第四章 新米パパ、ダンジョン装備で子育てする

4-1 装備調達

「おう、ブッシュじゃえねか」


 隅のカウンターで、太った親父が書類から顔を上げた。ここは冒険者御用達のなんでも屋。アーティファクト探索に備え、装備を買いに来たところだ。


「おめえ、ランスロット卿のパーティーをクビになったんだってな」


 メガネの奥から、俺を検分するかのように睨む。


「まあ遅かれ早かれそうなるってのが街の噂だったがよ。それがお前の実力だ。……とはいえ、それにしては昨日なぜか、飯屋で派手に男を上げたらしいじゃえねえか」


 不審げに、メガネの位置を直す。


「どうにもわからん。俺にはいつもどおり、弱っちい短剣遣いにしか見えん」


 なんだなー。上書き転生させてもらった立場で言うのもなんだが、ブッシュって、マジ底辺冒険者だったんだな。まあ中身俺が底辺社畜だったから、お似合いかもしれんが、それでもなんだか情けなくて泣けてくる。


「それに短剣や防具はどうした。裸も同然だな、おめえ」


 そりゃあな。キャッチバーにとっつかまって身ぐるみ剥がれたからな。恥ずかしすぎて話せないけどよ。下着じゃなく、サバランのところで古着もらっただけ、これでもマシなほうだぞ。


 ……まあ冒険者の身なりとはとても言えんが。どう贔屓目に見ても、底辺の丁稚でっちといったところ。底辺社畜>底辺冒険者>底辺丁稚とか、さすが俺。華麗なジョブチェンジ歴だわ(泣)


「だから来たんだよ。武器と防具を一式揃える」

「金ねえだろ、おめえ」ゲラゲラ


 大笑いされてるな。


「大丈夫だよっ」


 俺の胸から、妖精プティンが飛び出した。頭の周りを一周すると、ちょこんと肩に腰を下ろす。


「お金はおうじ……じゃないか、宝くじに当たったからね、ブッシュは」


 俺達は隠密パーティー。失敗する可能性も高いから、王家の名誉を守るために、王女の庇護にあることは内緒なんだと。じいに口酸っぱく言い含められたわ。


「なんだ、それ妖精じゃねえか」


 目を見開いてるな。


「なんでおめえみたいな底辺とつるんでる。妖精なんて使役できるのは、よっぽどテイムスキルがあるか、古来から妖精界と繋がりのある名家くらいだぞ」

「いろいろあってな」

「それに……宝くじだとぅ?」


 メガネの奥で、眉を吊り上げてやがる。だが、俺に続いて入ってきたガトー、それにティラミスとマカロンを見ると、目を見開いた。


「ブッシュ、おめえの連れか」

「まあな」


 あからさまに訳有り空気の三人を見て、首を振ってやがる。


「なら……まあいいか。俺はなんも聞かなかった。それでいいな、ブッシュ」

「ああ。それで頼む」

「どうやら厄介事だ。巻き込まれるのはごめんだからな。機械のように注文だけをこなすことにする」


 そりゃあな。追放された底辺&金欠冒険者が、目つきの鋭い切れ者スカウトに謎の妖精、おまけに子供ふたり連れて装備をガッツリ買いに来たら、そう思うのが当然だ。


「……で、なにを買う」

「俺の装備一式。あと……」


 ティラミスとマカロンを呼び寄せると、肩を抱いた。


「このふたりの分も」

「子供だぞ! なにをさせるってんだ」


 機械に成り切ると言ってたくせに、さすがに驚いたか。


「戦いの前面には押し出さないよ。ただのチュートリアルだ」

「訓練させるわけか。……まあ、ガキの頃から剣を振ったほうが、最終的に伸びるのはたしかだ。なにしろ――」

「まずは俺から始める。短剣に長剣、それに軽くて効果の高い防具が欲しい」

「長剣か……」


 長丁場になりそうなのを遮ったせいか、じろっと睨まれた。


「短剣遣いのおめえに振り回せるかな。……重いぞ」

「だから特別に軽い奴がいい」

「素材で軽くするなら、ミスリル製がある。だがこいつはとてつもなく貴重で高い。ウチにも一本しかない。なんでも伝説のハイエルフ、イェルプフが使っていたとかいう、由来付きの奴。……いくらなんでも買えんだろ」

「どうかな……」


 横目でちらとガトーを見た。スカウトは微かに首を振っている。


「うん、無理なようだ。……他にないか」

「ならブッシュ、魔法で擬似的に軽くした鋼鉄製でどうだ。ただし、持ち歩くときは普通にはがねの重さだ。戦闘時に限って、ミスリルかってくらい軽く振り回せる。値段もそこそこ。コスパに優れたお値打ち品だ」

「ではそれをもらおう」

「次に防具だな。効果の高い防具だとプレートメイルとかになるが、重い。重戦士ならともかく、お前には向かない。短剣遣いとしてのせっかくのアジリティーの高さを、潰すことになるからな。だからこちらも、魔法で強化された軽量革防具がいいだろう。高価ではあるが、どうやら今日のお前さんは、金を持ってそうだし」


 微かに、苦笑いを浮かべた。


「いいな。出してくれ。サイズが合うか試着する」

「よし。短剣も優れた奴を見繕っておく。あと、長剣と短剣を装備するための腰ベルトは、サービスで付けてやろう。……おうそうだ。ちょうど昨日、いい革グローブが手に入った。あれもおまけに付けてやる。いいグローブを使わんと、乱戦のとき血でぬるぬるして、剣を落とすからな」


 微笑んで。


「そうなりゃ、おめえは死ぬ。……どうやら訳ありパーティーだ。そこの妖精や子供を泣かせたくはないからな、俺もよ。特におめえは短剣遣い。長剣のあしらいには、まだ慣れてないだろうし」

「助かる」


 さすがプロ。さっきまでなんのかんの言っていたが、商売が始まると頼りになるわ。


「次は、この子だ」


 ひととおり俺の装備を揃えてから、マカロンの頭を撫でた。


「ガキか……」


 親父が唸る。


「どういう方向に育てるんだ。戦士か魔道士か。それとも賢者か」

「そうだな……」


 しゃがむと、マカロンの顔の高さに合わせた。


「マカロン、お前はどうなりたい」


 なんせ後の勇者だ。本人に最適の方向に伸ばしてやりたいしな。


「パパ。あたし、剣と魔法がいい」


 おいおいマジかよ。お前、まだ五歳かそこらだぞ……。



●マカロン、そしてティラミス。孤児ふたりは意外にもガチ戦闘装備を望む。ふたりの希望を叶えようとブッシュは……。

次話「マカロンとティラミスの取扱説明書」、明日公開!

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