第8話 追憶

 紅い鳥の趾に三歳くらいの幼児が捕まっている。鳥は大きく天空へ羽ばたき、子供は無邪気に燥いでいた。青々とした木々が眼下に広がり、山も川もどんどん遠くへ離れて行く。このままもっと遠くへ、空の彼方まで飛んで行って、母と共に過ごしたあの家に帰れるのだと子供は期待していた。家で母が待っている。だから迎えに来てくれたのだと思っていた。雲に似た白髪が風に靡き、空を映した碧眼は大きな鳥の羽が雨の様に降るのを見て戸惑った。

「どうしたの?」

 苦しそうに羽根をばたつかせ、やがて真っ逆さまに地面へ向かって落ちて行く。朱い鳥の羽が抜けて鳥の姿が女の人に変わると、幼子は優しく女の人の頭を抱き締めた。

「美奈……?」

 地面に叩きつけられる寸前で女の背中に大きな羽根が現れ、羽ばたいた。草木を薙ぎ払いながら地面に転がると、子供は女の様子を伺った。片翼は折れ、もう片方は無惨に千切れている。その傷口から黒い血が滴ると、子供は思わず傷に手を伸ばそうとした。

「お逃げなさい」

 聞き覚えのある優しい声に子供は首を傾げた。いつも自分の面倒を見てくれた従者の顔を見ると、口から黒い血を吐き出している。

「何処か悪いの?」

 子供が手を差し出すと、女は手荒く弾いた。

「美奈……」

 不意に女の手が子供の喉を挿した。女の手は人のそれとは違い、まるで雉の足趾の様に鋭い爪が子供の柔らかい肌に突き刺さっていた。それを目の当たりにした女の目から黒い涙が溢れて頬を伝った。

「いやだ……」

 女の微かな声で、子供は女の手を両手で握った。段々元の人の手に戻っていくと、子供はにっこりと笑った。

「大丈夫。治してあげるよ」

 子供のあどけない表情に女は目を細めた。何か言いたそうに唇を動かすが声にならない。不意に彼女の心臓を刀が引き裂くと、女の口から黒い血が再び溢れた。吐き出した黒い血が幼い子供の額を濡らす。女が悲鳴を上げると、その口を男の手が塞いだ。女の胸から黒い血が吹き出し、女の体が小刻みに痙攣する。子供の白い衣が黒く染まり、手を伸ばそうとすると不意に襟首を掴まれ、引き離された。

「美奈!」

 男が刀を引き抜くと、倒れかけた女の体を支える様に抱きとめた。彼女の虚ろな瞳に碧い澄んだ瞳が映っている。男の頬に手を伸ばしかけると、女はゆっくりと深呼吸を繰り返した。

「聡……」

 女はゆっくりと呟くと男の胸に顔を埋めた。

「……愛してる」

 意識が朦朧としていたのか、女はそう呟いて全く動かなくなった。子供が女に手を延ばそうとするが、襟首を掴まれたまま動けない。

「そいつを屋敷の柱にでも縛り付けておけ」

 美奈の屍体を抱いたまま、男は足早にその場を立った。その後を追おうとするが、やはり襟首を掴まれたまま後ろへ引き摺られて行く。子供は暫くじたばたしていたが、程なく何の抵抗もしなくなり、何も喋らなくなった。

「美奈、賢兄を聡兄と間違えたのかな?」

 一人が瑠璃鳥の囀りを耳にして不意に口を開いたのは、兄弟の中で上から五番目の零だった。道なき道を歩いていた二人は背格好がよく似ている。けれども子供を引き摺っている方は少しばかり背が高かったのは、零の一つ上の兄だからだろう。

「さあ? どうでもいいです」

 燗は興味が無さそうに呟き、森を抜けて泉に出ると水の中へ子供を放り投げた。子供の身体についた黒い血が、まるで油の様に水の上に浮かぶ。

「燗兄!」

「この状態で連れて帰ったら説明が面倒です」

「はあ? 高天原でこいつの世話をしていた美奈が……」

「連れ去って殺そうとしていたから賢兄が止めを刺したって、聡兄に言える?」

 燗の鋭い眼差しに零は眉を潜めて顔を背けた。

「兄貴の嫁を、弟が殺しましたって零は言えるの?」

「けどそれは、天司神のせいで……」

「禍獣にされて自我を失いかけていました。酷な話しだな。僕だったら黙っている」

 燗の言葉に零は苦虫を噛み締めた様な顔をして泉に入った。

「賢兄もそうすると思う」

 零は水の中から何の抵抗もしない子供を引っ張り上げた。

「俺は、ちゃんと言うべきだと思う」

 零の言葉に燗は睨めつけた。

「美奈の最期の言葉、聡兄に向けての言葉だと思う。だから……」

「それで聡兄と賢兄が喧嘩にでもなったら責任とれるの?」

 燗の言葉に零は瞳を泳がせてから俯いた。

「それは……」

 言葉に詰まって零が困り果てると、燗は呆れた様な顔をした。

「お前は何も言うな。そいつが勝手に転んで谷にでも落ちたのを俺達が見つけて帰って来た。それで良いだろ。変な正義感だの、真実だのに拘って、兄弟に要らない亀裂を生ませるな」

 燗がそう呟いて歩き始めると、零は子供を背負った。目は薄っすらと開いているが、気を失った様に身体に力が入っていない。

 屋敷へ帰ると、上から三番目の兄、珊が驚いて引っ手繰る様に子供を家の中へ入れた。

「何やってるのよ! びしょ濡れじゃない! 燗! お湯沸かして! 零も着替えなさい。風邪引くわよ」

 理由を聞きもせず、そう指示を出す兄に燗と零は一度視線を交わせたが、何も言わなかった。珊は子供をお湯で洗うと、傷の手当をして新しい衣を着せた。何の反応も無い子供の様子に珊は首を傾げた。

「何があったの?」

 珊の問い掛けに燗と零は目語を交わした。

「そいつが転んで崖から転げ落ちたんだよ」

「あなた達がついていてこの体たらくなの? 信じられない!」

 珊の言葉に零が見捩りした。

「そいつが鈍臭いの。僕たちのせいじゃない」

「燗は賢兄と一緒に家を出た筈よね?」

「延と交代した。疲れたから部屋で休ませてもらう」

 燗が淡々と応えるが、零はまだ本当の事を話すべきではないかとそわそわしていた。元々、嘘が苦手な性格ではあった。

「珊兄……」

 零が口を開くと、燗の睨みに気圧されて縮こまった。

「その……俺がちゃんと見てなくて……ごめん」

 零が頭を下げると、珊は溜息を吐いた。

「いいわ。坊やは私が看てるから」

 珊はそう言うと、子供の傍に座り込んだ。体を丸めて横になっている子供に夜着を掛けるが、身動き一つしない。珊が優しく頭を撫でたが、それにも反応は無く、子供の瞳は虚ろだった。

 それから長い間、子供は何もしなかった。喋らないし、声を上げて泣くこともしない。日がな一日ぼうっとして、食事も一切摂らなかった。代わる代わる兄達が声をかけていたが、そのどの言葉にも反応は無かった。

