7-4 十人パーティー組み
「一緒に攻略……だと」
俺の提案に、ランスロット卿は険しい表情になった。
第三階層「モンスターモッシュ」フロアをクリアし、今は休憩中。俺のパーティーとランスロット卿パーティーは皆、突っ立ったまま俺の話を聞いている。
「ブッシュ、お前は私のパーティーをクビになった底辺。今さらこの私の威光に
はあ、なに言ってんだこのクソ。誰がてめえなんかあてにするかっての。ノエルを救うために決まってるじゃねえか。この馬鹿のパーティーにいれば、ノエルが使い潰され命まで失いかねない。それは明白だ。この野郎、人を人とも思ってないからな。
といっても、俺のパーティーにノエルを引き取ることは、このアホが許さないだろう。なんとなれば、あらゆる権力を使ってそれを阻止するに違いない。
休憩中に聞き出したが、結局俺と重戦士を失った。そのことを国王に咎められたって話だからな。ここでノエルまで抜ければ、「このリーダーは統率力も実力もない間抜けだ」と、国王どころか王国民全員、誰の目にも明らかになるからさ。
「今言っただろ。俺は効率を考えただけだわ、アホ」
そういうことにしておく。最後のところでこの馬鹿に言い訳の余地を与えないとな。
「アホだと……」
ギリギリと、歯を噛み締める音が聞こえた。
「アホなんて言ってない。『愛と包容力』って言ったんだ。それも効率と同じくらい大事だからな。頭だけじゃなく、耳も悪いんか」
「この野郎。言わせておけば」
ランスロット卿は、剣を抜き放った。刀身が青白く輝く。LED照明のように。
「太古の神すら
「よさんか、ランスロット卿」
例のじじい魔道士が叫んだ。ボーリックという名前であることは、さっき聞き出した。俺が転生する前のブッシュと同じパーティーだったし、当然「元ブッシュ」とは顔見知りなわけで。
「大量のモンスターにわしらが苦戦しておったのは、事実じゃ。もう少しでノエルが殺されるところだった。回復魔道士が死ねば、わしらだって生き残れやせんわい」
「そうそう」
エリンという女スカウトも頷いた。
「それにブッシュのチーム、妖精までいるじゃない。全体魔法を休みなしにあんなに撃てるなんて、王国有数の魔道士たるボーリックだって無理だよ」
「ふん。ブッシュの力ではない。早い話、妖精だけの力ではないか」
「まあまあランスロット卿、もう少し話だけでも聞いて見たらどうっすか。断るのはいつでもできるし」
例の新人剣士だ。クイニーって名前だと。
「ほら、無粋な剣なんか収めて。貴族の度量を見せる時っすよ、今」
「うむ……それもそうだな。公爵家の私ともあろうものが、下々のペースに巻き込まれたわい」
ようやく剣を収めた。いや抜いたものの誰も尻馬に乗ってこないから、剣の収めどころを失って困っていた様子だったからな。渡りに船だろう。このクイニーって奴、適当にごまかすのは得意そうだわ。
「ランスロット卿、私もブッシュの案に賛成です」
ノエルが肩を持ってくれた。
「先ほどの、ティラミスさんの技を見ましたか? あれ、王国魔道士でまだ誰ひとり習得していない、復活魔法も同然ですよ。しかも魔法じゃなかった。なにか……もっと大きな力です。多分、霊力……」
ティラミスと俺を見て、続ける。
「すごいのは妖精や、ドラゴンを倒したスカウトだけじゃない。謎スキル持ちの、ブッシュがいる。強力な魔道士も。それにマカロンちゃんという、意外なほど強い前衛まで。……正直に言えば、こちらのパーティーより、実力ははるかに上です」
ノエルは言い切った。
「今の一戦で皆さん、それは感じているはず。そのパーティーのリーダーが、一緒にやろうと提案してくれているのです。乗らない理由がありません」
「うむ……」
ボーリックは頷いた。
「ブッシュの隠された能力とやらの存在を、確かめることもできるしのう……。一石二鳥じゃ」
「クリア時の報奨金なんすけど」
剣士クイニーが手を上げた。
「どっちのパーティーに所属してても、同じっすか」
「同じじゃ」
ボーリックが認めた。
「頭割りじゃないものね。人数が増えても、ひとりあたりの取り分は変わらない。一生……は無理かもだけど、庶民ならまあ十年は働かずに済む金額よ」
エリンが付け加えた。
「……貴族様の豪勢な暮らしでは、どうだかわからないけどね」
微妙に皮肉を入れ込む。
「なら俺も、合流に賛成っす。損ないじゃないすか」
「クイニー、お前にはプライドがないのか」
