4-2 マカロンとティラミスの取扱説明書
「パパ。あたし、剣と魔法がいい」
おいおいマジかよ。お前、まだ五歳かそこらだぞ……。
さすがは主役。王道だわ。
「そうか。……よし」
頭を撫でてやった。マカロンはにこにこ顔だ。
「なら長剣をもらおう」
「ブッシュ……、おめえがパパ……だと」
仕事忘れて絶句してるな。そりゃそうか。女っ気の無かった底辺冒険者がいきなりパパとか呼ばれてたらな。
「俺の隠し子だ。気にするな」
「お、おう……」
目を白黒してやがる。説明は面倒なので、とにかくそういうことにしておく。
「あとな、長剣をもらうといっても、子供だ。子供が長剣とするのにちょうどいいサイズ……そう、長めの短剣がいいだろう。絶対に、いいか絶対だぞ、特別に軽い奴をくれ。まだ子供だけに筋肉はない。重い剣だと、振り回した慣性で自分を斬りかねないからな」
「そりゃ当然だな」
マカロンの体型を見て、しばらく考えていた。
「……ならレイピアはどうだ。刀身が細いから軽い」
「いや、刺突用でなく、撫で斬りできる剣にしてくれ」
主役王道だからな。
「ではこちらも魔法剣。ちょうどいい奴がある。刀身が細い上に、軽量化魔法が施されていてな。本来ならどえらく高価なんだが、なんせ長剣でもない短剣でもないとサイズが半端すぎて、長いこと売れ残っている。だからセール価格にしてやろう」
「助かる」
「後は、魔力を補填する装備だな」
カウンターから遠目に指を当て、マカロンのボディーバランスをチェックしている。
「なら防具だ。ガキだと、なかなか合うサイズはない。……少なくとも金属や革の鎧は。だから布。本来なら魔力を高める魔導ローブがいいんだが、剣も使いたいってオーダーだ。だから動作の邪魔にならない、シャツ的な奴がいい。破れて返品された魔導ローブがあるから、あれを分解して戦闘用の上下シャツに仕立て直してやろう」
「そいつはいいな」
「おうよ。ミスリル繊維も織り込まれた布だから、ちょっとした斬撃や刺突なら防いでくれる。魔導ローブ同様、もちろん魔力増幅効果がある」
「その布は、トップクラスのスカウト装備でも使う。いい品だ」
ガトーが口を挟んできた。プロが言うなら、間違いない。
「子供用に仕立て直すんで、破れ目のところをうまいこと捨てられる。後で採寸しよう。超特急で仕上げるから明日、取りに来い」
「わかった」
「それと魔法の指輪とチョーカー。魔道士ならこのふたつは外せん。……ガキでもサイズ関係ないし。小指用の指輪があるから、それを親指に着けさせろ」
「そうする」
「次はそこの女の子だな」
「ああ。ティラミスだ」
マカロンも女子なんだが、やっぱりわからなかったか。……まあ俺だって風呂入るまで男と思い込んでたから、当然ではある。近づいてよーく見ると、かわいい娘に育つ片鱗が、もう見え始めてるんだけどな。
「私は、魔法の杖がいい」
自分でてきぱき決めてるな。なんというか、ティラミスは大人しくて一歩引いたところのある子なんだけど、今回のダンジョン行きに関しては、割と主張してくるな。意外に真のしっかりしたところがあるのかも……。
「おう嬢ちゃん、任せとけ。あんたのサイズの杖、それに指輪にチョーカーな」
そうか。知らんかったが、ティラミスは魔道士系統か。てかこの世界って、普通の人間でも魔法適正あるんかな。……同じ世界観のアニメ観た限りだと、魔道士になるには生まれつきの能力か、厳しい修行、どちらかが必要って説明だったけど。
「防具はどうする、ティラミス。魔導ローブでいいのか」
「私もマカロンと同じ、動きやすいのにして、ブッシュさん」
「わかった。希望通りにしよう」
「そうか……」
装備屋が唸った。
「ならこっちも仕立て直しだ。さすがにもう破れたのはないから、そこまで安くはできんが」
「頼む」
「後はなにかあるか」
「ガトー、あんたはどうする」
「俺はいらん。自前で全て揃っている」
首を振っている。それもそうか。王女の密偵なんだ、そりゃそうだな。底辺社畜改め底辺冒険者改め底辺丁稚改め底辺パーティーリーダーとは、訳違うわ。
「わかった。……プティン、お前は」
「ボクは妖精だし。ブッシュったら……。ぷぷっ」
笑われた。
「装備なんていらないよっ。常識じゃん」
「ああ……そうだったな」
適当にごまかす。いや知らんし。アニメに妖精出なかったし。小説なんか冒頭しか読んでないし。
「じゃあ、これで全部だな。ちょっと待て、計算する」
テーブルに小石をざっと広げると、てきぱき右左上下と移動させたり戻したりしている。あれかなこれ、異世界のそろばんみたいなもんかも。
「このくらいだ」
テーブルの上を見せてくれたが、さっぱりだ。右の石が十五個、左が三個。間のあちこちにいくつか散らばっている。
「おう、安……高いな。少しはまからんか」
わからんが、とりあえず値切ってみる。
「はあ? このバーゲン価格を見て言ってるのか」
信じられないといった顔。
「それでいい」
ガトーが口を挟んできた。
「後で使いの者に金貨を持たせる」
「おっ話がわかるな」
ほくほく顔だ。
「ドケチブッシュとは大違いだ。……ちなみに払いは、ディナール金貨か」
「いや、全部リヤール王金貨だ」
「マジかよおい。混ぜものの無い奴じゃんか。戦いで魔王軍が優勢になった最近では、めったに見ないってのに」
なんやら知らんが、大喜びだ。
「あんたがブッシュの金主だな。どこの誰かは知らんが、今後ともご贔屓に頼む」
もうコメツキバッタかよってくらい、ぺこぺこ頭を下げてやがる。さすがは商人、現金なもんだ。
……それにしても、ガトーは知られてないんだな。王女の命を受けて動くスカウトだけに、王都に常駐はせず、始終旅して回ってるって話だったし。だから王都でも、ほとんど知られてないわけか。なるほど。
●次話は試験的に本日夜公開、1日2話公開にします●
●王女からクエストを受けたブッシュは、サバランの宿屋に帰る。今日からずっといっしょだという妖精プティンを伴い。だがプティンは、想像を絶するほど口が軽かったw 次話「妖精プティン、口が軽い」、本日夜公開!
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