第13話 旅が始まった!(シエラ視点)
これはシエラが旅を始めたばかりの時の話……。
***
「到着!」
私が降り立ったのは、緑が映える広々とした草原だった。
「さーてと!」
周囲をざっと見渡すと、ここから歩いて10分くらいの場所に、街が見えた。
「よーし。早速、行ってみよう!」
私は街に向かって駆け出した。
故郷を勢いで飛び出してたどり着いたこの地は、いったいどんな場所だろう。
ワクワク、ドキドキな気持ちを感じながら走っていると、突如、目の前にゲル状の生き物が現れた。
「こいつはたしか……スライム!」
話には聞いていたけど、ほんとにこんなモンスターがいるんだ!
ぷにぷにしてそうで、かわいい……こともないか。
初めて見るモンスターに興奮しながらも、戦闘に備えて気を引き締める。
旅を始める前に故郷で師匠に鍛えてもらった成果を、見せるときが早速やってきた!
「いくぞー!」
鍛え上げた渾身の魔法!
「幹薙!」
この魔法をとなえれば、目の前に太くて長い丸太が現れて、その丸太は私の腕の振りに合わせて相手を打ち払う……はずなのに。
「あれ? 幹薙!」
再び唱えてみても、丸太は現れない。
「どうしてー!?」
いや、落ち着け私。
魔法が使えないのなら、他の手があるじゃないか!
師匠に鍛えてもらった剣術だよ。
その腰に携えた木刀を手に取り、敵を薙ぎ払え!
私は、すかさず腰に手を伸ばす。
「って、なーい!」
手は
そういえば、木刀は持ってきてなかったじゃん。
「はあ」
やれやれ。自分で言うのもなんだけど、この先大丈夫かしら?
ポヨン。
「おっと」
嘆いている暇は無さそう。
スライムはやる気満々のご様子だ。
「さて」
こうなったら、あの手でいこうかな。
「逃げろー!」
迫りくるスライムの横をすり抜け、街めがけて必死に走った。
幸いにもスライムの移動速度は、私のそれより遥かに遅かったので、追いつかれることなく、私は無事に街に逃げ切ることができた。
「ふう。さて……」
乱れた呼吸を整えた後、私は街の散策を始めた。
この街には金属が溢れていた。
カーン、カーン。
絶えず聞こえる、凛とした打音。
その音は、トンカチなどの工具を使って金属を叩く音だ。
それは、建物を建設している音であり、武具を鍛造する音であり、鐘を鳴らす音であり……。
そして、私にとって福音でもあった。
この街なら、いい武器が手に入りそう。
私は、木刀の代わりとなる武器を買うため、武器屋に向かった。
「いらっしゃい!」
武器屋の店主は、若い女性だった。
短い髪に、引き締まった体。肌はやや日に焼けていて、手の一部には煤がこびりついて黒くなっていた。
「こんにちは」
「何をお探しで?」
「女性でも扱いやすい武器はありますか?」
「なるほど、そういうことなら……これなんてどうだい?」
店主は、陳列されていた武器の中から、特に大事そうに置かれている1本の真っ白な刀を選び、私に見せた。
他の多くの武器が、銀色か黒や茶色のようなくすんだ色をしていたため、この刀の白色はより一層、目を引くものだった。
「ほほう。なかなか素敵な刀ですね」
「そうでしょ。でも、関心すべきはその見た目だけではないよ」
店主はそう言うと、その刀を私に差し出した。
「どれどれ……おおっ!」
手に持ってみたところで、この刀の凄さがわかった。
「ねっ。すごいでしょ?」
「はい! とても軽いです! まるで、バルサのようです」
「バルサ? なんだいそれは?」
「あっ、バルサというは世界で一番軽い木と言われている木のことです」
と話しながら、刀を店主に返す。
「へえ。あなた、木に詳しいのね。珍しい人。もしかして、旅人?」
「はい」
「やっぱり。ここじゃ、みんな金属のことばかり詳しくて、他のことはあんまりだから」
「そうなんですね」
「うん。……あのさ、もしよかったらもう少し木について教えてくれない?」
「木について、ですか……。どうして知りたいんです?」
「木について学んで、その知識を活かして木を使った武器を作ろうかなって。私、金属製の武器はわりと作り慣れたから、他の素材に挑戦してみたくて」
「なるほど! そういうことなら、喜んで!」
「やった! ありがとう!」
「それでは、まず……木刀を作ることを目標にしてみましょうか?」
「木刀……うん、面白そう! 早速教えてもらっていいかな?」
「いいですよ!」
「よーし。今日はもう店を閉めてっと」