ランスロット卿が大声を上げた。
「悪いが貴族様、俺は親父に殴られながら地獄を見て育った。プライドなんかで飯が食えた試し、ないっす」
「くそっ!」
俺のパーティーは、誰も口を開かない。あの口の軽い妖精プティンでさえも。リーダーとしての俺の判断に委ねてくれているのだろう。
「まずはブッシュの提案を聞いてみることにしよう」
長老ボーリックの声に、ランスロット卿からも反対の声は上がらなかった。反対したらまた全員の反発を食らうからな。
「ほれブッシュ、話してみよ」
「わかった」
面々を、俺は見回した。
「俺達は、帰還の珠とマーカーストーンという、ふたつの強力なアイテムを所持している」
「つまり、ダンジョンの任意の場所にいつでも舞い戻れるし、最悪、即時撤退が可能ということだ」
ガトーが付け加えた。
「なにそれ、凄いじゃない」
エリンが目を見開いた。
「どうしてこっちのパーティーにはそれをもらえなかったのかしら。やっぱりリーダーの人望かしらね」
余計な一言で、ランスロット卿に睨まれている。
「それは俺達が、王女直属のパーティーだからだ」
「でもこっちだって、国王の命で組まれたパーティーなのに」
「危機感が違う。国王は、知ってのとおり、守護神消失については強い危機感は持っていない。いずれ自然に復活するという王立魔法院と科学院の見立てに乗ってな」
ガトーは続けた。
「だがタルト王女は違う。極めて危機的状況だと判断し、探索クエストチームに、最大限の扶助を与えた」
「なるほど。それが妖精加担と、そのアイテム二種ってことすね」
「そうだ、クイニー」
ガトーは言及しなかったが、国王がランスロット卿を信じ切ってはいなかったってのもあると思うわ。貴重なアイテムを渡して、これまでの蓄財と共に別大陸にトンズラされたら、国王はいい面の皮だ。
「ブッシュ、続けてくれ」
「おう、ガトー」
俺の手を掴んで離さないマカロンの頭を撫でてやると、俺は続けた。
「マーカーストーンがあるため、第一階層から最深部まで一気に攻略する必要はない。この次、第四階層は神の残存思念とかいう、厄介な敵が相手だ。今日はここ第三階層の出口領域にマーカーストーンを置いてマーキングし、第二階層まで戻る。そこで三時間のタイマー切れまで休憩して、地上に強制帰還する」
「その帰還の珠を使えば、一瞬じゃないすか」
「クイニー、こいつは一度きりの貴重な消費アイテムだ。王家にも、数えるほどしかない」
懐から出した帰還の珠を、ガトーは全員に提示した。
「今使うなんて、馬鹿だろ」
「そういうことなら、当然っすね」
肩をすくめた。
「ガトーの案はもっともだ」
俺は続けた。
「明日と明後日は休日とする。各人、疲れを取り、次戦への活力を養うんだ」
「あらブッシュ、いいわね。あんた、あたしらのパーティーにいたときより、別人みたいにたくましくなった。判断力もあるし」
エリンは微笑んだ。
「ならあたし、初日は毒矢用の矢じりと薬剤仕入れて、準備に当てるわ。二日目はおいしいものとスイーツ、お腹いっぱい食べておく。ダンジョンで満腹にすると、お腹裂かれたときに危険だからね」
「うむ、食物が大量に腹腔内に漏れれば、傷が腐敗して命に関わるからのう」
「三日目の朝、俺達は王都に集合して、ここ第三階層の出口フィールドに転送される。そこで第四階層攻略の方針を再確認しよう」
「今日は偶然だったから、みんなばたばただったものね」
ノエルが、俺を頼もしげに見つめてきた。
「前衛三人、スカウトふたり、魔道士ひとり、回復魔道士ひとり、それにティラミスさん……は回復系かな? あとマカロンちゃんと妖精プティン。とにかくこの十人での戦い方を、きちんと決めておく必要があるわよね」
「そういうことだ、ノエル」
「そうして第四階層に挑むというわけか」
「ああ」
「ひとつ訊きたい」
ランスロット卿が、冷ややかな瞳を向けてきた。
「ブッシュ、お前は、第四階層、そして第五階層と、最後まで私のパーティーの後をついてくるつもりなのか」
「最後まで、俺達は一緒に動く。第四階層だけでなく。……だが、ついてくるのはお前だ。勘違いするな。リーダーとしての判断は、俺が下す。あんたは前衛として、道中も戦闘中も、俺の判断に従ってくれ」
「なにっ!」
見る見る、額に血管が浮き出てきた。
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