 瑠璃鳥が小さな花を嘴に啄んで子供の掌の上に置いた時、やっと微かに子供の手が動いた。

「……くれるの?」

 子供の両目から涙が溢れたが、それも直ぐに止まってしまった。心に深い傷を残したまま、子供は青年になっていた。



 木漏れ日が差していた。心地よい風が白い前髪を攫っていく。風に揺られて草木が話をしている様だった。肩で羽根を休め終わった鳥が羽ばたいて行った。向こうの丘の老樹が水を吸い上げられなくて苦労している。そっちへ雨雲を寄せて雨を降らせてやると、恵みの雨だと喜んでいた。急な雨に驚いた虫達が飛び跳ねると、雨粒を小さくして霧に変えてやった。他の兄弟からは彦と渾名で呼ばれていた。

 山の中腹から谷を覗くと、何か黒い蛇の様なものが川下から上がって来るのが見えた。木や石を薙ぎ倒し、黒い血を吐きながら悶え苦しんでいる。近付いて見ると、蛇ではなく小柄な龍だった。体中傷だらけで穢をそこここに撒き散らしながら龍がのたうち回っている。他の森に住む動物達が怯えて逃げるのを見て龍を捕まえた。弱っていたのか、直ぐに大人しくなった。龍を抱えて自分の屋敷へ戻ると、彦よりも背の高い男が目を丸くして、彦と気絶した黒い龍とを見返した。萌葱色の着物には金瘡小草があしらわれていた。

「今度は何を拾ってきたの」

「龍です」

「そういうことではないよ、どうするのそんな……って話が終わってない!」

 説教を後目に自分の部屋へ龍を置いた。鱗が黒い石の様になっていて穢に侵されているのが解った。このまま穢れに侵されて死んでしまうのだろうと思っていたら不意に龍の尾が動いた。尾を床に叩きつける度に黒い鱗が剥げ落ちた。傷口から黒い血が吹き出すのを見て可哀想に思った。

「落ち着いて……」

 目から黒い血が溢れていた。瞼が開かないので目が見えていないのだろう。耳からも黒い血が出ているからこちらの声は聞こえていない。咄嗟に耳の穢れを取ろうと唇を近付けた。苦くて舌に刺激が走る。暴れる龍の身体を押さえつける様に馬乗りになった。右耳の穢が取れると今度はそのまま右目に唇を這わせた。穢れが取れて龍が右目を開けると、真っ黒な瞳に、白髮に碧い瞳の自分の姿が映った。龍の動きがまるで岩になった様に動かなくなり、大人しくなっていた。

「落ち着いた?」

 龍の顔が段々十三、四歳くらいの少女の姿に変わった。黒い角が解けて長い髪になり、鱗が皮膚に沈む様に溶けて行った。少女が恥ずかしそうに胸を庇うのを見て上着を掛けてやると少女から少し離れて様子を伺った。不健康そうな青白い肌をしている。

「大丈夫?」

 少女は何も言わずに顔を背けた。口も訊けないのかと思って少女の頬をそっと掴んだ。少女の唇に自分の唇を重ねると、少女の頬が熱くなるのが解った。

「離して!」

 雲雀の様な声が部屋に響いた。

「それだけ元気なら大丈夫そうだね」

 怯えている様だったので部屋を出た。さっき玄関先で会った男が不満そうな顔をしていた。

「全く……この間、怪我をした野うさぎを拾ってきて怒られたばかりでしょう……」

「珊兄さん、お願いがあるのですが……痛み止めを作っていただけませんか?」

「怪我をしたの?」

 珊が心配そうに問い質すと、彦は少し笑った。珊が慌てて踵を返すと、板張りの廊下を足早に歩いて行く。直ぐに戻って来ると碗と匙を差し出した。

「取り敢えず今あるのはこれだけ。薬草を取ってくるからこれ飲んで寝てなさい」

 珊はそう言うと飛ぶ様に垣根を越えて行ってしまった。彦はそれを見送ると御簾を開けて部屋に戻った。

「兄にお願いして薬を作っていただきました」

 そう言って少女の傍に腰掛けると、匙で薬を掬って差し出した。少女が顔を背けると、彦は薬を自分の口に入れた。

「毒なんか入ってませんよ。痛み止めです。少し苦いですけど」

 にこやかに説明すると、もう一度彦は薬を掬って少女の唇に近付けた。少女が少し口を開くと、そっと少女に食べさせる。彦が微笑むと少女は再び顔を背けた。

「ここに置いておきますね。ゆっくりで構いませんから召し上がって下さい」

 そう言ってまた部屋を出た。何があったのか解らないが、まだ警戒されている。少しでも早く彼女の身体から穢れの元を取り出す必要があった。彦の脳裏に幼い頃見た美奈の姿が彼女と重なった。

 どうすれば良いだろう……?

 野うさぎは草をやったら懐いてくれた。鳥は木の実を、魚には蚯蚓を、鼬には魚を……彼女には何をあげたら心を開いてくれるだろうか?

 不意に幼い頃、瑠璃鳥に花を貰った事を思い出した。花には心を丸くする不思議な力があるのだと思った。それで庭先に咲いている花を一瞥した。ここの花が咲いて枯れていく様を何度も見た。花の種が落ち、また芽が出る度に水をやった。今朝やっと開いた花を一つ摘み取る。こっちに降りてから頭痛に悩まされていたが、この花の根でよく癒やして貰った。彼女の心の痛みも解してくれることを祈って部屋へ戻った。

「名を、聞きそびれてしまいました」

 独り言の様に少女の声が聞こえた。

「名は無いのですよ」

 縁側に腰掛けていた少女に声をかけると、少女は驚いた様に振り返った。

 徐ろに少女に近付くと、大輪の牡丹の花を差し出した。彼女の頬が赤くなり、瞳に光が差すのを見てほっとしたのだが、少女はそっと顔を背けた。

「花を手折るなんて、心無い方ね」

 少女が呟くと、彦は残念そうに目を伏せた。

「……気を悪くしたならすまなかった」

 持っていた花を後ろに隠した。いたたまれなくなってその場から離れると水瓶に水を入れてそこに牡丹の花を差した。

「……すまない」

 この花は自分が手折らなければ実を結んだだろう。種が出来てまた新しい花を咲かせてくれただろう。けれどもそれは幾つもある花の中の一つで、風に薙ぎ倒されて実を結べなかった花も、虫に食まれて枯れてしまった花も有ることを知っていた。それでも、土へ還ればまた他の花々の糧になることも知っていた。だから一つくらい自分が手折った所で、命の循環を冒したわけではないのだから気にする必要は無いのだが、彼女はこの一つの花にさえ憐れと思ったのだろう。否、嬉しそうに瞳を輝かせたから、態とそう言ったのだろう。何故、そんな態度をとられたのか解らなかった。良かれと思って手を差し伸べた。苦しそうだったから少しでも健やかであるようにと穢れを払った。それが彼女にとって迷惑だったのだろうかと頭を悩ませた。

「まあ、聞くのが早いか」

 何が気に入らなかったのか聞いてみよう。自分には思い当たる節が無いが、何か失礼なことをしてしまったのかもしれない。そう思って部屋に戻ると、黒い血が廊下に点々と続いているだけで彼女の姿は無かった。

