第7話 クールな温もり
「えー、今日は、シエラくんにはエイダンくんと一緒にルロム草原に行って、シルバーウルフの討伐をしてもらうよ」
「はい」
「シルバーウルフは、その名の通り、銀色の毛をしたウルフだから、それを目印に探してね」
「わかりました。それでは、行ってきます」
シエラはケイフウに一礼してからその場を去り、エイダンのもとへ向かった。
「今日はよろしくお願いします。エイダンさん」
「ああ」
「では、行きましょうか」
シエラたちは秘密基地を出発し、ルロム草原へ向かって歩き出した。
そして、しばらく会話のないまま、歩き続けていたシエラたち。
シエラは多少の気まずさを感じ、他愛もない話をエイダンに投げかけてみた。
「ま、まだ2回目の任務なので、緊張してしまいます」
「そうか」
「……」
「……」
「き、きょ、今日はドンヨリとした天気ですね」
「そうだな」
「…………」
「…………」
(あぁ、どこか距離を感じます)
(エイダンさんがどんな人なのか、未だに掴みきれないのです)
(どうにか距離を縮められないものでしょうか)
シエラがそんなことを考えていると、突然
「シエラ」
とエイダンに呼ばれた。
「な、なんですか?」
「キャラメル、食べるか?」
エイダンは、服のポケットから黄色い長方形の箱を取り出した。
「えっ? キャラメルですか?」
「……まあ、いらないか」
「い、いえ。いただきます」
「そうか」
エイダンは黄色い長方形の箱から、白い紙に包まれた四角いものをつまみ上げ、シエラに渡した。
「ありがとうございます」
なぜ今ここでキャラメルなのだろうか、と多少困惑しながらもシエラはキャラメルを受け取り、包みを開けて食べた。
「甘くて美味しいです」
とシエラが感想を述べると、エイダンは「そうか。それは良かった」と微かに笑った。
口の中でキャラメルを転がしながら、シエラはエイダンとともにルロム草原に向かって歩き続ける。
「……」
「……」
(キャラメルが口の中で溶けていくに従って、口の中にますます甘さが広がってくる)
(そして、その甘さは温かさとなり、エイダンさんとの距離を縮めてくれている気がする)
シエラはそう感じていた。
「あの、エイダンさん。キャラメルを持ち歩いているということは、エイダンさんは甘いものが好きなんですか?」
「いや、それほどでもない。むしろ、オレは辛い物が好きだ」
エイダンはそう答えると、懐をガサゴソと漁り、赤色の瓶を取り出した。
その瓶には、唐辛子、という文字が書かれていた。
「このように、マイ唐辛子を持ち歩くほどに、オレは辛い物が好きなんだ」
「ふむふむ。エイダンさんは辛い物が好き、っと」
メモを取るようなジェスチャーをして見せるシエラ。
「そういえば、以前、オレが激辛料理を作っていた時のことなんだけど……」
「何かあったんですか?」
「オレが料理をしていると、その場にケイフウさんが颯爽と現れて、つまみ食いをしようとしたんだ」
「あら」
「ちなみにケイフウさんは、オレが作っていた料理が激辛料理だとは、その時はまだ知らない。オレは止めようとしたんだけど、あまりの早業で間に合わなかったんだ」
「それで、どうなったんですか?」
「オレの料理をパクッと食べたその瞬間、怪獣みたいに火を噴いていたよ」
「ふふっ。怪獣って」
エイダンさんも冗談を言うんだ、とシエラはなんだか面白い気分だった。
「その後、ケイフウさんは大量の汗をかいてさ」
「ははは」
「そんで、その大量の汗に溺れそうになって――」
「それはないっ」と咄嗟にツッコむシエラ。
「す、すまん」
「あはは」
「ふっ」
秘密基地を出発したころの気まずさは、すでに感じられず、朗らかな空気がこの場には流れていた。
「おっ、そうこうしているうちに、ルロム草原に到着したみたいだ」
「よーし! 張り切っていきましょう!」
シエラたちは、シルバーウルフの探索を始めた。
「ここは緑が広がっていて、気持ちのいい場所ですね」
「そうだな。そういえば、この草原には奇跡の薬草が生えていることがあるらしい」
「奇跡の薬草ですか?」
「ああ、以前、エマに教えてもらったんだが、その薬草は、一瞬のうちに傷を癒すだけでなく、眠っていた力を呼び覚ましてくれる、すごい薬草らしい。とはいえ、そう簡単に見つかるものではないそうだがな」
「そうなんですね」
ガサガサ。
何者かが草を揺らす音がした。
「シエラ」
「ええ」
シエラたちは周囲を警戒する。
「グルルゥー」
唸り声を上げながら、草の陰から1匹の魔物が現れた。
「ふっ。まさか、相手の方からやってきてくれるとは。探す手間が省けたよ」
現れたのは、シルバ―ウルフだった。
「いくぞ、シエラ!」
「はい!」
まず、エイダンが敵に向かって走り出し、間合いを詰めた。
シルバーウルフはエイダンを迎え撃ち、鋭い爪で攻撃を仕掛けた。
「遅い!」
エイダンはシルバーウルフの攻撃を避け
「はっ! てい!」
と拳で素早く2連撃を加え、相手をひるませた。
そこからさらに、
「
と叫びながら、一気に拳を振り上げて攻撃し、シルバーウルフを空中へと打ち上げた。
「今だ! シエラ!」
「はい!」
シエラは高く飛び上がった後、木刀を振り下ろして、シルバーウルフを地面に打ちつけた。
「畳み掛ける! ブラックスミス――
エイダンは、その手に、赤みの帯びた刀を創造した。
「くらえ!」
エイダンはその刀で、シルバーウルフを斬りつけた。と同時にその刀は粒子状となって消えた。
「グオオ!」
シルバーウルフは傷を負い血を流しながらも、後ろに跳び退き間合いをとった。
「シエラ! 追撃を!」
「はい!」
シエラはすぐさま、シルバーウルフに向かって走り出した。その時。
「ワオオォーーーン!」
突如、シルバーウルフが大きな鳴き声を上げた。
「な、なにごと!?」
シエラはとっさに後ろに跳び、エイダンの隣に並んだ。
ガサガサ。
シルバーウルフの鳴き声に呼応するかのように、周囲の草が音を立てながら揺れる。
そして、草の陰から、銅色の毛をしたウルフ――ブロンズウルフ、の群れが一斉に現れ、シエラたちを取り囲んだ。
シルバーウルフは
「ワオーン」
と一度鳴くと、どこかに走り去ってしまった。
「待て!」
シエラはとっさに追いかけようとするが、ブロンズウルフたちが行く手を遮る。
「グルルゥー」
「まずは、こいつらを倒す必要がありますね」
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