は、そろそろと柄を離れた。
「……まあ、下々の者が、私の手を煩わすのはもったいないと、自ら働いてくれるのだ。ど平民の立場にも配慮してやるのが、上に立つ貴族の務め。ノブリスオブリージュという奴か」
はあ? なに気取ってんだこの馬鹿。それでも精一杯、プライドを守ったつもりかよ。
「いや、もうあんたはいらん。俺達九人でいいわ。目障りだ、消えろ」
俺の言葉を受けると、精一杯取り繕った態度すら消えて、おろおろし始めた。
「いや、それは困る。私にはランスロット公爵家としての立場がある」
それが本音だろ。
「ここで部下全員に離反されたら、冒険者ギルドでも噂が立つ。重戦士タルカスの件もあるし、もう誰ひとりとして私の下につかなくなるだろう。王命に失敗した、しかも敵に挑んでのことでなく部下全員に逃げられたことで。とてつもない間抜けとして、ランスロット公爵家での私の立場が――」
「知った事か、おっさん。それでも社畜のプライドがあるのかよ。上の顔色だけ伺うヒラメ役員のくせに。部下の手柄を全部独り占め、失敗したら部下のせいで左遷で地方に飛ばして噂もできなくさせるとか、クズ中のクズだぜ」
この手のクズ上司、死ぬほど見てきたからなー。前世で。しかもこんなカスばっか出世するんだわ。そりゃ業績だって傾くだろうよ。
「な、なにを言っておる」
「いいからどっかに行けよ。顔を見るだけでムカつく」
「ブッシュさん」
ティラミスが俺の袖を引いた。
「この方を入れてあげましょう」
「ティラミス……」
腰に手をやると、ティラミスの体を抱き寄せてやった。
「お前は優しい娘だな。でもどうだろうな、その判断は」
ここまで対立した以上、残すほうが遺恨を残して危険だ。ここはきっぱり切ったほうがいい。底辺社畜としての俺の経験が、そう言っている。
「いえ、彼に同情しての意見ではありません。この先……大きな動きの予兆がある。王家に仇する存在を一掃したいなら、自由に動かせてはなりません」
俺を見上げている。まっすぐな瞳で。澄み切った、美しい瞳だ。
「……そうか」
俺は、ティラミスに救われた。異世界で今にも死ぬ寸前まで追い込まれた俺の運命が開けたのは、ノエルとティラミスの導きだ。
「なら今回も、お前の判断に従うか」
俺はほっと息を吐いた。
「おうランスロット卿、あんたの加入を許そう。せいぜいティラミスに感謝しろよ、アホ」
「私が……お前の下に加入……だと」
「ああそうさ。誓ってもらう。今後は万事俺の命令に従い、精一杯働くと」
「……」
「ほら、言えよ」
「……」
濁り切り血走った目で、上目遣いに俺を睨んでやがる。
「ティラミス、このクズはやっぱり駄目だ。こいつはここで放逐する」
「私はし……従おう」
ランスロット卿が立つ方から、かろうじて聞こえる程度の音がした。
「はあ? 蝿の羽音かよ。大声を出せ。いつも怒鳴ってたときみたいによ」
「私は従おう」
俺を睨みつけた。
「ブッシュという、最底辺のクソ平民に」
なんだそれ。それでも精一杯煽ってるつもりかよ。小悪党涙目の捨て台詞とか、腹も立たんわ。
「おう。では俺のチームの末端に置いてやる。前衛として、精々剣を振るえよ。そのなんとかいうコント用の剣を」
ギリギリと、ランスロット卿が歯を噛み締める音が響いた。いやおっさん、歯が欠けて歯抜けになるぞ。
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