 あんな身体で何処へ行ったのだろうかと思った。まだ穢れを祓いきれていない。あのまま外へ出れば苦しいだろう。血の跡を辿って川の畔に来た。水の中で溺れる様にのたうち回っている少女の身体を引き上げる。少女が咳き込みながら真っ黒な血を吐き出し、身体が小刻みに痙攣していた。

「大丈夫、落ち着いて」

 彼女に口吻をすると、口の中いっぱいに苦味と痺れが広がった。胃の中に溜まって胸が苦しくなると、少女は痛みが治まったのか大人しくなった。酷い頭痛に襲われて必死に痛みを堪えた。今のうちに彼女の身体から穢れの元を探そうと衣に手をかけると少女が腕を掴んだ。

「……触らないで」

 そう言われて少し戸惑った。少女の肌に触れようとすると体に黒い鱗が浮き上がった。見るうちに少女の体は龍に変わっていく。

「何もしないよ」

 落ち着かせようと声をかけたが、龍に変わった少女が大きな口を開くと、彦の左腕に噛み付いた。龍の頭を右手でそっと撫でると、龍はそのまま眠りについた。気を失っているのに、歯が左腕から抜けなかった。仕方なく右手で龍の身体に触れるが、固い鱗が邪魔で身体の何処に穢れの本体があるのか解らなかった。諦めて龍の身体を抱えあげると、自然と歯が外れた。点々と血の滲んだ歯形の傷が出来てはいるが、それ程痛くなかった。穢れで胸と頭が痛いせいで腕の傷の痛みがわからないだけかもしれないが、殺すつもりだったなら首を狙っただろう。だから威嚇のつもりだったと思う。

 屋敷に戻ると、再び龍を部屋に寝かせた。人の姿に戻るのを待っていたが、珊が戻って来たことに気付いて身体に衣を被せた。そのまま部屋を出ると、別の部屋で薬をすり潰している珊の元へ顔を出した。珊は腕から血が出ているのを見て慌てて部屋の壁一面に備え付けられた引き出しを漁った。

「何してるの? 私は薬の調合は出来ても、彦みたいに他人の怪我を治したりは出来ないんだから、あれだけ気をつけなさいと……」

「龍の身体の中に穢れの本体があるはずなんです。それを取り出してやれば元に戻ると思うのですが、固い鱗が邪魔で……落ち着いている時に少女の姿になっていたので、その時なら解るかと思ったのですが……」

 彦の説明に、珊は一瞬動きを止めた。消毒の薬と傷薬を取り出しながら少し考えて顔を真っ赤にする。

「最低です」

「え?」

「割と賢兄もそういうとこあったけど、それで噛まれたなら文句言えないよ。傷が浅く済んで良かったけど、聡兄が聞いたら何て言うか……」

 珊は呆れた様に呟きながら彦の手当てをしていた。何がどうして最低だと言われたのか解らなかった。こちらが良かれと思って穢れの元を見つけようとしただけなのに、と思うが珊には彼女の行動の意味が理解出来るのだろう。それが少し羨ましかった。

「内緒にして頂けますか?」

「そんなの私から言えないよ。女の服を脱がそうとして噛まれただなんて、私まで怒られちゃう」

 その言葉でやっと理解出来たが、そんなつもりが無かったのに彼女に勘違いをさせてしまったのだと思うと申し訳なかった。

「もう少し他の言い方はありませんか?」

「まあ、うちは男所帯だし、こっちに来てから女の人に会う機会が無かったから扱いが分からないのも解るけど、程々にしておきなよ。天司神からも地司神からも私達は良く思われていないんだから」

 彦は聞き飽きた話に目を伏せた。地司神との大戦の折、父母と兄が大戦に反対したが為に天司神での居場所を失った。兄の一人は大戦に参加したが、結局弟達を守るために前線を退いたらしい。自分はまだ幼かったので覚えていないが、そのせいで天司神からも地司神からも立場上よく思われなかった。そのことを彼女が知っているという可能性もあるが、高天原では名を剥奪され、そもそも居なかったことにされたのがかれこれ六百年程前だ。見かけで判断するのは良くないが、彼女は精々二百年も生きていないだろう。だから自分の存在を知っているとは考え難かった。

「賢兄何処〜?」

 幼い子供の声に彦と珊は耳を峙たせた。彦の一つ上の兄が帰って来たのだろう。「賢兄」と聞いて彦は慌てて部屋から顔を出した。廊下を見ると、少女が居る部屋に幼子が入って行く所だった。

「お姉さんだ〜れ?」

 幼子の声につられ、周りに注意しながら部屋に近付いた。他の兄なら兎も角、賢に少女のことを知られたくは無かった。

「お姉さん、お姉さんはお名前何ていうの?」

 そういえば聞いていないことに気付いてそっと部屋に入った。少女が困った様に黙っていると、少女の肩に衣をかけた。

「兄さん、彼女は病み上がりなのですから……」

「聡兄ちゃんに、彦が女を連れ込んだって言いつけてやる」

 どうしてそうなるのかと頭を悩ませたが、少女が恥ずかしそうに顔を赤くして手で覆うのを見ると何だか可哀想に思った。

「怪我をしていたので手当てをしただけです」

 彦が真剣な表情で言うと、幼子は眉根を寄せた。

「賢兄にも言っとくからね!」

 幼子がそう言うと、彦は困った様に顔を歪めた。

「賢兄さんには黙っておいていただけませんか?」

「怪我した野うさぎやら鳥やら何でも拾って来る彦が悪いんだよ。賢兄だって、別に彦が憎くて取り上げたわけじゃない。あいつらは僕らと違って皆、寿命が短いんだ。それなのに彦がその寿命に干渉するのを快く思わないだろ? 彼女のことだって、いつまでも賢兄に隠しておくなんてこと出来るはずないよ。見つかる前に元いた場所に帰してあげたら?」

 それを聞くと彦は少女に向き直った。

「自分の家が分かるようなら送って行くのですが、君の名を聞いてもいい?」

 問い質すが、少女は俯いて首を横に振った。自分の住んでいた場所も忘れてしまったのだろうかと気の毒に思った。

 ふと、御簾が上がって珊が顔を覗かせた。左手に瓢箪を持っている。

「延、彦、私も少し彼女と話をしてもいい?」

 珊がそう言うと、彦は幼子を抱え上げて部屋を出て行った。珊は咳払いをすると少女を見据えた。

「煩くしてすまないね。こんな山奥だと滅多に客など来ないから珍しくてね。お気を悪くしないでおくれ」

 にこやかに話すと、珊は瓢箪を彼女に差し出した。

「痛み止めを入れてあります。数日はそれで痛みも和らぐでしょう。申し訳ないけれども、それを持って出て行ってはくれないだろうか?」

 珊がそう話すと、外で聞き耳を立てていた彦が御簾を開けた。

「珊兄さん、それは……」

「この子は自分の立場が解っていないのですよ。本来ならこの子が生きている事を地司神にも天司神にも知られたくはありません。だから貴女の口を塞ぐしか無い所を、ここまで手当てして逃がすのですから、この子のことも、この場所も口外しないで頂きたい」

