第5話 痺れるね

「今日は、シエラくんには、リアンくんと一緒にサフリ山岳へ行って、マッスルオーガの討伐をしてもらいたい」


 ケイフウがシエラに任務を言い渡した。


「はい」


「マッスルオーガは、普通のオーガより大きくて、大きなトゲトゲした棍棒を持っているから、それを目印に探してね」


「わかりました」


 これはシエラにとって初めての任務だ。


 ワクワクが湧き上がってきて、今すぐにでも任務に出かけたい気分のシエラだったが、出かける前にケイフウに尋ねておくべきことがあった。


「あの、ケイフウさん。1つお聞きしたいのですが」


「うん? なんだい?」


「何か武器を貸していただきたいのですが、可能ですか?」


「ああ。武器ならそれなりに余っているから、使って構わないよ」


「ありがとうございます。あの、ちなみに木刀はありますか?」


 シエラはこれまでの旅の中で、刀や槍、弓矢など様々な武器を使ってきた。


 だが、いや、だからこそ、やはり木刀が自分にとって一番の武器であるとシエラは考えるようになったのだった。


「あるよ」


 とやけに渋い声で答えるケイフウ。



「えっ! あるんですか?」


 正直なところ、シエラはダメ元で聞いてみた程度であった。


 木刀は一般的な金属製の剣より弱いという印象を持っている人がほとんどであろうから、わざわざ所有しているとは思えなかったのだ。


「チョット待ってて」


 ケイフウはそう言うと、どこかへ行き、しばらくすると木刀を持って戻ってきた。


「ほい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 シエラは木刀を受け取り握りしめた。


(不思議だな。まるで、自分が長年使い続けてきたかのように、手に馴染んですごく安心する)


