第十話 100年の孤独のはなし(前編)
【ソルド・アーリア】
王立特務機関の後方支援担当にして、陣地設営のプロフェッショナルであるが、風貌はだらしなさ全開だ。
赤茶けたボサボサの髪が目まで覆っており、よれた黒いローブを纏い、腰には折り畳まれたシャベルが装着されている。
ドワーフ族の女性であり、身長は156センチとドワーフ族の平均身長ほど。年齢は150と少しだったか。
予想外の出会いに面食らうも、さきに口を開いたのはソルドだった。
「あんたの顔を見たくなくて逃げて来たのに、まさか追って来たのかい?」
という、まあいつも通りの皮肉加減である。だが、今回は何やら本気で疲れたような目だ。
恐らくソルドが言っているのは、俺がバブイルに戻ってウンタラカンタラというリセスの例のプランのことだろうか?
「バカ言うな。そんな暇でもないし、もう戻る気もねぇよ」
「へぇ。ならなんでこんなとこにいるんだい?キルトもミレットちゃんもお揃いで。ああ、ミレットちゃんはあんたと結婚したんだったか」
うんうんと頷くソルドだが、ここにいてくれたのは運がよかったかもしれない。
「俺たちがここにいる件でソルドに聞ききたいことがあるんだが、今は手隙か?」
「ん?ああ、ここの馴染みとの挨拶も済んだしね。あとは王都に帰るだけだけど?」
「ならちっと付き合ってくれよ。実はさ_____」
俺は今までのあらましを話すことにした。
「なるほどねぇ?悲劇の少女に謎の古代遺跡、スノーエルフ全滅作戦か。でも100年前?100年前かぁ。うーん?」
リステルの持っていた書状の件を話すと、ソルドは何やら思案顔だ。
「確かに100年前は私はこっちにいたからね。そんな話は小耳に挟んだような気がするけど、んー?」
腕を組み唸るソルドは暫し悩んだあと口を開く。
「でもあの作戦て実行されなかったんだよ。たしか、起動するための鍵が紛失されたとかでさ」
その鍵の紛失がきっかけになったのか争いは徐々に収まり、結果的には和睦に繋がったとソルドは言う。
「鍵の紛失?」
「そう。とはいえ細かい内容は私は知らないよ?私は後ろで補給係やってただけだからね。今と変わらず」
頬杖をついてやれやれという顔をするソルド。ついでにあと一つ聞いとくか。
「なら、文字にかかった呪いについては?」
俺は紙面にかけられていたという呪いについて聞いてみると。
「ああ、それは聞く限り私でもかけられる奴だね。漏洩しないための呪縛だろう。でも、妙だね?」
「うん?」
「その呪いってかけた後は誰であれ内容を書き換えられないんだよ。文面が消された形跡があったって言ったろ?作戦を悟られないようにってなら妙だね」
「誰かに渡った後、呪いを解いて消した後を復元する可能性は?」
「ないね。ドワーフのこの呪いは誰かに鍛治の技術を模倣されないように意外にも、書き換えられないようにするためのものでもある。ライバルに秘伝のレシピを書き換えられたら面倒だろ?」
「ああ、たしかにな」
「だから推察するにその紙の状況としてはさ_____」
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい!ちゃんとキルトさんの事も結論出ました!?」
「えっ!?あ、いや、それはまだ保留というか、なんつうか」
俺はソルドからの話を聞いた後、リステルの様子を見るために別荘に戻った。
ちなみにミレットとキルトはソルドに話しておきたいことがあるとかでギルドに残っている。
しかしまあ目を輝かせて恋愛話が聞きたいと言うリステルに、そんな話はしてませんなんて言える空気ではなさそうだ。
「保留!?せっかく勇気を出してくれたのに保留!?」
「まあ、落ち着け。俺からしたらアイツはずっと妹分みたいなもんだったんだよ」
「だからって!」
ぷいぷい怒っているように見えるリステルだが、聞いておかないと。
「なあ、リステル」
「だから、ふとした瞬間に恋心に変わる事もって、はい?」
謎のヒートアップに入る前に戻ってきてくれたリステルが豆鉄砲を喰らったような顔で俺の目を見る。
「お前、今何歳だ?」
「……えと」
「答えたくなかったら、答えなくていい。でも、これは大事な事だ」
「……100と少し、です」
「_____そうか」
「はい。でも私の年齢が何の……?」
確信があるわけではない。だが、あの紙面の内容的に嫌な予感がするのだ。
確か紙面の中の一文は
設備を開ける鍵は______だ。
使用するのは簡単だ。遺跡を開けた中を鍵の魔力で満たせばいい。
だったはず。ということは、鍵には魔力があるものだということになる。
そして、それは紛失されているからこそスノーエルフが今まで生き残ってきた、ということになるが、問題はその後。
______のバカはエルフを愛したが、その___をこんな______方されるとは思いもしないだろう?!消えてしまえ!
誰かに対しての憎しみ。だが、鍵の話の直後にこの文面が来る、と言う事は。
(まるで、鍵は生きているもののような?)
単なる想像でしかない。だが、何やら確信に似た何かが俺の中を渦巻き始める。
「あの、レイさん?」
そう不安げに見つめてくるリステル。こう見えても100年、色々なものを受け止めてきたのだろう。
想像するしかできない孤独を想い、俺は思わず頭を軽く撫でる。
「レイさん!?」
「ん?あ、いやすまん」
とはいえ、だ。
「いや。100年なんて随分寂しかったんだろうと思って思わず撫でちまったが、あれだな。一緒に討伐に行くような仲間いるんだったよな」
最初に遺跡の調査云々の話をしたとき、確か討伐は仲間と一緒に行くくらいと行っていたはずだ。であれば、そんなに孤独ではなかったのかもしれない。
そう思って謝りながら離そうとした手を、グイと掴んで止められた。なんだ?
「……あれは、見栄を張りました。まだこの事情がバレる前でしたし」
ポンチョのフード部分をキュッと握って、何かに耐えるような仕草をするリステル。
そこから覗く目は、なんだか泣きそうに見えて。
「……そうか」
「……はい」
二人、なんともいえない空気のまま。しばらく、俺はリステルの頭を撫でるのだった。
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