店主は、テキパキと店の片付けをすると、営業終了を知らせる看板を店の前に置いた。
「これでよし! それでは、師匠。木刀の作り方について教えてください」
「師匠なんて、そんな、そんな。でも、ちょっといい気分。──それでは、今から説明を始めます!」
私は、木刀の作り方や、木の知識などを店主に話し始めた。
「あれは、こうで……」
「ふむふむ」
「それは、ああで……」
「へえ、なるほど」
と説明をしながら、時々
「そういえば、店主さんの名前は、なんて言うんですか?」
「あたしはテルールだよ。あなたは?」
「シエラです」
「シエラだね、了解。あっ、そうだ、シエラ。あんまりかしこまって話さなくてもいいよ」
「えっ、ああ、うん。わかった」
と雑談を交え、しばらくして一通りの説明を終えた。
「こんな感じかな。この場に木材があれば、口で説明するだけじゃなくて、実演できたんだけど。ごめんね」
「ううん。とても勉強になったよ。ありがとう。シエラが教えてくれたことを参考に、今度、木刀を作ってみるよ」
「うん。頑張ってね! それじゃあ、私はそろそろ行くよ」
「待って。そもそも、シエラはここに武器を買いに来たんじゃなかったんだっけ?」
「あっ、そうだった。何も買わずに帰っちゃうとこだったよ」
「それで、シエラはどれがほしい?」
「うーん、さっき見せてもらった白色の刀が扱いやすそうで良いなって思ったけど、私の財力ではとても……。だから、そこの手頃なお値段の刀を買うよ」
「そうじゃなくてさ。私は、あげるって言ってるんだよ」
「えっ、くれるの!?」
「うん。だからさ、好きなのを選びなよ」
「じゃ、じゃあ、この白色の刀が欲しい」
「オッケー!」
とテルールは快く答え、白色の刀を私に手渡した。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。木について教えてくれたお礼だよ」
木刀を持ってこなかったことは失敗かと思っていたが、やっぱり、木刀を持ってこなくて良かったのだと、今強く思う。
もし、木刀を持っていたら、武器屋に寄らない可能性もあった。
テルールに会わなかったかもしれない。
「それじゃあ、この白色の刀はありがたく貰っていくね」
「うん。それじゃあ、バイバイ。良い旅を!」
「ありがと!」
武器屋を出た後、改めて街を一通り回ってから、街の外に向かった。
テルールに貰った刀の使い心地を、確認したい気持ちでいっぱいなのだ。
「どこかに魔物はいないかなー?」
草原を歩き回り魔物を探す中、ふとあることを思い出す。
そういえば、魔法が使えなかったな、と。
私の魔法は、私の故郷の星だけでしか使えないのか、それともたまたまこの星で魔法が使えないだけで、他の星では使えるのか。
できることなら、この星で魔法が使えない理由をハッキリさせたいところだけど、どうやって調べればいいのやら……。
そんなことを考えながら歩いていたところ、運良くスライムと遭遇することができた。
「よし、いくよ!」
腰に携えていた白い刀を手に取り、スライムに向かって斬りかかる。
「くらえ!」
鋭い斬撃がスライムを斬り裂き、スライムはやがて姿を消した。
うん。やっぱり軽い!
でも、攻撃は全然軽くない!
一撃でスライムを倒しちゃったんだもん。
「やっぱりすごいよ、この刀。ただで貰っていいもんじゃなかったかも」
この刀の素材がそもそも優れたものなのか、それとも、この刀の作り手であるテルールの腕が優れているのか。
まあ、それはさておき、とにかく今、私の胸は高鳴っているんだ!
「この刀があれば、どんな相手にも負けない!」
まるで勇者のように刀を天高く掲げ、踊る気持ちを声に出していた。
「ふふふ、面白いですね」
突然どこからか男性の声が聞こえた。
「えっ!?」
もしかして、独り言を聞かれてしまった?
恥ずかしいなあ、もう。
いや、それより、一体誰だろう?
「君は今、誰にも負けないって言いましたね?」
「え、ええ」
「それなら、シィタにも負けないんでしょうかね?」
そう言いながら、男性は姿を現した。
男性は丸いシルエットの髪型をしており、髪色は紅色で、どこか気品のあふれるような佇まいをしていた。
「あなたは誰?」
「ふふっ。僕は、ベニテダです」
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