「このまま追い出したら、彼女は禍津神になってしまう」

「ここに置いておいても同じことです」

 彦が抗議するが、あしらわれて俯いた。彦の姿を見た延は心配そうに足元に擦り寄った。

「珊兄は、彼女のことが賢兄にばれたら殺されかねないから、その前に逃してやろうと言っているんだよ」

 延が言うと、彦は唇を噛み締めた。脳裏に幼い頃見た美奈の姿が浮かぶ。

「了承しました」

 雲雀に似た声が響くと、彦は困った表情で少女を見つめた。

「大変お世話になりました」

 そう言って頭を下げると、差し出された瓢箪に手を伸ばした。彦がそれを押えると、少女は驚いた様に顔を上げた。

「せめて傷が癒えるまで……」

「それを判断するのは彦では無いよ。聡兄さんは慎重派だ。下手に弟達を危険に晒す真似はしない。

 お嬢さん、私の見立てでは貴女は天司神と地司神との混血だろう? 何があったか知らないが、どちらかの身内は必ず君を捜しているだろう。君を捜してどちらかの神がここへ辿り着く事になる。

 折角葦原へ逃げ延びたのに……お前の存在がバレたら、天司神から匿ってくれている神にも迷惑がかかる。お前はそれらを全部裏切るつもりか? その禍津神の為に」

「彼女は禍津神ではありません!」

 彦が怒鳴ると、珊と延は顔を見合わせた。

「何れ、そうなるでしょう」

 少女が呟くと彦は眉根を寄せた。

「このまま帰れば、自我を失って母を傷付けてしまう。禍津神退治の名目で天司神に土地を荒らされてしまう。禍津神が私だと知れば母は黙ってはいないでしょう。新たな戦の火種にされると解っていて家に帰るわけにはいきません。遅かれ早かれ私はそうなる運命なのですから、せめて地司神の土地に迷惑をかけることの無い様にこの土地を離れるだけです」

 少女はそう話すと瓢箪から手を離して立ち上がった。

「ありがとう。優しい名もなき神々」

 少女は軽く頭を下げると屋敷を出て行った。

 彦が追いかけようとすると珊と延が左右の袖を掴んで止めた。

「彼女の賢明な判断を無下にするつもりですか?」

「しつこい男は嫌われるぞ?」

 珊と延に言われ、溜息を吐いた。にこりと笑って振り返ると、二人は袖から手を離した。

「彼女の忘れ物を届けて来るだけです」

「わ、うっそだ〜」

 延が不満そうに言った。

「それに、あの状態ではそう遠くへは行けないでしょう。彼女の意志通り、葦原の外へお連れします。それとも、この近場で禍津神が現れたとなれば、天司神も地司神も兵をこの地へ寄越すでしょう。この場所が見付かるのも時間の問題です。そんな危険に、兄さんが目を瞑るとは思えませんが……」

 珊は呆れた様に溜息を吐くと瓢箪を取った。

「なら、私が行ってきます。延のことをお願いしますね」

 珊の言葉に彦は困った様に目を伏せた。

「私が拾ってきたのです。後始末は私がします」

「本来ならそうなんだろうけど、彦にそれが出来るとは思えない。君は優しすぎる。見境なく願いを叶えてしまう。枯れ木が水が欲しいと願うだけで雨を降らせるし、花が種を遠くへ運んで欲しいと願えば風を起こしてしまう。怪我をした動物がいれば手当てするし、子供の為に働けなくなるのは困ると言う親がいれば立ち所に傷を癒やしてしまう。天司神が君を血眼になって探していたのは、その力を悪用しようと企んでいたからだ」

 毎度の説教に彦は眉根を潜めた。

「悪用なんて……」

「君が雨を降らせたことで川が増水して、川下にいた狐が流されてしまったことがあっただろう? 君が起こした風が木々の若葉を吹き飛ばしてしまったこともあっただろう? 生まれつき腕の無かった男に腕を与えてやったら、その男は人を殺してしまっただろう?」

「狐は魚を取ろうとしていたんです。それで足を滑らせただけだし、直ぐに岸に上がりました。生まれたばかりの虫達が食べやすい柔らかい若葉をやりましたが、木々の半分も取っていません。男は家に入った強盗から親を守る為に応戦しただけで、殺すつもりはありませんでした」

 珊は再び溜息を吐いた。

「ああ言えばこう言う……」

「それはお互い様でしょう」

「珊兄ちゃん」

 ふと、延が声を上げると、珊は延へ視線を向けた。

「彦の奴、お姉さんに惚れちゃったんだよ」

「違います」「それは無いでしょう」

 彦と珊の声が重なると、延は驚いた様に目を丸くした。

「彦に限ってそれはありません。何時もの気紛れに決まっています」

「気紛れで誰かを助けてはいけませんか?」

「だから、自分の立場を弁えろと言っているのです。彦は彼女の身体を治して、彼女を家へ帰してやるつもりでしょう? 彼女がこの先誰にも、彦の事を話さないという保証は何処にもありません。彼女が話さなかったとしても、彼女が無事に家に帰ることでそれを不審に思う者だって居るでしょう。彼女の親だって、あんな若い娘が留守の間、何処で何をしていたのか調べない筈がありません。嫁入り前なら尚更でしょう」

