04:*宇宙人
長白/白頭山大ゲート奪還作戦。旧国連軍閥の瀋陽軍が地球側で異界勢力からの攻撃を受け壊滅状態に陥ったことが確認された後、東アジアの民主政府が連合して実行。
地球・異界間通信は確立されておらず、異界より地球上の戦況は不明。そして異界の戦況は、大ゲートを目前に迫るも包囲殲滅間際。戦いというよりも虐殺の様相。
前例の無い戦いだった。魔力持ちで銃弾を反らす、訓練された戦獣による集団戦術。数も少ない異界対応水素エンジン車両、核砲弾すら使用したが敵戦力は広域に分散しており決定打とならなかった。無線統制されているような機動を見せるのに中核が戦闘区域に無かった。前例に無く、噛み付いた相手を食うことも無かった。
今、寸で皆殺しにされていないのは異界で呼ばれるところの”賢者””尊者”などと呼ばれている異界人の一種が間に入って止めているからだ。
地球人を庇う”黒色”と、戦獣を操る”黄色”が対峙。キラキラ、シャラシャラといった擬音に近い声を出し、複雑な金属パイプ風鈴を鳴らしたような会話を続けている。
一般的に目にする異界人種がエルフかリトルグレイと言った風貌なら、この種族は邪神か火星人。肘関節が二つの人型骨格に蛸皮を被せたような無毛の姿。頭からは魚の毒針ヒレ状のものが毛髪のように垂れる。不気味な姿だが仕草は優雅で滑らか、異界では非常な特権階級にあるということが見て分かってしまう。地球からも一部で”バラモン”と俗称がつく。
”黒色”が来てからは戦獣の主力を成す四つ足獣、地球呼称”トウテツ”が生存者を遠巻きにする。興奮して襲い掛かる素振りを見せたと思ったら見えない壁でもあるように引き返す。
安全圏がにわかに確保され、生存者たちは負傷者の治療を始め、助からない者には「またどこかで会おう」と発祥不明、少女隊共通の合言葉を発してとどめを刺す。
日本隊生存者の中では最年長の者が岩の上に座って高さを確保。破れた腹に布をねじ込まれた部下を、その膝を枕に横にさせて寝かせている。
頭上で飛行生物が騒いでいる。特殊技能で探知するに形状は攻撃的で肉食。脅かせば逃げる臆病な死肉漁りか、命令あらば死んでも食らいつく戦獣か不明。
「Imotal Braveと呼ばれている不死身の姉妹がいたんだ。昔会ったことがある。あんな人見たことない。寝てるのすら見たことないくらい元気でな、たぶん躁病だ。それがあの、初期のどう戦っていいかもわからない時代の一番の希望だった。いつでも先頭、死んでも死なない。あの人がいればこんな”共食い治療”もしなくて済んだぐらいだ。あと、とんでもなく声がデカいし歌うし直ぐに全裸になる。意味が分からない。あの人、1人で怪獣を狩ったこともあるぞ。敵の大軍を足止めして、もう助からないと思ったら3日後に腹が減ったと戻って来た。この顎が吹っ飛んだ時も助けてくれたのはあの人だ。瀋陽軍にいるという話も聞いたことがある。今ここに登場してもおかしくないぞ。そういう人だ。凄い人だから異界中を駆け回っている。ヨーロッパからアメリカの戦線まで見た、一緒に戦ったって話があるんだ。普通法螺話だと思うが、あの人を見たことがあるなら有り得るって思うぞ」
「そうなんだ」
「頭痛くないか。義足だから膝が固い」
部下は深く息を吸って、吐いて、吸わない。その残る血液が管を通って足元の要人【星玲紅】少将へ流れ込んでいた。
右足をトウテツに食い千切られ、一時生存が危ぶまれた星少将は衛生兵による迅速な止血処置と輸血で生き永らえている。瀋陽軍所属の特定出生児では最上級。民主政府が”保護”対象と指名している。
「お前の命は人に渡って生き続ける。敵を殺して姉妹を救って、良くできた妹だ」
日本隊隊長【逸身藍】大尉が己の義手と義顎を動かして見せた。
「将軍は私と系統が同じなので動く義足をつければいいですよ。電気で筋収縮するタイプです。魔ぢからも通ります」
「助かっても私は縛り首だよ」
「保護対象です」
「首というのは晒さないと意味が無い。古からの様式だ」
「その後の統率者がいなければ南京も釜山も困るでしょう」
「目下はそうだろうな」
「少なくともそちらの姉妹達に生存する道は示せます。首1つ安いでしょう」
「それで私を運んで生かせそうかな?」
衛生兵が「絶対安静です。脊椎が損傷している可能性があります」と言う。トウテツの噛み付きからの回転、デスロールは生半可な一撃ではない。
「ザース人」
”黒色”が英語で声を掛けてくる。ザースは”The Earth”のことで異界の地球呼称、おおよそそのまま。
逸身大尉がこの場における健常な最上級者である。部下の遺体を岩に寝かせ直してから立ち上がり「何か?」と対応。連合軍も共通言語に英語を使用する。
「星玲紅を除いてこの場を去りなさい」
「我々は彼女を保護しなければならない」
「交渉しません」
トウテツの1頭が見えない壁を越え、油断していた姉妹の1人に腕に噛み付いてデスロール、もげながら身体が回転、叩きつけられて首が折れる。生存者達の、復讐の20と14.5mm劣化ウランボルトの連射が斥力場を貫いて仇を取る。
「行け……!」
星少将が声を張り上げようとして神経に障り悶絶。
「く、了解、またどこかで会いましょう! 全隊集合っ整列! 君は?」
衛生兵は「私は”煌めく小さな星”のお世話をしなくてはいけませんので」と言った。瀋陽軍トップの”輝ける巨星”と双璧をなす大仰な尊称。
星少将付きの伝令がハっと気付いて大声を出す。
「白渡街道を知っています! 白泰街道が使えなかった時に備えて渡島大島基地まで行って参ります!」
星少将は失神したまま。逸身大尉が判断する。
「自信はあるか」
「走りながら寝れます! 街道開拓事業にも参加していました」
「退路を確認しつつ渡島大島基地へ。到着後はあちらの長に状況説明をして指示に従うように」
「はっ!」
逸身大尉の敬礼へ伝令は答礼、駆け出す。
後は”黒色”がどこまで生存者の身を保障するかだった。
生存者達が警戒、困惑混じりで各隊毎に整列。逸身大尉が相対。
「泰山基地へ向けて後退する。負傷者は残置!」
■■■
《なぜザース人に加担されますか。その者はここの原子力爆弾の責任者、脅威。今でもあちらの世界では天地が割れるほどに爆発しています》
《ザース人へのご挨拶に必要です。ジャパン種族の風習に適い、身柄は渡せません》
《夷敵討ち払わんとするを妨害されますか》
《”夷”に”敵”などと俗な言い方をなさる》
《このザース世界との繋がりは間違いでした。かつてのプラバャカ世界の洪水のように断つべきです》
《原子力兵器には驚きましたが、それもまた進化を促すものです》
《”輪”の方といい無邪気が過ぎます。数多くの社会が崩壊しています。淘汰にしても急激が過ぎます》
《お若い貴方の価値観が違うこともまた喜ばしいことです》
《”柱”を撤去します》
《可能であれば試みるものです》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます