モブ転生して妻子を養う「パパ活したら楽しい」説 ――ゲーム転生直後に追放され、異世界でも最底辺に転落した俺。勇者に成長する孤児を拾うと、美少女ママが付いてきた。よしきた俺は子供と家族のために生きるぜ!
2-A ランスロット卿パーティー、最悪のランチ(ノエル視点)
2-A ランスロット卿パーティー、最悪のランチ(ノエル視点)
★ノエル視点のアナザーサイドストーリーです★
ノエル:ランスロット卿パーティーのヒーラー。第一話でブッシュを助けてくれた娘。
「くそっ!」
忌々しげに、重戦士タルカスがパンを食堂テーブルに叩きつけた。大きな音がしたから私、思わず体を縮めちゃった……。
「おいおい。そういきり立つな」
メイジのボーリックが、呆れたように手を広げてみせたわ。
「ノエルが驚くぞ」
私を見て笑っているわ。
「いえ、私は平気です」
「それはなにより。じゃがいずれにしろ、ランチの味が落ちるわい」
「ふん……」
不満げに、タルカスがボーリックを睨む。
ブッシュが抜けて二日目。ランスロット卿のパーティーは、今日も調子最悪。いつもなら瞬殺の雑魚に手間取り怪我人続出する始末だもの。誰の目にも異変は明らかだからみんな、ぴりぴりしてるわ。
結局昼前に探索を諦め、旧都遺跡からボーリックの空間魔法で王都に戻ってきた。今、全員で昼食にしているところよ。今日はこれで解散し明日一日を休日にして休養を取り、明後日から探索に復帰すると、ランスロット卿に告げられたの。
「ノエルはいいよな。後ろのほうでちまちま回復だけしてればいいんだからよ」
タルカスに見つめられた。
「ごめんなさい」
とりあえず謝っておくわ。回復魔法を失敗したわけでもないし、戦闘での怪我は、別に私が悪いわけじゃない。でも前衛職が辛いことは、よくわかるしね。パーティーメンバーのメンタル面ケアだって回復魔道士の大きな役目だと、私は思ってる。
「最前線の俺だけじゃないかよ、痛い思いをするのは」
「仕方ないでしょ、あんた重戦士なんだから」
スカウトのエリンは、野菜のスープをせっせと口に運んでいる。彼女は野菜が好きなのよ。もともとスカウトは野山を駆け巡るジョブ。密命を帯びた長期遠征とかだと、いちいち獣を狩る時間がなかったりする。すぐ採れる木の実や果実、草木といった植物食は、身に付いたスキルも同然だから。
「嫌ならジョブチェンジしたら、メイジとかに。……まあ脳筋のあんたに、メイジなんか務まるわきゃないけど。あははっ」
「ちっ」
まだぶつぶつ言っているわ。
「リーダーはリーダーで、気取った飯なんか食いやがってよ。仲間と一緒のテーブルで、飯も食えないってか。クソ貴族野郎が」
「あら……」
エリンが含み笑いする。
「聞こえちゃうわよ、タルカス」
「知るか」
このテーブルで食べているのは、私、エリン、ボーリック、タルカスの四人だけ。パーティーリーダーのランスロット卿は、横の上質なテーブルを、ひとりで独占。優雅な手付きでコース料理を堪能してるの。あそこは貴族席。私達庶民は座ることすら許されないから……。
「また怒鳴られるぞ、タルカス。お主は昨日今日と、卿にどやされてばかりではないか」
「ほっとけ。お前こそちゃんと詠唱しろ。
「なんじゃと……」
「実際そうだろ。今日だってお前の魔法、威力半減だったじゃねえかよ」
「たまたまじゃろう。どんなモンスターにも、種族の固有値を大きく外れる個体はおる。強い方向に上振れしたモンスターに遭遇することなど、過去にもあったことじゃ」
「偶然だと……」
睨んだ。
「昨日も言ってたけどお前、出遭うモンスター、全てが上振れとか、あり得るのかよ。しかも二日も続けて」
「そこは……」
悔しそうに、ボーリックは溜息をついた。