 珊の言うことは尤もだった。

「では、私の嫁にします」

 二人が驚いた様に目を丸くした。

「それなら文句無いでしょう」

「嘘でしょ? またそんなこと言って……」

 珊がまた論破しようとすると、外からもう一人、彦と背格好のよく似た男が帰って来た。山吹色の着物を着崩して、片手に酒瓶を持っている。

「良いんじゃないの?」

 男がそう言うと、珊が眉根を寄せた。

「彦もそういう年頃なんだし、実は俺もね、良い尻した女見つけたんだけど、珊兄さんにも紹介しようか?」

 男がそう言って珊に近付いた。酒の臭いに延が気絶すると、男は手で彦をあしらった。

 どうやら早く行けという意味らしい。

「彌は直ぐに惚れやすいのが難点です。今迄にどれだけふられたか……少しは学習なさい」

「え〜、じゃあ未だに嫁の一人も娶っていないお兄様の口説き方とやらをご教授して下さいな。な、延も知りたいよな!」

 気絶している延の腕を押さえ、グイグイと珊に詰め寄った。珊が彌に気を取られている間に彦は屋敷を出た。

 少女の姿は見当たらない。空に少女が何処へ行ったのか聞くと難なく少女を見付けた。

「お母様……」

 少女の呟きにそっと目を伏せた。自分も、兄に連れられてここへ来たばかりの頃は母を恋しく思ったものだった。だから彼女の気持ちが幾らか解るつもりだった。

 森の中で蹲る少女を抱き寄せると、少女は力無い手で押し返そうとした。

「いや……離して……」

 勘違いしているにしても、そんなに嫌わなくたっていいじゃないかと言いかけると、少女が呟いた。

「貴方も穢れてしまう」

 それを耳にした時、彼女は気付いていたのだと悟った。

「良いですよ」

 彦の言葉に少女は首を横に振った。

「私の嫁になってはくれないだろうか?」

 一瞬、彼女の動きが止まったが、首を横に振った。

「いや……」

 少女の口を塞ぐように彦が唇を重ねると、少女の目から涙が溢れた。彦の手が衣の隙間から入って体を撫でると、少女は顔を背けた。

「やめて!」

 少女の体に鱗が浮き上がり、体が龍に変わり始めると彦は少女から手を離した。



 銀色の丸い月が仄かに辺りを照らしていた。風に揺られた草木の音と、虫の声が耳についた。

 頭が痛かった。身体の中に溜まった穢れが指先にまで広がるのが解った。地面に横たわって居ると、隣に居た少女がそっと身体を起こした。

「眠れない?」

 少女の手を握るが、振り払われてしまった。

「どうして私なんかに構うのですか?」

 少女の質問に彦は首を傾げた。そんなことを考えた事が無かった。誰かが困っていたら助けたいと思うのが普通だろう。兄にそんな事を言ったら気紛れだと言われかねない。彼女もそう思うかもしれない。そういえばいつだったか聞きもしないのに彌兄が当たり障りのない女性の口説き文句を教えてくれた事があった。

「貴女の心が綺麗だからです」

 少女の顔が驚いた様に目を見開いた。嘘では無かったのだが、意外そうな顔だった。

「貴女が龍の姿になって噛んだ痕が、もう消えているのですよ。本気だったなら私の腕は引き千切れていたでしょう」

 珊に手当してもらった左腕を見せたが、少女は目を伏せた。

「買い被りすぎです。私の心はもう汚れてしまった。ご兄弟も心配しているでしょう。早く屋敷へ帰ってあげなさい」

 自分の事で手一杯の筈なのに、こんな状況でも見ず知らずの誰かの心配が出来るのだから、心が綺麗だと思う。ただ、こんな状況なのだから少しは心を開いて欲しかった。

 彦は懐から何か取り出すと、少女の右手を取って握らせた。

「これを忘れて行ってしまったから……君を見つけた時、固く握っていたから大切なものなのだろうと思って……」

 彦が手を離すと、少女は掌に握らされたものに目をやった。瑠璃色の小さな石が掌に乗っている。少女の目から露に似た涙が流れ、彦は困った様に俯いた。

「どうすれば、君は笑ってくれるの?」

 彦の言葉に少女は涙を拭った。

「君は美しいから、笑えばもっと可愛いと思う」

 彼女が驚いた様に視線を寄越した。けれども直ぐに目を背けた。

「……可哀想」

 少女が呟くと彦は意味が解らなくて首を傾げた。

「貴方は他にもっと美しいものを見たことが無いのね。穢れた神を美しいと思うだなんてどうかしているわ」

 少女が悪態つくと、彦は少女の肩を掴んだ。

「私のことは嫌いでも構いません。けれど私が美しいと言った貴女を貶めるのは許せません」

 彦の真剣な表情に、少女が頬を赤らめた。

「私が自分の事をどう言おうと私の勝手でしょう?」

「謙虚は良いことですが、卑下することは感心しません」

「貴方にはわからないわ!」

 彦を突き飛ばすと少女は自分の肩を抱いた。

「もう放っておいて! どうして……」

 少女は言葉を止めた。彼女の気持ちが解らなかった。笑ってほしい。喜んでほしいと思うのに、こちらが良かれと思ってしたことが全て裏目に出てしまっていることが悲しかった。

「君の体を治したら笑ってくれる?」

 少女が顔を上げると、彦は優しく微笑んだ。

「そしたら家に帰れるだろう?」

 彦が提案すると、少女は少し考える素振りを見せてから首を横に振った。

「それで私の母や祖父に取り入るつもりですか? 天司神の力なんて必要ありません!」

「そんなつもりじゃ……」

「私は、地司神の母を持ったことを誇りに思っています!」

 少女が怒鳴ると、彦は取り付く島もなくて俯いた。

「君が気を悪くするようなことを言ってしまったのだとしたら謝ります。けれど、それが君の願いだろう?」

「私の願いは、葦原の発展と繁栄です。それは葦原に住む神々や民が協力しあってこそ成せる御業です」

 少女が突っぱねると彦は項垂れた。

「どうして君は花の様に美しいのに、まるで石の様に固い心を持っているの?」

 優しい言葉をかけたつもりだった。それなのに何一つ自分の期待した言葉が返って来ない事がもどかしい。

「普通は体が弱ると心も弱ってしまうから、直ぐに弱音を吐いたり、助けを求めたりするのに、君は一度だって私を頼ってくれない。それどころか私を拒絶する。媚びて利用するだけ利用して捨て置くこともしない。何故?」

 天司神と知った時点で、そうすることも出来たはずだった。誰だって自分が生きる為に他の生き物の命を踏台にしている。だから君が同じ様に私を踏台にして幸せになってくれると言うのなら構わなかった。

「貴方は何を言っているの? 私はお母様との思い出が詰まったこの葦原を愛してる。この国の為に身をひくことはあっても、我が身可愛さに天司神に媚びるなんてしない」

 自分をもう少しだけ、大切にしてほしかった。

「……そう……」

 彦は残念そうに呟くと、少女の体を地面に押し付けた。嫌がる少女の腕を押えて衣を開こうとすると、少女の両腕の皮膚が固くなり、腕に黒い鱗が浮き始めた。思い切り少女の頬を叩くと、少女の頬を涙が伝った。

「やめて……」

 構わず衣を開くと、胸に大きな傷跡と、黒く変色した皮膚が露わになった。それを庇うように皮膚が固くなると、彦はもう一度少女の頬を思い切り叩いた。

「強情張るのもいい加減にしなさい」

 少女は首を横に振った。仕方なく皮膚を爪で剥がすと、黒い血が飛沫を上げた。少女が痛みに耐える様に身悶える。

「……大嫌い」

 一瞬躊躇した。けれども再び爪で彼女の皮膚を剥ぎ取った。

 何を言っても彼女は信じてくれないが、きっと解ってくれると思った。

 胸の皮膚を裂いて手を入れた。少女の悲鳴が森に響き渡り、身体が小刻みに痙攣していた。口から黒い血が吹き出して彦の額を濡らす。体中の鱗が自ら剥がれ落ち、幾つかの血管と繋がっていた穢れの本体を身体から取り出すと、気を失ったのかやっと静かになった。

 何の抵抗もなくなった彼女の身体から穢れを取るために胸の傷口に唇を押し当てた。穢れを吸い出すと少女の侵食されていた肌の色が戻っていく。象牙の様な肌に変わると衣を整えた。なかなか目を覚まさない少女の頬に手を伸ばすが、指先が痺れて肌に触れた感覚が無かった。頭が重い。胸が苦しいのを堪えて少女を抱き上げた。仄かに少女の身体から花の香りがして幾らか痛みが和らいだ。何の花の香りだっただろうかと考えたが、頭が回らなかった。

 屋敷に帰って部屋に少女を寝かせた。もう深夜を過ぎているので兄達は皆寝ているのだろう。出来るだけ音を立てない様にして厨に行くと水を飲んだ。少しずつ指先の痺れが治まるのが解った。不意にその掌の痺れが、穢れのせいだけではなく少女の頬を思い切り叩いたからだと気付いた。

 目が覚めたらちゃんと謝ろう。許してもらえなくても別に良かった。憎まれたとしても少女が、母と再会出来る手助けが出来たのだからそれで満足だった。

 ふと、何かを引き摺る音に気付いて廊下へ出た。月の光に照らされ、誰かが縁側に立っているのが見える。今は誰にも会いたくなかったが、その誰かが引き摺っているものが、部屋に寝かせたはずの少女だと気付いて駆け寄った。長い髪を引っ張られても身動き一つしない少女の身体を抱き寄せると、少女を引きずっていた男を見上げた。漆黒の衣を着た背の高い男が睨むように見下げていた。

「さっさと捨ててこい」

 地の底から響くような低い声に彦は萎縮した。上から二番目の兄は賢だった。

「朝になったら家に帰します。一晩だけ……」

「お前にはそれが生きている様に見えるのか?」

 賢に問い質され、一瞬言葉の意味が理解出来なかった。少女の胸に手を当てると、心臓の鼓動が感じられる。賢が徐ろに剣を抜いて少女の左足を貫いたが、少女は悲鳴どころか見捩り一つしなかった。

「やめて下さい!」

 慌てて剣を抜くと赤い花弁が溢れた。見る間に傷口が水晶で覆われ、血が止まる。

「彦」

 呼ばれて振り返ると、銀灰色の衣を纏った一番上の聡が駆け寄った。少女を見やるとそっと目を伏せた。

「痛みで神経が破壊されているから、もうこの子は笑ったり泣いたり出来ないんだよ」

 聡の言葉に彦は首を横に振った。

「時間が彼女の心を治してくれます」

「そんな時間はない。大山祗がそいつを探している。地司神の兵が直ぐそこまで来ている」

 彦を見下ろしていた賢が呟いた。

「家に帰れば、ここと違ってゆっくり心を治せるかもしれないよ」

 そう言って聡が彦の頭を撫でると、賢が舌打ちした。

「もういいかげんにしとけよ」

「賢」

 彦の頭を撫でていた聡が呼んで手を止めた。

「彦は悪気があるわけではないんです」

「悪気が無ければ神経壊れるまで女に暴力を奮ってもいいって?」

 賢に問い質されて彦は少女を強く抱き締めた。

「その事については後で私から彦を叱っておきます。今は……」

「彦、お前が今迄手当をした鳥の中でたった一羽でもお前の元へ戻って来た鳥が居たのか?」

 賢の問に彦は顔を上げた。

「……いいえ」

「お前が掬い上げた木鼠で、再びその木鼠を見た事は?」

「……ありません」

「お前が助けた人間で、天寿を全うした者は?」

「……居ません」

 賢の質問に淡々と答えていた。

「それは彦のせいではありません。命あるものには必ず終わりが来ます。天寿を真っ当するとこなく事故や災害で亡くなるのは仕方のないことで……」

「なら彦が今、抱えているものは一体何だ?」

 賢の質問に男は口籠った。

「少なくともその女は、お前に関わりさえしなければ、そうならずに済んだだろ?」

「放っておいて、禍津神になった方がマシだったと仰るのですか?」

「俺だったらそうなる前に叩き殺す」

 賢が即答すると彦は唇を噛み締めた。

「その方が、彼女が長く苦しむ必要がなくなるだろう?」

 聡が話すと、彦は首を横に振った。

「生きていれば辛いことや苦しいことがあるのは当たり前です。それを……」

「その当たり前で神経破壊するんだから大したものだよな」

 賢に詰られて何も言い返せなかった。

「彦、どうして彼女が心を壊してしまったのか解る?」

 聡に問い質されて彦は俯いた。

「私が暴力で捻じ伏せて畏縮させてしまったから……」

「それもあるだろうけど……」

 聡はそこまで言いかけて止めた。

「お前の気紛れに嫌気がさしただけだろ」

「賢……」

 聡が賢を睨むと、賢は舌打ちした。

「兎に角、さっさとそれ寄越せ」

「大山祗様には私から説明します。それで後日彼女をお帰ししますから……」

 賢は呆れた様に溜息を吐いた。

「説明? お前のとこの孫娘が禍津神になりかけていたので捻じ伏せて鎮めました。五体満足で帰すだけ有り難く思えって? それともその女を何かの取引の引合いにでもするつもりか?」

「そんな事しません!」

「お前がそうやって彦を甘やかすから、こんなことになってんだろ!」

 賢が怒鳴ると聡は立ち上がった。丁度賢と同じくらいの背格好だった。

「今回の事は賢の言う通り、私の監督不行き届きです。今後このようなことが無い様に言い聞かせますから、今は身を引いて下さい。他の弟達も起きてしまいます」

「そういう有り触れた文言はいい。もう二度と何も拾ってこない様に両腕切り落としておけ」

 そう言って賢が背を向けると、聡は声を上げた。

「却下です」

 賢は睨みながら振り返った。

「爪を剥がすだけで充分でしょう」

「勝手にしろ」

 賢は吐き捨てると行ってしまった。賢の姿が見えなくなると、聡はしゃがみ込んで彦の頭を撫でた。

「私は今から大山祗様の元へ行ってきます。燗」

 聡が呼ぶと別の部屋に居た男が顔を出した。白群色の衣を着た男がおずおずと近付いた。

「ここに」

「朝には戻ります。留守を頼みますね」

 燗は横目で彦が抱えている少女を見やるとこくりと頷いた。聡が屋敷を出て行ってしまうと、彦は少女を抱え上げた。

「彦は何がしたいの?」

 燗の質問に彦は不思議そうに振り返った。

「彦のせいで皆が迷惑している事は解ってる? 聡兄も賢兄も寝ずに彦の帰りを待ってた。珊兄もぎりぎりまでその子の事を黙ってた。彌は僕達が彦を探しに行かないように誑かしてた。延が口を滑らせて経緯を知った賢兄が怒るのは想像つくだろう? 聡兄が居たから三人共晩飯抜きくらいで済んでいるけど、彦は僕達兄弟を仲違いさせたいの? その人形の為に」

「彼女は人形ではありません」

「何も喋らないじゃないか」

 燗の物言いに彦は眉根を寄せた。

「花も石も喋りません」

「その花は誰にも迷惑をかけないじゃないか」

「花は土から栄養を貰っています。土や水や太陽が花を迷惑だなんて思うでしょうか?」

 彦の質問に燗は口籠った。

「屁理屈だよ」

「そうですね。朝になったらちゃんと皆にお礼を言います。半分しか血が繋がっていない私をこんなに気にかけて下さるのはお兄様達だけですから」

 彦が会釈して部屋に入ると、燗は溜息を吐いた。彦は少女を床に寝かせると部屋の隅に蹲った。御簾越しに部屋の前に座っている燗の姿が見て取れた。目を閉じると瞼の裏に少女の泣き顔が映る。彼女の悲鳴が耳に張り付いて、皮膚を剥ぎ取る感触が指先に残っていた。それを掻き消そうとすると懐かしい見覚えのある顔が浮かんだ。両目が見えない母の代わりに幼い頃の自分の世話をしてくれた女の人だった。真紅の髪が綺麗で、いつも笑顔の耐えない可愛らしい女だった。その女の胸に剣を立てつけた男がいた。黒い衣を纏った背の高い男が、深く彼女の心臓に刃を沈めた。大好きだった美奈を眼の前で殺されてしまった遣る瀬無さと、直ぐ手の届く所に居たのに守ってやれなかった不甲斐なさが綯い交ぜになった。

