第12話 私は琥珀
「ふう」
任務が休みだったシエラは、台所でお茶を飲みながら、その時を待っていた。
(アイナさんはまだ寝ています)
(いつ、起きてくるでしょうか)
(早くお話がしたいです)
(ああ、でも、ちゃんとお話ができるでしょうか)
シエラは、ワクワク、ソワソワしていた。
「ふう」
シエラが浮つく気持ちを、お茶を飲んで落ち着けていると、トタトタと誰かが台所に向かってくる足音が聞こえてきた。
足音がさらに近づき、ついに足音の主がシエラの前に姿を現した。
「あっ、おはよう! 君がシエラちゃん?」
「は、はい」
「アタシはアイナ。これから、よろしくね」
「よろしくお願いします」
アイナは、髪型がポニーテールで、比較的背の高い女性だった。
(なぜだろう。会ったばかりだというのに、この人のことをすごく信頼できる気がする)
「シエラちゃん、今日はお休み?」
「はい。アイナさんもですか?」
「うん。というか、これからしばらくは、お休みなんだ。長期の任務をやってきたから、それに対する振替休日って感じかな」
「そうなんですね。ちなみに、どんな任務をしていたんですか?」
「うーんとね、他のギルドに行って手伝いをしてきたんだ」
「そうでしたか……」
と口にした後、シエラは急にモジモジとし始め、「あっ」とか「えっと」とか、言葉を詰まらせていた。
「どうしたの?」
「あ、あの、図々しいお願いになってしまうのですが、アイナさんに共鳴魔宝について教えてほしいんです」
「なるほどね。いいよー」
「ありがとうございます!」
「まず、共鳴魔宝っていうのは、宝石の力を借りて魔法を発動する技法のことさ。共鳴魔宝は誰でも使えるわけじゃないし、使えたとしてもどんな宝石からでも力を借りられるわけではないのさ。どの宝石から力を借りられるかは、人それぞれ。つまり相性があるんだ」
「ふむふむ、なるほど」
「それで、シエラは共鳴魔宝が使えるのかい?」
「はい。私はこの琥珀のペンダントの力を借りています」
「琥珀か。琥珀は樹木の樹脂から作られている宝石だね」
「そうですね。なので、私と相性のいい宝石なんだと思います」
「そうかい。――それじゃあ、まずはシエラの共鳴魔宝を見せてもらってもいいかな?」
「わかりました」
シエラたちは準備を整えると、秘密基地の外に出て少し歩いた後、立ち止まった。
「では、いきます」
シエラが意識を集中させると、琥珀のペンダントが光り出した。
「琥珀ノ加護!」
シエラの周りを琥珀のバリアが覆った。
「ほほー。面白い共鳴魔宝だね」
「この魔法は雷属性の攻撃を防ぐ効果があります」
「なるほど。――ありがとう。もう解除してくれいいよ」
シエラはアイナの言葉に従い、琥珀のバリアを解除した。
「ところで、アイナさんはどんな共鳴魔宝が使えるんですか? リアンが言うには、アイナさんは凄腕の共鳴魔宝使いだとか」
「いやー、それほどでもないよ。まあ、色々使えはするけどね。例えば……おっ、あそこの岩がちょうどいいかな」
アイナは近くにあった岩の前に立ち、大剣を構えた。
「それじゃあ、今から披露するからよく見てて」
「はい」
「コード7th。
アイナがそう唱えると、大剣がピンク色のような光を帯びた。
「暴威をふるう!」
アイナは大剣を振り、岩を斬りつけた。
ガラガラガラ。
岩は見事に粉々に砕け散った。
「す、すごい」
「宝石の力をこの大剣に纏うことで、威力を爆上げしたのさっ!」
「ち、ちなみに、他にはどんな共鳴魔宝が使えるんですか!?」
「ふふふっ。それは内緒さ。今後のお楽しみだよ」
「そ、そうですか。わかりました」
「それで、シエラは他にどんな共鳴魔宝が使えるんだい?」
「えっ? 琥珀ノ加護だけですが……」
「おや? そうなんだね。なるほど。ということは……シエラはまだ、琥珀の力を十分に利用できていないな」
シエラはアイナの言葉に歓喜した。なぜなら……。
「つまり、私はまだ強くなれるということですね!?」
「そういうことだね。琥珀の力をさらに引き出し、そして新たな技を身につけることができるはずさ」
「どうすればもっと琥珀の力を引き出せますか?」
「さらに力を引き出すには、それなりに厳しい修行が必要だね」
「厳しい修行……」
「どうする? やるかい?」
「もちろんです! どんと来いです!」
「よし。それじゃあ早速だけど、修行を始めようか!」
「はい! よろしくお願いします!」
シエラたちは秘密基地の近くにある広場に移動し、修行を開始した。
――数時間後。
「はあ、はあ」
「今日はここまでだね」
「ま、まだ、いけます」
「そう焦らないで。疲れたら休まないと、ね? またいつでも修行に付き合うからさ」
「わかりました。では、今日はこのへんで。アイナさん、ありがとうございました。また、お願いします」
「うん。――じゃあ、秘密基地に戻ろうか」
シエラたちは秘密基地に向かって歩き出した。
「あの、アイナさん。この修行のことは、他の人たちには秘密にしておいてほしいんです。特にエイダンさんには」
「構わないけど、どうしてだい?」
「いきなり新技を披露して、驚かせたいんです」
「なるほどね、了解。――あっ、でも、あの子にはこの修業のこと話したほうがいいかも」
「あの子?」
「あっ、いや、でも、まだ早いか。ごめん。今のは気にしないで」
「は、はい」
「それより、次の修行はいつにしようか? 私はしばらく休みだから、時間はあるんだけど」
「うーん、そうですね……。来週の、私が休みの日にお願いできますか?」
「オッケー」
「ありがとうございます。――アイナさん。私は琥珀の力をさらに引き出せるようになりますかね?」
「なると思うよ。大丈夫。ちゃんと修行すれば、出来ないことはないさ」
「そうですか。少し安心しました」
「とはいえ、ちゃんとやるって結構難しいんだけどね」
「たしかに。ついつい怠けたり、手を抜いてしまいたくなることってありますよね」
「うん。だからこそ、ちゃんとしっかりやるんだ、って強い気持ちが大事なんだ」
「はい」
「……というのは建前で」
「へっ?」
「実際は、体力とか時間が十分にあるかどうかだと思うんだよね。体調万全の状態で修業に挑むこと。すぐに結果が出なくても、焦らずにじっくりと続けること。それが大事だと、アタシは思う」
「なるほど」
「まあ、これはあくまで私の考えで、他の考えの人も当然いるだろうね」
「なんだか、アイナさんは大人って感じがします」
「そうかい? まあ、伊達に年を取ってないってことかな。――っと、あれこれ話していたら、いつの間にか秘密基地に到着だ」
秘密基地に戻ってきたシエラたち。
玄関の扉を開け、中に入る。
「ただいまです」
「ただいまー」
「おかえり」
と出迎えに来たのは、ケイフウだ。
「2人で何してたの?」
「秘密です」
「ヒミツでーす」
「おろろ、秘密かー。しょんぼり。――まあ、それはそれとして、シエラくん。ちょっといいかな」
「なんでしょう?」
「ちょっと事務室まで」
ケイフウの真面目な声の調子から、何か重大な話が待っているだろうとシエラは想像した。
(もしかして、クビの宣告なのでは!?)
そんな考えが、シエラの頭にわずかに浮かぶ。
不安になりながらも、シエラはケイフウと共に、事務室に入った。
「それで、何の御用でしょうか?」
「えっとね、確認というとか、なんというか、シエラくんは最初にこう言っていたよね。『私は旅人で、いつかここを旅立つことになる』と」
「はい」
「それで……まだ旅立つ予定はない?」
「そうですね。ご迷惑でなければ、もうしばらくここにいさせてほしいです」
「そうか。それは良かった。すぐに旅立ってしまうんじゃないかと、少し心配になったもんでね」
「すみません。期日がはっきりしなくて」
「いやいや、構わないよ。むしろ、気を使わせてしまってすまないね。とにかく、もうしばらくはここに残ってくれるってことだね?」
「はい。……でも、いつかは旅立つことになる、ということには変わりはないと思います。もちろん、旅立つ日が決まったら、事前にケイフウさんにお伝えしますので」
「うん。承知した。ありがとう。――それじゃあ、引き続きよろしくね」
「よろしくお願いします」
シエラは事務室から出て、クビの宣告じゃなくてよかったです、とそっと胸をなでおろした。
そして
(やはり旅立ちの日について、考えておく必要がありそうですね)
(いつまでも未定というわけにもいかないですから)
とも思ったシエラだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます