モブ転生して妻子を養う「パパ活したら楽しい」説 ――ゲーム転生直後に追放され、異世界でも最底辺に転落した俺。勇者に成長する孤児を拾うと、美少女ママが付いてきた。よしきた俺は子供と家族のために生きるぜ!
2-B ランスロット卿パーティーの分裂(ノエル視点)
2-B ランスロット卿パーティーの分裂(ノエル視点)
★ノエル視点のアナザーサイドストーリーです★
ノエル:ランスロット卿パーティーのヒーラー。第一話でブッシュを助けてくれた娘。
「簡単ですよ。ブッシュをまた、仲間に入れるんです」
私の提案に、昼食のテーブルは重い沈黙に包まれた。ここが正念場ね。私、ブッシュのためにも頑張るわ。
「試しに戻してみましょう。それでパーティーの戦闘力が回復したなら、それはブッシュに未知の力があったという証拠になるもの」
「……」
「元からブッシュはなんの力にもなってなかったって、皆さんおっしゃいました。逆に言えば、入れてもたいした問題はないってことです。これまでだって一緒にダンジョン探索をしてきた。それで出た課題は、せいぜい『足手まとい』程度です。つまり毒にも薬にもならないと、皆さんお考えですよね。……なら再加入させても、大した害はないのでは」
「……」
「それにブッシュは明るい人。連戦で疲れ切ったとき、励ましてくれる姿が慰みにも――」
「――もうよい、ノエル。言いたいことはわかった」
手を振ると、ボーリックは私の話を
「わしはブッシュなど、屁の力にもならんと思う。……だがノエルの言うとおり、入れても大きな害がないのもたしかじゃ。ただ無能な足手まといというだけで」
仲間を見回し、ひそひそ声になる。
「お主らもそう考えるなら、試しに戻してみるか。どうじゃ」
「そうね……。一日だけ試してもいいし。それでもあたしらの苦戦が変わらないなら、また首にすればいい。簡単な話よ」
「俺達に損はないな」
「よし、決まりじゃ……」
ボーリックは、後ろを向いた。この店に入って、もう随分経っている。それでもまだのろのろ食事を続けているランスロット卿のテーブルに向かって。
「ランスロット卿、提案があるのじゃ」
「食事中だ。後にしろ」
けんもほろろだ。
「重要な案件じゃ」
「ふん……」
フォークとナイフを置くと膝の上のナプキンを取り上げ、気取った仕草で口を拭った。それから指で髭の形を直す。
「これだから下々の連中は……」
はあーっと、溜息を漏らす。
「食事のマナーくらい守れんのか」
顎をしゃくった。
「ほれ、言ってみろ」
「どうじゃろう。明日は探索中止で、この街におることだし、時間がある。話を着けて、あさってからブッシュをパーティーに戻しては」
「ブッシュ……だとぅ」
じろっと睨む。
「ブッシュがいなくなって、私達のパーティーは弱くなりました」
私もボーリックに口添えする。
「それなら戻せば、力が元に戻るのでは。実際――」
「生意気な口を利くな、ノエルっ」
怒鳴られた。
「お前は借金のカタではないか。貴族に意見するなど、百年早いわ」
「試しに入れるだけじゃ、効果が無ければまた首にすればよい」
「論外だ」
首を振っている。
「いいじゃないの、ランスロット卿。あたしたちの目標は、失われたアーティファクト入手。そのための、ただの作戦でしょ」
「エリン。ただの平民、しかも家族すら持てない底辺のブッシュに、この私が……貴族の私が頭を下げろと、こう言うのか?」
「頭を下げるとかではなくて、ただ――」
「黙れっ!」
ガタッと音を立てて立ち上がった。
「無礼者っ! 私は貴族の中の貴族、ランスロット公爵家の出身だぞ」
「……本家の
聞こえるかどうかの小声で、エリンが反抗する。
「傍流で落ちこぼれてたくせに偉そうに」
「なにか言ったか、エリン」
「いえ、なんでも……」
白けた空気が、周囲に漂った。
「めんどくせえ」
タルカスが、顎の無精髭をざりざりと撫でた。
「ただの実験じゃねえか。試せばいいだろ。アホらし」
「ランスロット家を愚弄するのか、貴様っ!」
テーブルクロスを力いっぱい引いた。食器が全部床に落ちて、派手な音を立てて割れる。食堂中の視線が、ランスロット卿に集まった。なんだなんだと、厨房からも何人か顔を覗かせている。
「あんたはそりゃいいだろうさ、ランスロット卿」
