7-6 妖精プティンを風呂に入れる
第三階層攻略を終えた夜。サバラン宿、自室の湯船に体を沈めて、俺は考えていた。
第四階層、どうやって攻略するかなあ……。
敵は神の残存思念。思念ってことは姿も見えないに違いない。そもそも古代の神流出事件のときは、本体すら見えなかったというからな。そいつらが王都で暴れて何百人も即死した。斬られたとか食われたとかじゃない。ただ一瞬にして倒れて絶命だ。
残存というからには、そうした本体よりは弱いはず。にしても、見えず、もしかしたら触れすらしない敵を、どうやって倒せばいいんだ……。
――ぶくぶく――
湯船に、泡が浮かんできた。
今日もティラミスに追い出された俺は、妖精プティンと一緒に風呂に漬かっている。プティンはこの間同様、湯船に潜って泳いでる。プールかペンギンの餌付けかってくらい泳ぐんだよな、妖精って。ついでにまた俺の下半身でも観察してるに違いないし。でもまあいい。体長三十センチの妖精に見られようが触られようが、恥ずかしくもないし。
「もう充分泳いだろ、プティン」
三分ほど放置してやってから、プティンを摘み上げた。手足をだらーっとしたプティンの体から、湯が滴っている。きれいな妖精の髪からも。
「いつまでも潜ってると、溺れるぞお前」
「もうっ」
俺に摘まれたまま、頬を膨らました。
「せっかく表が全部わかって、裏に移ったところだったのに」
やっぱ観察してたか……。
「余計なことすんな」
肩に乗せてやった。
「ねえねえブッシュ、興奮した? ボクに見られて興奮した?」
「するわけないだろ。お前、人間でもないし」
「うーん……男の人を興奮させるの、難しい」
唸ってやがる。
「興奮すると、形が変わるんでしょ。ねえねえ、それ見せてよ」
「お前なあ……。教育受けたばかりの小四女子かよ」
呆れ返ったわ。
「そんなん、かわいい娘の裸でも見ないと無理だよ」
「ボクだってかわいい女子なのに」
ぷくーっ。
「知らんがな」
「なら姫様の裸見たら、興奮する? ねえねえブッシュ、興奮する?」
「王女なあ……」
タルト王女の姿を、俺は思い浮かべた。
たおやかなドレス姿から、一枚一枚、服を脱がしてみる。きっとこうドレスの下に、体を締め付けるような下着とかしてるんだろうな。紐でがんじがらめのそれを外すと、フェミニンで清楚なガチ下着が現れるんだろうよ。俺に触られても、王女は嫌がりもしない。下を向いたまま、黙って俺の手が動くままに任せている。手を掛けて下着を脱がすと、真っ白な肌に、これまで誰ひとりとして男には見せてこなかった秘跡が現れて……。
「いかんいかん」
頭を振って、妄想の脳内画像を吹き飛ばした。
プティンの口車に乗せられて、危うく大きくするところだった。誰がその状態を観察させるかっての。恥ずかしすぎるわ。
「にしても……」
下着で思い出したけど、この世界でもブラってあるのかな。まあここはガチ異世界じゃなくて、ジャパンメイドのゲーム世界だ。だから下着も現実準拠だろうとは思う。少なくとも俺とかティラミス、マカロンの下着はそうだし。そういやティラミスの下着にブラないけど。形をきれいに保ってあげるためにも、あるなら買ってやらないといかんか。
……俺、男だから、こういうところ気が利かなくてダメだな。俺はティラミスとマカロンのひとり親も同然。もう少し考えてやらんとな。誰か……女子に相談してみるか。王女……は無理だから、ノエルとか。いや、リーダーが配下の女子に下着の話振ったらマズいか。そりゃセクハラだ……。
……あれ、俺、相談相手の女子いないな。さすが前世から筋金入りの彼女なし社畜。我ながら呆れるわ。冒険者ギルドには受付嬢がいるらしいし、そこで訊いてみようかな。
でもいきなり行った初対面で「十五歳のブラだけど……」とか口走ったら俺、変態認定の上、出禁になりそうだわ。うーん……。
「なに唸ってるのさ、ブッシュ。戦闘の戦略でも練ってたの」
「ああそうだ。どうにも、神の残存思念って奴が、よくわからなくてな」
ごまかした。まさかブラで悩んでたとか、言うわけにもいかんし。
「なら明日、王女様に相談しようよ」
「ブラについてか? そりゃ無理だろ。相手は王女だ」
「はあ?」
呆れ返ったかのように、プティンが腕を組んだ。
「何言ってんの、ブッシュ。始祖のダンジョン、第四階層攻略についてでしょ」
「そうそう、そうだった」
いかん。妄想暴走して、いらんこと口走った。
「そりゃ相談はしたいけどよ」
王家の伝承は詳しいだろうから、王女なら頼りになる。ついでにブラの相談……は無理だよな、やっぱ。
「でも忙しいだろ。こないだだって、ようやく時間を作って会ってくれたみたいだったじゃないか」
しかも業務時間は取れないから、プライベートのランチタイムに。
「平気平気。ボクが頼んであげるよ」
「お前が? こんな夜更けに王宮に行くってのか」
「違うよ、ブッシュ」
ケラケラ笑っている。
「ボク、テレパシーみたいなの使えるし、王女様とだったら」
「はあ……。ソウルメイトってのは、便利なもんだな」
「そだよー」
もうこれ、王女を慰め、身を守る存在ってだけじゃないな。妖精のソウルメイトって奴は。
「うん。今訊いた」
プティンは頷いた。
「えっ? もうか」
秒じゃん、マジで。
「明日のランチにまた招待してくれるって」
「やっぱそこしか時間取れないのか」
「そりゃ、王女様だもん。寝る暇もないくらい忙しいんだよ」
「だよなー……」
かわいそうに。まだ十六歳なのにな。
「ブッシュ様……」
俺の首に抱き着いてくると、プティンがちゅっと唇と着けてくる。
「なんだよ。くすぐったいじゃないか」
「わたくしの贈り物」
「なんだそれ」
「明日、ぜひいらして下さいね。ブッシュ様にお会いできるのをわたくし、楽しみに待っておりますから……」
「わかったから、王女の口調真似すんなや。気味悪い」
「……ちぇーっ、ブッシュのバカ」
溜息をついている。
「せっかくボクがセッティングしてあげたのに」
「会合のセッティングは感謝してるわ。なんせ第四階層は最後の戦闘フロアだからな」
プティンは瞳を輝かせた。
「ブッシュって面白いよね。からかいがいがあるよ。ボクも姫様も」
「ついでにお前にも相談しとくか」
実は悩みがあとひとつある。ブラよりよっぽど重要な件。この際だ、謎エロ妖精の意見でもいいから聞いてみたい。
思い切って、俺は悩みを打ち明けた。
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