「……たしかに」
「まあまあ。タルカスのステーキ、おいしそうじゃん。それ食べて機嫌直したら」
「そもそもエリン、お前だってダンジョンで方向間違えたろ」
「たしかにそうじゃのう」
「それは……」
木のスプーンを置くと、エリンは唸った。
「地下ダンジョンなんて、見た目変わらないからね。くねくね道を辿り、何度も右だの左、時には斜め右手前とか曲がってみなよ。忘れるって。……しかも間に戦闘が入ったりもするからね」
「居眠りでもしておったのじゃろう」
「違うわよ、じいさん。あんたこそ足腰弱ってるから、やたらと転ぶし」
「もう一度言ってみよ……。なんならここで術式を起動してやろうか……」
「せいぜい、舌噛まないようにね」
ぷいっと、エリンは横を向いてしまった。
「ちっ……」
テーブルに沈黙が降りた。この調子で、この二日、やたらと口争いとか喧嘩が多い。パーティーのギスギス、極まれりだわ。ランスロット卿にしてからが、仲間に気遣ってねぎらうどころか、一緒になって怒鳴り合ってるし。雰囲気最悪。
「思うんですけれど……」
蜂蜜パンのサンドイッチを置くと、私は切り出した。
「この苦境、やはりブッシュを追い出したからでは」
「それはもう、昨日検討したじゃろ。あやつは無能。いようがいまいが変わらん」
「行軍速度が落ちない分、いないほうがマシまである」
「休憩の間もつまらない親父ギャグ飛ばすから、あたしも割と閉口してたし」
「でも……、ブッシュが居なくなった瞬間から、私達のパーティーは弱くなった。それも劇的に。それは皆さんも感じているでしょう」
「まあ……」
いやいやといった様子で、ボーリックが頷いた。
「外形的な事実としては、たしかにそうじゃ」
「でも理屈が通らないじゃない」
「エリン、世の中には複雑に絡み合う因果関係というものがあるのじゃ。実際わしのようなメイジは、空間に漂う魔素、つまりマナからそうした因果関係のようなものを紡ぎ出し、術式として効果を得ておるわけで……」
「でもボーリック。あんたもさっき、ブッシュなんか関係ないって言ってたよね」
エリンが睨む。
「言ってることが矛盾してるし」
「だから、そういう『可能性』はあると言っておるのじゃ。……ただ、蓋然性がない」
「可能性とかガイゼンなんちゃらとか、うるせえなあ。もう首になった奴のことなんか、今更どうでもいいだろ」
タルカスがまた、皿を叩いた。
「それですけれど……」
私は、パーティーを見回した。もう全員、食事は終えた。茶だの酒だので余韻を味わっているタイミングだから、切り出し時だわ。
「皆さん、ブッシュの影響もありうるとは、内心感じていますよね」
「……蓋然性はない」
「関係ない」
「居なくなってせいせいした」
王命パーティーに参加するくらいだからみんな腕が立って、プライドも高いの。強がっているわ。けど表情を読む限り、私の説にもある程度、理解は示してくれているみたい。だって私達は初心者じゃあない。あちこちの戦場で、各人それなりに修羅場を潜って今、ここにいる。感情として納得はできなくても、戦略としてどうかはまた別。――そのことはわかっているはずだもの。
「なら、苦戦の原因とかブッシュが無能とかは、いったん考えるのを止めましょう」
「……止めてどうするのじゃ」
疑い深げな瞳だ。
「簡単ですよ。ブッシュをまた、仲間に入れるんです」
私の提案に、昼食のテーブルは重い沈黙に包まれた。ここが正念場ね。私、ブッシュのためにも頑張るわ。
●ノエルの提案は仲間にインパクトを与えたが、思わぬ波紋を巻き起こしてしまう。
次話、明日公開。
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