第九話 謎解きと告白の話(後半)
空気が固まった。
「え、え、あ、えええええ!?」
リステルの何か黄色い声がどこか遠くから聞こえる。
「まあ、今?って感じはするけど。何か吹っ切ったのね。キルト」
わけ知り顔のミレットも、なにやら受け入れているようであり。
「……え、あ?」
俺はといえば、情けないことに戸惑っていたのだったが。
「さて、リステルさん。貴女の件なのですが」
そんな俺の顔から目を逸らし、リステルの話に戻っていくキルトって、待て待て待て。
「キ、キルト?今のは?」
「ん?そのままの意味ですよ。でも、その話はあと回しでしょう?」
「えぇ!?えっ、あ、そうだな?」
凄い真摯な目で冷静に言われた。あれ、そうか。俺がおかしいんだな?
「いや、そうだなじゃないですよレイさん!今優先すべきは明らかにそっちの話です!」
「何を言ってるんです?リステルさん、真剣な話です。今はこっちの話を進めましょう」
「絶対にそっちの方が優先でしょう!?」
なんだか先ほどまでの空気が嘘のようなやりとりをし始めた二人だが。なんだ、そういうことか?
「キルトのやつ、リステルの警戒を解くためにあんな」
嘘を、と一人呟こうとしたところで。横にやってきていたミレットが口を挟んだ。
「嘘じゃないわよ。レイ、流石にそれはダメ。私が許さない」
ミレットはそのまま力強く手を繋いでくるが、待て待て。
「キルトが、俺を?てかあんなサラッと?」
「そうね。でもサラッとでも、分かるでしょ?貴方たち二人なら」
「それは……」
確かにキルトの言葉には嘘がなかった。真剣で、真っ直ぐ過ぎるほどに。だからこそ動揺したのだ。
サラッとした流れではあったが、そこに籠った想いに演技のような濁りを感じなかったから。
(いや、好きと言ってもそれは男としてではなくて……)
そんな俺の考えが顔に出ていたのだろうか?ミレットが口を挟んできた。
「少なくとも今まで一緒にやってきた仲間としてでも、兄貴分としてでもないって事は断言しておくわ」
そうして、手を握ったまま俺の顔を見てくる。
「あ、言っとくけど私はあんたがキルトを選んでも別れないからね?キルトは第二夫人としてなら許す」
「何言ってんだお前!?」
「よその国に重婚を認めてる国があるからそこに行けば大丈夫よ。てか、私はこの話はキルトにしてある」
ミレットはそういうとするりと手を解く。そしてギャイギャイ言っている二人の所に向かいつつ、こちらに振り向いて微笑んだ。
「よく英雄は色を好むもの、っていうじゃない?」
「……俺は英雄でも勇者でもない。ただの」
「世界にとって、紛れもなく英雄よ。処刑人が英雄やっちゃいけないなんて決まってないわ」
その言葉を最後に騒がしい二人に混ざっていくミレット。その顔に曇りも、嫉妬もなく。
何かしら二人の間で決まっていることなのだろうか?
(待て待て、そんなもの。そもそも俺の気持ちはどうなる?)
そう思ってなんとなくキルトに目線を送ると、こちらに向けて微笑んでくる。
なんだかそれは、普段と違うものに見えて____
「マジ、か……?」
俺の中で何かが変わった。その確かなものを認識しつつ、俺も3人の会話に加わりにいくのだった。
「はい、これで解析は終わりました。あとは例の古い文字を拝見したいですね」
「あ、えと。はい、どうぞ」
「ふむ……?」
あの後。とりあえずリステルの件を優先すると言ってキルトが譲らない為、こっちを優先することになったのだが。
「……古代のエルフ文字に近いですが、これは人間が書いたような感じがしますね」
「人間の?」
リステルと顔を見合わせる。
「はい。古代のエルフ文字って一つ一つの言葉に魔力を与えてるんです。その文字を読んだ時、書いた人の思いや記憶を読んだ人が読み取れるようにしてあるというか」
「メモリーなんたらってやつかしら?」
「はい、メモリートーカー。記憶は語るってやつですね。今では常識の技術ですが、この紙は解析した所、すくなくとも100年前に書き記されてます。にもかかわらず、それが使われていない」
____メモリートーカーは昨今人間の側でも当たり前のように使われている技術ではあるが、それ程昔となると人間側はこの技術を知らないはずだ。
となれば、エルフではない誰かが書いた可能性があるとキルトは言う。
「それに、先ほど聞きましたがスノーエルフには読めないんですよね?」
「……はい。これは昔試行錯誤した時にわかったことです。人、ドワーフには字が見えて、スノーエルフには見えません」
「ふむ。少し待ってください?」
キルトはそう言って両目に魔力を込めると目の中に紋章が生まれる。紙面の何かを見ているようだ。
「……でしょうね。このインク、微弱ですが強力な呪いがかけられてますもん。恐らくはドワーフが用いる鍛治の秘術を隠匿する際の魔法です」
「ドワーフの!?」
リステルが驚愕の声を上げる。確かに妙だ。
「つまり、エルフの文字を人間が書いて、ドワーフが隠匿したってことか?」
「はい。そうなりますね。しかしそうなると参りました。これは、ちょっと解けないですね」
肩をすくめて紋章を解き、眉間を絞るキルト。解けないとはどっちの意味でだろうか?
