19:覇道

 雪が薄く積もり始めた石の城壁に砲弾直撃。粉塵石片散って降雪を弾く。折れた木組み、内部通路露出。破孔外の石組みが歪み、着弾箇所の様子を見に来た城兵の足元が崩れて落下。瓦礫に飲まれて潰れる。

 標的は地球ならば本格的な火砲登場前の、厚みより高さが重要視された城塞の形式。

 使者が旗を振って降伏勧告、是非を問い、沈黙。次は内城に撃ち込まれた。

 火砲は訓練された、また訓練中の少女兵が使う。星将軍が指導。魔力が込められずとも防御施設の破壊は征服への第一歩。

 異界兵は掘った塹壕から敵城からの逆襲を警戒。弓兵を増強、戦地でも訓練中。旦那くんが息子達の面倒を見る片手間に指導。複合滑車のコンパウンドボウ採用で今のところ、どこの勢力とも撃ち合いで負けない。

 陣地内での細かい荷車牽引は獣が担う。砲火力重視、大規模動員により騎獣より荷役の駄獣へ転換中。

 水素エンジン車両は難波基地、拡張”中”ゲート、渡島大島基地、堤防城、戦地と大規模高速運送業務中。

 ハリカは獣の賢者の首が刺さったままの槍を元帥杖として掲げる。官軍賊軍ではなく覇軍の宣言。臣下に下れば良し、逆らえば粉砕。

 滝軍閥は河川流域の糾合へ向けて侵略中。地球人の逆襲の域を越えようとしている。

 姉妹河川は数多有り、本流支流の区別が彼等に無く実態不明。流域は縦長にいずれ海へ注ぐのか、盆地中央に溜まって大湿地帯を形成するのかも分からない。とにかく文明圏と言われる大人口地帯であることは間違いなく、言わば”中原”。世界を征服する帝国の中核地域として抑える必要がある。あると考えた。

 土地の安全を確保し、日本国に資源採掘権を売り、兵器を購入して異界を征服する。地球資本の植民地軍のようなただの手先にならぬよう勢力を拡大しなくてはならない。土地を測って、人を治め、税を取って行政と軍隊を運営する。親の教育が偏っているハリカには基本が分かっている。かの始皇帝嬴政が永遠の命を求めたのが分かるほどに道は遠いとも。

 並んだ野外炊具3号から立つ湯気、香ばしい複雑な匂い、鍋を叩き鳴らす音と「ご飯ですよー!」とヨモの大声に、続いて異界語で同様の呼びかけ。

 包囲軍は前線、予備、待機と分かれて、交代しながら食事を摂る。

 待機組は食べてから前線へ。

「辛口キーマカレーと根菜の素揚げ盛り合わせです! 蓮根っぽいお芋がオススメ!」

「お代わりはあるの?」

 帽子を脱いでつばをズボンに入れて挟み、首を傾げる星将軍の三つ編みツインテールが揺れる。

「あるよ! でも、皆に配ってからね」

「コロッケは?」

「あーと、晩にやる……ことにする!」

「辛いの足せる?」

「えーと、これはい!」

 ヨモはハバネロペッパー瓶を探して手渡す。

「あと何かある? スマイル0円いる?」

 既に押し売り済み。

「いただきます!」

 星玲紅、スマイルと大声で返した。今は大砲屋の仕事をするだけ。

 旧瀋陽軍、滝軍閥が全て誅殺したということになっている。疑惑だらけだが嘘も方便、そうとすればそうなる。余計なことを言わなければ角が立たないのが大人の教訓。

 ヨモのようなグレーゾーンに属する人物の処分も決まっていない。処分があるかどうかも尋ねるものではない。尋ねなければ何も無いと同義だ。


■■■


 順番交代。前線組が疲れ、汚れて足の関節が強張ったように歩いてやってくる。凍てつく季節まで日はあるが野外で張り続けるのは冷える。

「ご苦労様。はぁ、血出し過ぎた」

「ユウコちゃんには追い肉マシマシです」

「すごい山盛りね」

「どうぞぉ、べあー」

「頂きます、くまー」

 プレート持つ手から伸ばした人差し指が、熊ポーズの両手の平中心を捉えてミドルタッチ。

 自称? 藤波勇子は異界でも類例僅かな癒し手として戦地で死傷者を治療し、救命出来なかった者達の合同墓地前では合掌して念仏を唱えた。宣伝工作は兼ねて戦いが終わったら敵でも助け、弔う姿から広く崇拝を集め、聖女や巫女のような扱いを一部で受ける。この評判で臣下に下った別の川の堤防城もあった。

 尚、勇気凛々スーパーモードの件について尋ねると自殺を図るので禁句。


■■■


 順番交代。予備組がやってくる。

「お腹が空きました」

「ママさんおっつー」

 ”覇王”滝葉梨花でも食事は手ずから受け取りに来るのがルール。

「昔、基地で死守命令が出されたのは知っていますか」

「んーん、全然」

「あの時諦めないで良かったと今思っていますよ」

「そうなんだ。えーと、良く頑張りました。えらい!」

「どうも、ありがとう」

「んふふー」

 砲兵陣地の観測班が「射撃中止! 敵城から使者が出たぞー!」と大声、停止の旗を振る。落城かと思われる。

「あちらさんの分も。文明の差を思い知らせてあげてください」

「はーい!」

 日下部四萌、手を2回叩いて炊事班にもう少し頑張ろうと気合を入れた。敗北者に熱くて美味い飯を食わせながら臣下の礼を取らせるのだ。

 大義は知らない、笑顔が欲しい、これで幸せ。

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