 ーー目を覚ますと少女の手を握っていた。心臓の鼓動が早鐘の様だった。少女が呼吸しているのを確認すると、彦はほっと息をついて座り直した。

 御簾の外がいつの間にか白んでいた。

「入るよ?」

 御簾が上がって聡が入ってきた。お膳と一緒に何か手桶を持っている。

「食欲は?」

「……あまり……」

 穢れを吸い込んだせいか、胃が空いている感じは無かった。あまり眠れなかったせいか身体が気怠くて重い。

「爪を剥がす前に食べておいた方がいいと思ったんだけどね」

 聡はそう言うと、彦の右手を取った。口に布を噛まされ、聡がにやりと笑って鋏を鳴らすと、彦は冷や汗を流した。

「大丈夫。痛いのは最初だけだし、爪くらいそのうち元に戻りますから」

 聡はそう言うと鋏を彦の小指に押し当てた。

「彌から聞きましたよ? 彼女を嫁に迎えると言ったそうですね」

 出て行ってしまった彼女を追いかける口実だったのだと説明しようとしたが、爪を剥がされた痛みと、口に噛まされた布のせいで声が出せない。すると続けて聡が口を開いた。

「私は良いと思いますよ」

 嬉しそうに笑う聡を見て、本当の事を言い出せなくなった。

「私にも昔、そういう女性がいましたから……私も彼女もお互いに愛し合っていました。彦にもそういう女性が現れたのなら、その気持ちも彼女の事も大切にしてほしいです」

 葦原へ逃げ落ちる際に嫁は事情があって高天原へ置いてきたのだと聞いたことがあった。直ぐに天司神の兵に捕まり、亡くなったらしい。

「何故、聡兄さんはその大事な女性を高天原へ置いて行ったのですか?」

「それが彼女の意志だったからね」

 聡の言葉に目を瞬かせた。

「殺されると解っていたから、気絶させてでも連れて来れば良かったんじゃないかと今でも時々思うんだ。けど、そんな事をしたら彼女が哀しむから……彼女の泣き顔なんか見たくなかったし、彼女も自分の死に様を私に見せたく無かったんだと思う。私との未来よりも、生まれ育った場所で命の恩人と共に果てることを彼女は選んだんだ。自分が選ばれなかったからと言って相手の意志を挫く必要はないと思う」

 聡の言っていることが今一よく解らなかった。

「彦はそう思わない?」

「私には解りません。私だったら張っ倒して引き摺ってでも連れて行きます」

「ふふ……過激だなぁ」

「その時は悲しんだとしても、時が経てば気持ちも変わります」

 彦の言葉に聡は頷いた。

「後で知ったことなんだけど、彼女、お腹に赤ちゃんが居て、それで身動きが取れなかったのも理由の一つだったんだ」

 彦はそれを聞いて顔を上げた。

「女の人って強いよね。お腹の子が不安定で、長旅で流れてしまう事を恐れて戦地に留まったんだよ。身重だとそれこそ足手纏にしかならないと黙っていたんだ」

 聡の話にそっと目を伏せた。

「だからね、ちゃんと理由があるんだよ。私も話して貰えなくて、彼女の気持ちが解らなくて辛かったけど、今は彼女の気持ちを尊重して良かったと思っているよ。だから彦も、良かれと思って彼女を助けようとしたんだよね? でも、それが彼女に伝わらなくて、頭に血が上っちゃったんだろうけど……だからって暴力は良くないよ」

 彦は軽く頷いた。

「大山祗様、花咲美姫が無事だと知って喜んでいたよ」

 聡からそれを聞いて彦は彼女の身体から香ってくるのが百合の花だと気付いた。

「ハナエミ……」

「磐永姫様の娘さんだそうです。大地に咲く花を守護しているそうです」

 それを聞いて彦は眉根を寄せた。

「成程、それで……」

 花を手折って不快な思いをさせてしまったのだろうと容易に想像がついた。

「誤解が一つ解けた?」

「ええ……まあ……」

「なら良かった。それとなく縁談も聞いてはみたんだけど、本人の意思を尊重するって」

 聡が笑ってそう言ったが、彦は目を伏せた。彦の両手の指先に包帯を巻き終えると、聡は部屋を後にした。彦が両手を見やると、細い布で巻かれた指先が所々赤く滲んでいる。御簾の隙間からこっちを覗いた零と延が、じりじりと心配そうに近付いた。

「大丈夫か?」

「ええ。問題ないです。それより、燗兄さんから聞きました。晩飯を抜きにされてしまったと……すみませんでした」

 彦が謝ると、延は目を丸くして驚いていた。

「俺は普通に食った」

 と零は呟く。

「あ〜まあ……晩飯は無かったんだけど……ここだけの話、聡兄が夜食届けてくれたから誰も怒ってないよ。まあ、賢兄は元々ああだから仕方無いけど……」

 延はそう話すと零は薄目を開けただけで意識のない少女へ視線を落とした。

「花の香りのする娘だね」

「昨日は気付かなかった。気が枯れていたからかもしれないけれど……」

 零と延の言葉に彦も少女を一瞥した。

「あのまま本当に駆け落ちでもしてもう戻って来ないんじゃないかって心配だったんだ」

 延が呟くと、彦は微笑した。

「それは無いですよ。私は彼女を愛していませんし、彼女も、私の事を嫌っていましたから」

 彦の言葉に目を丸くした。

「え? 嫁にするって……」

「そうでも言わないと、珊兄さんは納得しなかったでしょう」

「あ〜あ、心配して損した」

 延が呆れた様に溜息を吐いたが、零は心配そうに彦の様子を伺った。

「もしかしてまだ、誰かを好きになるのが怖い?」

 零の言葉に彦は首を傾げた。

「美奈が死んでから、頭の螺が少しおかしくなったと思う。だからこの娘を嫁に迎えると聞いた時、僕も心底喜んだんだよ? 別に皆に遍く手を差し伸べなくても、特定の誰かを愛したって、それは悪いことじゃない」

 彦はじっと零の顔を見据えると、ゆっくりと瞬きした。

「自分が愛したものを眼の前で奪われた事が心の傷になっているのは解るんだけど、もう……」

「賢兄さんを恨んでなどいませんよ」

 零の言葉を先に奪うと、零は口籠った。

「私は誰も恨んでなどいませんし、誰も愛してはいません。だから大丈夫です。彼女は意識が戻り次第家へお帰しします」

 零と延は尻込みするとそっと部屋を出て行った。それを見送ると思わず頭を抱えた。

 愛とは何だったろうか……?

