第十九話 禁じられた力(前編)
俺は抱き止めていたミレットを下ろして離れているように告げる。
「オヤ、意外ニ紳士ダッタンダネ?キミ」
奴もリステルを後ろに庇うように下げる。お互いを遮るものがなくなるが、相変わらずフードで顔は見えない。
暗い瞳のリステルが奴の後ろに見えなくなるのを見ながらも、油断なく予断なく対応できるように徒手空拳を構える。
「……俺が紳士かはともかく。暗殺者が姿を現すってのは、よほど自信があるんだろうな」
まあ、目の前にいる奴のようにチャラチャラと喋る手合いの手口は読めているが。
「自信?高名ナキミヲ相手ニ?ナイヨ。デモ、挨拶ハ大事デショ?」
そう言いながら大仰に身を引きながら、まるで貴族のように挨拶をしてくる暗殺者。
「僕ノナマエハ、ガガゼル。君達ガ鼈甲ノ針ト呼ブ集団ノ、ナント!頭目……」
その発言に、俺は力を改めて入れ直す。
「ノ、補佐サ。驚イタ?ネェ、オドロイタ?」
俺は今、頭目云々に力を入れ直したわけではない。こいつが今俺にやってきたのは確実に油断を生ませる為の会話の誘導。
こうした手合いは____
「ネェ!オドロイ、タ!?」
喋りながら相手の意識を逸らした上で攻撃してくるのだ。
だから俺はそこに正拳突きを無言で打ち込み、奴の体を浮かせる。
「グ、ヴェ?」
「……おまえさ。何言ってんのか、聞き取り辛えんだよっ!」
俺はそのまま腕から足まで魔力を通すと、そのまま、大砲を打ち出すように殴り飛ばす___!
「クカッ!?」
そのまま正門周辺に出ていた露天に吹き飛んでいく暗殺者。
だが奴はぬるりと立ち上がると。
「……アハハ!聞キ取リヅライトハ、ヒドイネェ!」
そう言いながら奴は術式を打ち込んであるであろう杭を片腕で2本、猛スピードで投げてくる。だが俺はナイフを抜き放つと。
「見え見えだって言ってんだろ」
ギロチンを展開し、杭を両断する。弾いたところで周囲に被害が及ぶ術式でも組まれていたら堪らないからな。
「……フゥン、ツヨイネ。ヤッパリ」
それきりお互い動かず。だがついに周囲の人たちに状況が完全に認識されたらしく、悲鳴が上がり始めた。
それを聞きつけたからか、城の方からと商店通りの方から騎士たちがドタドタと近づいてきている音が聞こえる。
「……ミレット、周囲の騎士と連携して民間人の避難を頼む。リステルは俺が」
「わかった。気をつけて!」
走りだすミレットの気配が遠のくのを背中で感じたのち、ギロチンを構え直す。
「さて、行くぞ」
俺は奴との距離を詰めようとして……
「来ないで!」
間にリステルがわってはいった。このまま手を引くこともできそうだが、リステルの目がそれを望んでいない。
「っ!そこを退いてくれ、リステル」
「退きません」
強い目だ。
_____だが、引き返せない何かを決めてしまったかのような。そんな暗い目。
「……この短時間にお前、リステルに何をした?」
「エ?ウウン。僕ハ別ニ何モ。タダ、ネ?」
そう言って奴はリステルの後ろに立ち、彼女の肩を掴みながらゆるりとフードを取った。
現れたのは素顔でなく、仮面。奇怪な紋様が施された白を基調とした仮面であり、驚くことに穴が一つも開いていない。
ソイツは、俺の方を見て告げた。
「残酷ナ真実ニ対シテ、チョットノ希望ヲミセテアゲルト約束シタダケダヨ」
「殺し屋集団が希望を見せる約束だと?笑わせるなよ」
「オヤ、君モ似タヨウナ物ジャナイカ?殺ス事ヲ辞メタカラ真人間?ソンナコト、君ハ言ワナイダロウ?」
「……ああ。言われりゃ確かにそうか。だが、少なくともな」
俺は体勢を低くし、突撃の構えをとる。リステルが退かないのなら、それなりに対応するさ。
「その子の先約は俺だ!返してもらうぞ!」
一歩踏み込む。
だがその瞬間、飛び退くようにリステルを抱えて後退するガガゼル。
「オット、ザーンネーン。悪イケド時間切レ。後ハコッチトアソンデネ?」
奴がそう言うや否や、黒いコートを纏った2人組が走り寄ってくる。
ソイツらはどこかで見たような仮面をつけていて____
「まさか、あの仮面!?」
俺が驚くも束の間、槍持ちが薙ぎ払ってきたものを目と鼻の先で回避する。
「グ?ゲェルガ!ッガ」
「……チッ!やっぱりか」
気持ちが悪い鳴き声を発しながら再度突いて来た槍をギロチンでいなし、所持者を蹴り飛ばす。蹴り飛ばした仮面はタタラをふむものの、吹き飛ばすまでには行かなかった。
(いや、かえって好都合か……!)