タルカスはランスロット卿を睨んだ。目が怒りに燃えているわ。
「あんたは戦闘のとき、前衛職のくせに重戦士の俺と並ぶわけでもねえ。はるか後方、女であるエリンのケツを見ながらコソコソやるだけのくせに。……でも俺はな、最前列で生きる死ぬだ。痛い思いは全部俺じゃねえか。少しはこっちのことも考えてはくれねえか、えっ貴族様よ」
「貴様っ!」
ランスロット卿は、長剣を抜き放った。刀身が青白い光を発する。普通の剣じゃない、特別なアーティファクトだから。
「それ以上の侮辱、許さんぞ。神さえ
「ほう、そうかい……」
タルカスは、ゆっくり立ち上がった。
「みんなが楽しく飲む飯屋で、無粋に剣なんか抜きやがって……。ご自慢の剣、先祖伝来でもなんでもなくて、没落した名家から分捕ったんだってな、街の噂だと。徴税逃れの
「ぶ、無礼者っ」
顔が真っ赤。ずばり、痛いところを突かれたからよ。
ぷるぷると、貴重な剣を持つ手が震えているわ。
それを見て、タルカスは背中の大剣を抜いた。
「どうしてもやりたいってのか、公爵家の隅っこさんよ」
嘲るような笑いを浮かべている。
「き、貴様っ」
ランスロット卿の声が裏返った。
「お、お前ら、私を守れ。金で動く、私の奴隷であろう」
ローブを掴むと、魔道士ボーリックを自分の盾にする。
「けっ、相も変わらず、卑怯な野郎だぜ」
タルカスが一歩踏み出す。
「ひ、ひいいーっ!」
ランスロット卿は腰を抜かさんばかりよ。
「よしなさい、タルカス」
私は思わず立ち塞がった。
「そんなことをしたら、あなたが損する。非がどちらにあるかじゃない。曲がりなりにも相手は今、王の命で動いている。無事では済まないわよ」
「ノエル……」
タルカスは微笑んだ。
「お前はいつも判断力があるな。その頭の切れに、俺達はこれまで何度も助けられてきた……」
ふっと緊張が解けると、大剣を背中に収めた。
「俺は抜けるぜ。こんな間抜けがリーダーなんて、命がいくらあっても足りないからな。俺の今週の俸給は、ノエルに贈与する。渡してやれよ、賄賂野郎」
ランスロット卿を睨みつけた。がくがくと震えたまま、ランスロット卿はなにも言い返せない。
「加入してすぐ、嫌な野郎とわかったぜ。でも桁違いに金払いが良かったからな。我慢してはきたが、もう終わりだ。重戦士にだって、ジョブ特有のプライドがある。俺達はどんなパーティーでも引っ張りだこだからな。あんたのパーティーだと、もう重戦士は入らねえだろうさ……。ま、せいぜい好きに攻略すれや、カス」
のしのしと、大股で出口に向かう。扉を開けたところで立ち止まり、振り返った。
「ボーリック、エリン、そしてノエル。お前らの無事と栄誉を重戦士の祖霊に祈っておいてやる。……あと、ヒゲの臆病者は死ね」
言い捨てると、昼の陽光に姿を消した。怒りと恐怖で手の震えが止まらないランスロット卿を、後に残して。
残された私達は、冷え切った空気のまま、解散となった。ランスロット卿は、冒険者ギルドに次の前衛職をリクルートに行くみたい。
嫌な気分のまま歩き始めた私は、食堂脇の路地から声を掛けられた。汚れ切ったスカウト服、目つきの鋭い男に。自分の名前はガトーだと、男は名乗ったの。
●明日公開の次話から、新章「第三章 新米パパ、王女に泣いて頼まれる」入り!
マカロンやティラミスのためにパパタナシューとの決闘に勝ったブッシュ。だが決闘時の怪我のため、厨房の下働きはできなくなってしまう。そんな彼のために旅籠亭主サバランは、厨房作業からブッシュを外し、買い物を託す。だが買い物に出たブッシュを、意外すぎる人物が待ち構えていた……。
次話「掃き溜めに鶴、下町に王女」、明日公開!
●あと業務連絡
当方は章単位で執筆して推敲後に公開するやり方を取っています。
第3章は全7話。執筆済みで推敲中の第3章全話を、サポーター限定近況ノート欄にて先行公開しました。推敲中のものなので、いずれ公開する本番と多少変わる可能性がありますが、執筆のライブ感を楽しむコンテンツとしてお楽しみ下さい。コメントも大歓迎です。また、全話公開済みとなった第2章先行公開分は、全話削除しました。
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