4-A 新人剣士、クイニー参戦(ノエル視点)
★ノエル視点のアナザーサイドストーリーです★
ノエル:ランスロット卿パーティーのヒーラー。第一話でブッシュを助けてくれた娘。
「さて行きますかっ」
新人剣士クイニーが、長剣を高々と掲げたわ。そのままぶんぶんと、剣舞並に振り回してみせている。これ、私達に対するアピールよね、きっと。自分はこんなに剣が使えるんだという。
「やっ! どうです、俺の剣技は」
得意げに笑ってみせたわ。まだ二十歳と聞いている。たしかに若いけれど、なんだか瞳が濁ってる。長年闇の世界で過ごしたように。……ちょっと心配だわ。
「はいはい」
スカウトのエリンは、呆れた様子。
「さっさと入りましょ。新パーティー初めての日だけど、第三層くらいまでは進みたいし」
旧王都。王宮地下奥にぽっかり開いた穴。そこがダンジョン入り口よ。私達ランスロット卿パーティーが、ようやく見つけた新人剣士クイニーと一緒に、これから潜るところ。
「慌てるな新人。モンスターすら湧いておらんのに、剣など抜いてはならん。それにそんなに振り回すと、転んだときに自分を斬るぞい」
魔道士ボーリックが溜息をついた。
「着任早々、モンスター戦でもないのにノエルの回復魔法に頼ることになるなど、新人にあるまじき振る舞いじゃ」
呆れたように目を見開いているわ。
「のう、ノエル。お主は回復魔法に優れるとは言うものの、連発すればその日は枯渇するじゃろ」
「ええボーリック。そのとおりです」
「大丈夫っす。俺、そんなドジじゃないんで」
安物の長剣を、クイニーは器用に振り回してみせた。王命パーティーに入れたのが、よっぽど嬉しいのね。まだ二十歳、冒険者ギルドでも無名の新人だもの。気持ちはわかるわ。
「いてっ!」
って言ってるそばから、手が滑って剣を落とした。左腕の上に。落ちた剣が派手な音を立てると、凸凹の床から派手に埃が立ったし。長年放置されたダンジョン特有の、いがらっぽい埃の香りが周囲に広がった。
「言われたそばから」
呆れたように、エリンが腕を組んだ。
「ほらノエル。しょうがないから癒やしてやんなよ。マジ、子供じゃんまるで。男なんて、これだから……」
「今やります」
傷ついた左腕を私が取ると、嬉しそうに手を重ねてきたわ。
「ノエルさん、かわいいっすね。歳も俺より若いし、年増やじじいの繰り言はほっておいて、こっちはこっちで仲良くやりましょう」
一応、ひそひそ声にするだけの知恵はあるみたい。
「動かないで。傷が開く」
「あー効く効くぅ! ノエルさんの回復、マジ最高っす」
「本当にこんな奴でいいの、ランスロット卿」
エリンに醒めた目で見られ、ランスロット卿が唸ったわ。
「前衛は必要だ。……お前らベテランがカバーしろ」
「ブッシュのパーティー、今日は王宮で訓練らしいけど、明日からはここに潜るって話でしょ。なのに、こっちはこれとか……。先越されたら、いい面の皮だわ」
「黙れっ!」
ランスロット卿が、エリンを睨みつけた。
「公爵家の私が、下々の底辺などに負けるわけはない。ましてやあいつは、こちらについてこれず、この私が叩き出したクズだぞ」
「はあそうですか」
白けたような目つきだわ。
「もう止めたらどうかと王に追い込まれて、ブッシュを引き戻そうとしたくせに……」
「なんだとっ」
ランスロット卿は剣を抜いた。
「止めて下さい」
さすがに私も止めに入るわ。
「戦うべきはモンスターでしょ。こんなところで仲間割れしてどうするんですか」
「……くそっ」
「それにそもそも、ここは入り口ですよ。そこで揉めてる始末なのに、最深部まで進んでアーティファクトを手に入れられるとでも」
「ノエルの言うとおりじゃ。エリンも卿もそのへんにしておけ」
「ちっ」
ボーリックにたしなめられ、渋々といった様子で剣を収める。
「うわ、やっべ」
クイニーは呆然としてるわ。
「俺、もしかして超ヤバいとこ入った? ソッコー抜けたほうがいいかな、これ」
すがるように、私を見たわ。
「知らないわ。……でももう少し頑張ってみたらどう。あなたはギルドでも冒険者登録したばかりの新人なんでしょ。このパーティーで踏ん張れば、少しは名が上がるわよ。王命パーティーなんだし」
「っすよねー、やっぱ」
嬉しそうに、私の手を握ってくる。もちろん振り払ったけれど。
「俺、ノエルさんがいればいいや。もう少し我慢するっす。それに……」
意味ありげに、私を見る。
「それに、俺には別に目的もあるし……」
なんの気なしにスルーした。それがなんだか、このとき私はわからなかったし。でもそれが、後々大きな問題を呼ぶことになったのよ……。
●始祖のダンジョン第一階層をクリアしたランスロット卿パーティー。第二階層を前に、新人クイニーが、とんでもない正体と情報をノエルに明かす……。
次話「クイニーの正体」、明日公開!
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