 誰にでも光を与える陽の光の様でいたいと思った。大地を潤す水の様に有りたいと思った。草も木も差別なく栄養を与える土の様に接したいと思った。そのどれにも特別などというものは存在しない。この瞳に映る全てのものが皆平等に幸せになって欲しいと思う。だから誰も恨んでなどいない。恨んではいけなかった。少女に冷たくされ、「大嫌い」だと言われた時、自分はそんな事を思うことも憚られている事に気付いてしまった。嫌いという気持ちに蓋をした。失った時に悲しむのが嫌で好きという気持ちにも蓋をしてしまった。だから誰も好きになれない。誰も愛せない。

「……どうかしてる」

 きっと飲み込んだ穢れのせい。そうに決まっていた。こんな風に自分の気持ちを疑問視することなどなかった。愛なんてどうでもいい。自分とは縁のないものだから。自分がどれだけ恋した所で報われはしない。失うと解っていて誰かを愛することなど出来ない。

 彼女は自信を持ってこの国を愛していると言った。羨ましかった。自分は生まれ育った家も土地も追われ、大好きだった母も奪われた。侍女も眼の前で殺された。愛していたものを悉く奪われた。自分は失ったものを、彼女はまだ持っているのだと思った。そう思うと悔しくて嫉妬した。彼女の頬を叩いても何とも思わなかった。咲いている花を手折るのと何ら変わらない。彼女の曲がらない意志を手折ることなど造作もなかった。何故なら彼女を、愛してなどいないから……

 頭の中がぐちゃぐちゃになるのが解った。不意に頭を触られて顔を上げると、少女が起き上がってこっちを見ていた。優しく抱き締められて頭の中が混乱した。不思議と花の香りが痛みを和らげてくれる。少女の肩を掴んで身体を押し返すと、沢山の花弁がそこここに散らばっていた。花弁が黒くなっている。少女が彦の腕に触ると、触れた所に花が咲いて黒く染まり、散っていった。どうやらそうやって彦の身体の中の穢れを外へ出している様だった。

「病み上がりです。お止め下さい」

 そう言うが、聞こえていないのか次々に花が咲いて黒く染まり、散って行った。彼女の手を振り払うが、それでも手を伸ばすのを見て思わず頬を叩いた。少女を置いて部屋を出ると、いつから居たのか、彌が立っていた。

「……え? もう痴話喧嘩?」

「そういうのではありません」

「まあ喧嘩するほど仲が良いって言うけど、抱きつかれたくらいで怒るなよ。妬けるなぁ……」

「だから……」

 そう言いかけて弁明するのが阿呆らしくなった。急に御簾が開いて、水晶に身体を覆われた龍が飛び出した。彦が部屋を覗くが誰もいない。空へ飛び上がった龍の左手に、少女の身体から取り出した穢れの本体が握られているのを見て咄嗟に懐を探った。さっき抱きつかれた時に取られたのだと気付いて空を見上げるが、空の彼方へ飛んでいく。真西へ飛んでいく姿に彦は眉を潜めた。

「……何処に……」

「え? お前が冷たくするから実家に帰ったんだろ」

「あの方角では屋敷とは反対方向です。あのまま飛んでいったら海へ出てしまう」

 彌はそれを聞くと目を見張った。海の先にあるのは根の国だった。

「聡兄を起こして来る。延! あの龍を追って!」

 庭先に居た延が大きな犬神に姿を変えた。彦が背中に乗ると屋敷を飛び出す。山を駆け下りて草木を薙ぎ倒した。振り落とされそうになりながら山を幾つも越え、やっと延が止まると彦は顔を上げた。海の向こうに白い龍が舞っているのが見えた。

「延兄さ……」

「あの距離ではもう間に合わない」

 彦は延の背中から下りて海へ入るが、膝下まで波が来ると足を止めた。遠くで龍がのた打ち回り、やがて頭から海の底目掛けて飛び降りるのを見送ると、彦はその場に膝をついた。

「どうして……」

 不意に襟首掴まれて岸に上がった。見ると賢がじっと海を見据えている。

「零、彦を捕まえておけ」

「賢兄……」

 賢が剣を海へ構えると、火緋色金が光って空を割いた。次元が歪んで穴が開くと賢が穴の中へ消えていく。彦も行こうとすると零に止められた。

「彦、賢兄に任せとけ」

 穴が塞がると彌と聡が来た。息を切らせた聡が疲れて座り込んでいる。

「聡兄足おっそ!」

 彌がそう言って聡を担ぎ上げると海辺まで来た。静かな海を見回すが、もう龍の姿はない。

「彦、彌から話を聞いたんだけど話が見えてこなくて……」

「彼女の身体から取り出した穢れの本体を彼女が持って海へ行ってしまったんです」

 彦の話に聡は眉根を寄せた。

「なら、速開津姫の元へ行ったんだと思う」

 海の底であらゆる罪穢れを飲み込む荒々しい神だと聞いた事がある。あんな身体で行けば無事では済まないだろう。

 空間が歪んで賢が戻って来ると、彦は少女がいない事を不審がった。賢が何も言わずに通り過ぎると、彦は叫んだ。

「賢兄さん! 彼女は……」

「お前の傍に花を咲かせるから、愛でてやってくれと」

 賢の言葉に彦は賢に詰め寄った。

「どうして……」

「あ?」

「彼女は母親に会いたがっていました。だから治して家に……」

「お前の身体を犠牲にして?」

 賢に詰られて口籠った。

「別に構わないでしょう。私の身体は直ぐ治ります」

「穢れを移しといて、身体の許容範囲超えていたことにも気付かない阿呆にそれが出来るとは思えんな」

 賢が突っぱねると聡が彦の肩を掴んだ。

「気付かれないと思った?」

 賢に問い質され、言葉を飲んだ。

「何のことを……」

「お前が拾ってきた動物、傷を自分の身体に移していたことくらい解っていた。多少の切り傷くらいならまだしも死にかけの野うさぎ拾ってきたら捨てるの当たり前だろ。多少の怪我は二三日で消えると言っても、立て続けに力を使えば消耗するのは当たり前。そんな奴に、渦潮に飛び込んで瀕死の女なんか寄越せるか馬〜鹿」

「賢! 言い過ぎです」

 聡が叱ると賢は呆れていた。

「何がいけないのですか?」

 彦が呟くと賢は眉を寄せた。

「あ?」

「眼の前に傷付いた命があれば可哀想だと思うのは当然でしょう? 少しでも痛みを取り除いて健やかであってほしいと思うのはいけないことですか?」

「お前は度が過ぎるからいい加減にしろ! あの女はな、お前が……」

「賢!!」

 聡が怒鳴ると賢は拳を握った。

「お前が無理矢理穢れを自分の身体に移したりなんかしなけりゃ海に身を投げたりしなかったんだ!」

 賢の言葉の意味が解らなかった。苦しみを取り除いてやったつもりだった。それなのに彼女に嫌われた意味が解らなかった。

「彦……彼女はね、君を愛していたんだよ。だから、自分のせいで君を苦しませてしまったことが許せなかったんだよ」

「違います」

 聡の言葉が信じられなくて否定した。嫌われていた。大嫌いだと言われた。思い出す彼女の顔はいつも涙を流していて……そう思い返して、彼女に抱き締められた事を思い出した。そんなに力も残っていないのに、彼女は幾つも花を咲かせた。嫌いだと言った私の為に……その意味が解らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る