 シエラはそんなこと感じながら、次に木刀をまじまじと見つめた。


「ずいぶんと使い込まれているように見えますね」


「まあね。それはある人の置き土産なんだそうだ」


「置き土産……。ならば、これは大事なものではないのですか? 本当に使っていいのでしょうか?」


「うん、いいよ。この木刀の持ち主も、他の人に使ってもらうことを望んでいたみたいだし」


「そうなんですね。では遠慮なく使わせていただきます」


 シエラは、この木刀についてもう少し話を聞いてみたい気もしたが、リアンを待たせているため話を切り上げることにした。


「それでは、行ってきます」


「うん。気をつけてね」


 シエラは小走りでリアンのもとへ向かった。



「お待たせ」


「いえいえ。それじゃあ、行きましょうか」


 シエラとリアンはサフリ山岳に向かって歩き出した。



「シエラさん。その手に持っているものは木刀ですか?」


「うん。さっきケイフウさんから借りてきたんだ」


「そうですか。しかし、変わっていますね。わざわざ木刀を使うなんて」


「まあ、そうだよね。でも、木刀が一番使い慣れたものだから、安心するんだ」


「なるほど。なんだかんだ言って、使い慣れたものが一番ですからね」


「そうだね。それで、リアンの武器は……短剣?」


「はい。わたしはこれが一番しっくりきます」


「そっか。短剣かー。どんな戦い方をするの?」


「それは見てのお楽しみです」


「ほほう。どんな剣技を見せてくれるのかな? 楽しみだ」


「ふふふ、お楽しみに」



 武器についての話を終えたところで、シエラはリアンのことを詳しく知るために、さらに話を続けた。



「リアンは何か趣味ってある?」


「あります。わたしの趣味は本を読むことです!」


「そうなんだ。どんな本を読むの?」


「私がよく読むのは、フィクション――SFやファンタジーなどの小説ですね」


「そっかー」


「ちなみに、シエラさんは本を読みますか?」


「うーん。私はあんまり本を読まないかな。でも、本を読むと、新しい世界に触れられる気がして面白いよね」


「はい。思いもしなかったことが、本の中には描かれています。それがとても面白いんです。――ところで、シエラさんの趣味は何ですか?」


「私の趣味は……旅をすることかな」


「旅ですか。いいですね」


「うん。旅をしていると、私の知らなかった新しい何かに出会えるんだ。そこが面白い」


「そうですか。……もしかしたら、わたしとシエラさんの趣味は似ているかもしれませんね」


「どういうこと?」


「読書も旅も、新しい何かに出会えますからね。それに、読書は旅のようなものだと言われることもあるくらいです」


「なるほどね。――あっ、そうだ! せっかくだから私の旅の出来事を本に残そうかな」


「旅行記というやつですね。面白そうです!」


「だよね!」


「もし本を作るなら――あっ、何でもないです」


「うん? なになに?」


「いえ、気にしないでください。それより、見てください。サフリ山岳に到着しましたよ」


「おー、ここがサフリ山岳かー。よーし! 張り切っていくよー!」



 サフリ山岳という場所は、ダンジョンと呼ばれるたぐいの場所で、ダンジョンはサフリ山岳以外にもいくつも存在する。


 そして、ダンジョンには野良の魔物、いわゆる雑魚敵が存在する。


 また、今回の討伐目標であるマッスルオーガは、その雑魚敵とは訳が違う強力な魔物、いわゆるボス敵だ。


 なお、マッスルオーガがサフリ山岳のどこにいるかは定かではない。


 つまり、シエラたちはマッスルオーガを探さなくてはならず、また、その途中で雑魚敵と戦う可能性があるということだ。



「ふう。なかなかに険しい道のりだね」


「そうですね。急な地形で、歩くのが大変です」


 と話しながら、マッスルオーガの探索をするシエラたち。


 すると突然「クヲォー」という叫び声が聞こえてきた。



「うん? 何の声だろう?」


「わかりません。――声が聞こえたのは向こう側ですね。行ってみましょうか」


「うん」

 

 シエラたちは声が聞こえた方へ走って向かった。


***


「あっ! あれは!」


 シエラたちは、1匹の小動物が2匹の魔物に前後の道を塞がれて、追い詰められているところを発見した。



「グルルゥー」


 魔物が唸る。


「シエラさん! 小動物を助けましょう!」


「わかった!」


 まず、リアンが飛び出し、小動物の後ろに居た魔物に向かって


「痺れろ! サンダー」


 と唱えた。


 天から雷を落とし、魔物をひるませた。


「シエラさん! 今です!」


「はっ!」


 ひるんでいる魔物に、シエラは木刀で斬りかかり、倒した。


「よし。次!」


 シエラは次に、小動物の前に居た魔物に近づき


「根系捕縛!」

 

 と唱えた。


 シエラの掌から現れた無数の根が、魔物に絡みつき拘束した。


「リアン! 今だよ!」


「ふっ!」


 リアンは、根に拘束されている魔物を、短剣で斬りつけ倒した。



「お見事」


「シエラさんも、お見事です」



「ク、クオ~」


 と小動物は安堵の声を漏らした。


「こいつは、何ていう動物なんだろう?」


 とシエラは疑問を漏らす。



 その小動物は全長50cmくらいで、茶色っぽい毛に覆われていて、ネズミのような、小さいカンガルーのような生物で、笑っているように見える顔をしている奴だった。


 そして、頭には葉っぱを乗せていた。



「なんでしょうね? 頭に葉っぱが乗っていますから、タヌキじゃないですかね」


「おいらはタヌキじゃないやい。クアッカワラビー、もしくはクオッカだ」


「えっ! しゃべった!?」と声をそろえて驚く2人。


「それに、おいらには名前があるんだ。クナップっていう名前がね」


「なるほど、クナップ……ですか」


「というか、なんで喋れるの……」


 唖然とする2人をよそに、クナップは元気に話を続ける。


「助けてくれてありがとう! お礼をしたいところだけど、あげられるものは持ってないんだ。ごめんよ」


「い、いや、それは構わないんだけど……」


「ちなみに2人の名前は?」


「え、えっと、シエラだよ」


「あっ、えっと、リアンです」


「シエラにリアンだね。覚えておくよ。――さて、申し訳ないけど、おいらは先を急ぐからここらでサヨナラだ。シエラ、リアン、ほんとにありがとう。いつか必ずお礼をするから」


「う、うん」


「は、はい」


「それじゃあ、バイバイ!」


 クナップは別れの挨拶を言うと、元気よく走って行ってしまった。


「変わった奴だったね」


「そうですね。でも、可愛かったです」


「たしかに。――さあ、マッスルオーガの探索を再開しようか」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る