「呪いがか?それとも暗号の方か?」
「現状はどちらもです。すくなくとも呪いで文面が正常に認識できなくされてますから、そっちをどうにかしないと」
キルトは一旦、認識が阻害されている状態で書いてある事を書きだしてみるといって書き始めた。
サラサラと俺たちが読める内容で現れた文字だが、文字をただ並べたような状態だ。意味が何もない。
「ね?読めないでしょう?」
「ああ。でもお前でも解けないとなると……」
「実は、解呪自体は造作もないです。でも今すぐにはちょっと。私の魔力がつきかけてますしね」
そこで言葉を切ったキルトは俺とミレットにだけ一瞬わかるアイコンタクトを送ってきた。俺も何か不味いことが書いてあったのか?という意味を込めてアイコンタクトを送る。
すると即座に3人で話したいというアイコンタクトが飛んできた。
「まあなんだ。リステル?とりあえず一旦休もう。キルトの魔力が回復しないとどうにもならなそうだ」
「歯痒いですけど、そうですね。ここまで一気に進めていただけたんですから……」
ぺこりと頭を下げるリステル。
「ありがとうございます。キルトさん、レイさん、ミレットさん!」
ポンチョから覗く目には興奮と、耐えきれないほどの喜びの色が浮かんでいたのだった。
「さて、さっきの合図はどういうこと?」
「もしかしなくても、リステルに聞かれたら不味い話だよな?」
「はい。そうなります」
あの後休憩を取ることにし、俺たち3人はキルトが言った件で話し合ってくると告げて別荘を出た。向かった先は、あえて人が多いギルド。テーブル席に着いた上で、遮音の魔法を使う。
これは人に話を聞かれたくない時の常套手段だ。人が多い場所で遮音魔法を使えば、盗み聞きしたい奴がいたとしたら近づいてくるしかなくなる。
まあ、こんなことまでしてるのはリステルがキルトの告白話に興味津々だった為なのだが。
「あの紙面には、リステルさんが望む物の存在は書いてありませんでした。内容的にも、あれ以上解くわけにいかないです」
「どういうこと?ドワーフの呪いは?」
「ああ、呪いは本当にかけられてますよ。でも、それに干渉せずに読むのは私からすれば簡単です。何せ100年前の技術ですからね」
そう言ったキルトが俺たちに続けて告げた内容は、驚きの事実だった。
「残念ながら。あれにはスノーエルフを消し去る呪具の存在と、その使い方が記されていました」
「「え……」」
ミレットと二人、思わず呼吸が止まる。トリトスが言っていた望むものではないって、そういうことか?
「詳しく話してくれ。キルト」
「そのつもりですよ。とはいえ意図的に消されたのか読めないところは確かにありましたが。あの紙面には____」
キルトは懐からメモを取り出し、書き記していく。そこには俺たちに話した内容とは全く違うことが書いてあったのだ。
"憎きスノーエルフ達の存在を永劫消し去る方法をついに発見。我ら_____はドワーフと____み、そのための設備を作りだすことに成功した。
設備を開ける鍵は______だ。
使用するのは簡単だ。遺跡を開けた中を鍵の魔力で満たせばいい。
______のバカはエルフを愛したが、その___をこんな______方されるとは思いもしないだろう?!消えてしまえ!"
「……おい、どういうことだ?スノーエルフを消し去る?」
「はい。この国がこの形を取る前、人とドワーフが連合を組み、スノーエルフと争い合っていたと聞きます。遺跡というのは、その時の技術かと」
「ちょっと、そんな……」
なんともいえない沈黙が場を支配する。そんなどうしようもない空気の中、俺たちにある人物が声をかけて来た。
「難しい顔して何やってんだい。あんたら」
それは王立特務機関の後方支援担当である
「ソルド!?なぜこんなところにいるんです?」
ソルド・アーリアだったのだ。
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