視界の端に、俺の後ろを取ろうとしている槌持ちを把握しつつ。
槍持ちが再度突き出してきた槍を膝蹴りで矛先をずらした。
「グゥオ!?」
ずらした軌道の先。そこにいた槌持ちにグサリと突き刺さる。が、痛みの感じないかのように武器を振り回す槌持ち。その槌を俺は避け。
「ふっ!」
ギロチンを振り抜き、槌持ちを両断。一瞬ギロチンを消し、手首を返して逆手にした状態でギロチンを再展開。槍持ちの首を落とした。
どさりと仮面の体はその場に崩れ落ち、死体が消えていく。これは……
(消えるペースが早いが、間違いなく合成魔獣!)
「ワァオ!ヤッパリ相手ニナラナイカ!」
「……こんな奴ら何体呼んでも無駄だ。時間稼ぎにもならねえよ」
俺はガガゼルに向き直り、ギロチンを向ける。
「リステルのこと以外にも聞きたいことができた。大人しくしろ」
「フフゥン?」
リステルを抱えたまま仮面がケタケタと揺れる。どうやら、笑っているらしい。
ガガゼルはおもむろに仮面に手をやると……
「まあ、キミ相手じゃ確かに時間稼ぎにもならないね。認めるよ。キミ相手じゃ、ね」
仮面をずらし、やけに滑らかな口調でそう言ったのだ。声からして、若い男の声。
だが、そんなことはどうでもいい。コイツは今なんて言った?
「……クソッ!」
周囲に現れる、異質な魔力。
なんらかの手段で徹底的に隠蔽していたとしか思えない大勢の、仮面の魔力だ。
「さあっ、どうする?僕たちを優先してたら人がたくさん死んじゃうよ?」
「ガガゼル!!」
生きてとらえなければならない相手の上、魔法を使うにも射線上にはリステル。打つ手はある。だが、それをしている間に。
その間に何人、人が死ぬ?
「リステルお前、こんなことする奴についていくのか!?本当にお前の希望は見つかったのか!!」
「っ!」
揺れるリステルの視線、だがそれを遮るようにガガゼルがリステルの頬を撫でる。
「呪われし忌子。キミは何も悪くない。キミの宿命、キミの親、ひいてはこの世界が悪いのさ。他人がいくら死んでも、キミが悲しむことはない。さぁ、行こう?」
「っ、はい」
2人の背後に魔法陣が現れる。雷の紋様、この状況下であれば恐らくは飛雷だろう。さっきの二人組はあれを完成させるまでの時間稼ぎ……!
「リステルッッッ!」
叫ぶ俺をリステルの瞳が捉える。その小さな口が言葉を紡ぎ____
「レイさん」
「 」
「っ!!」
ドオオオンという爆音と共に天高く上がっていくガガゼルとリステル。凄まじい光を伴って去った2人はおそらく、遺跡の方に向かったのだろう。光がそちらのほうに飛んで行った。
後を追おうにも、周囲からは多くの異質な魔力と、人々悲鳴。大通りからは剣を打ち合うような音や、騎士団が応戦している号令などが聞こえてくる。
(俺は……)
どちらを優先すべきか。悩んでいる俺の元に、ミレットが戻ってきたようだ。
「避難は終わったけど、例の仮面の連中が出てきてパニックよ!早く片付けましょって、リステルは……?」
「……望んで奴についていった」
「嘘でしょ?どこにいったの?」
「恐らくはあの遺跡だろう。俺がかつて知った方法だと、起動にはまだ猶予があるはずだが、どうなるかわからん。すぐにでも追いたいが……」
「なら行って!キルトとなんとか、難しいけどなんとかするわ」
俺は無理やり作ったような笑顔で取り繕うミレットを見つめ、諭す。
「……お前達2人では無理だ」
「っ!ごめん……」
俯いてしまうミレット。実力的には、決して低い訳ではない。高い実力、判断力はもう身につけている。
だが、奴らのような異常なもの相手では圧倒的に場数が足りていないのだ。
_____だが、今は悩んでいる暇はない。早急に全てを片付けるための、最適解を選ぶだけだ。
「ミレット、すまん。約束を破るぞ」
「……え?」
俺はメメントモリを呼び出した。
__________________
筆者のカイショーナシです。実は一話一話毎日書いてるのですが、コロナ感染の為、最後の確認に時間がかかり更新時間がずれたりします。
見てくださる方にはご迷惑おかけしますが、ご理解ご協力のほど、よろしくお願いします。
あと、宜しければ⭐️などいただければ嬉しいです。
閲覧、ありがとうございました!
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