第七話 頼れるいもうと分の話

 俺たちはあの後一旦体勢を整える必要があると感じ、レクナロリアに戻った。

 戻った直後、ミレットとリステルは所用を済ませると言って出かけ、今は俺一人。

 

 その間に今回の件で相談しておきたいことがあったのである人物に連絡したのだが。


『お久しぶりですねぇー』


 それはもういい笑顔で青筋をたてながら通信魔法に映っているのは、キルト・ミラディ。

 王立特務機関最強の魔法使いであり、可愛い可愛い妹分だ。だがまあ、出てはくれたものの案の定かなり怒っている。


「あ、ああ。頼れるのがお前しかいなくてな。ちょっと聞きたいことがあったのと、頼み事を」


『頼み事、ですかー』


 ふーん、出て行ったくせにふーんと言った感じだが、ここで怯むわけにはいかん。


「ああ、その。あれだな?王都の手伝いできなくて悪かったよ。本当、悪かった!」


『はい?私が怒ってるのはそこではありませんよ?』


 真顔だ。真顔でピシャリと断言された。クソ、なら何で怒ってるんだ!


「な、なあキルト?怒ってないなら頼む。この手のはお前くらいしか頼れないんだって」


 なぜだかしらんが、キルトが怖い。今回みたいな案件で頼りになるのはコイツくらいしかいないというのに参った。そう思っていると。


『……へぇ、ヘリアスさんではなく?』


「ん?ああ、そりゃどっちを先に頼るかって言われたらまずはお前だろ。そういやヘリアスはどうしてる?」


『……まったく。ヘリアスさんはリシェラさんと日夜王都の平和維持のために色々やってくださってますよ?どなたかとは違って。で、どうしたんですか?』


 なんの心変わりか。若干まだ棘があるものの幾分か雰囲気が和らいだキルト。この機を逃すまいと、俺は話を切り出すことにした。


「単刀直入に聞くんだが、人間とエルフの間に子供ができる可能性ってあるか?」


『……へぇ。次はエルフですかぁ。節操ないですね。私は置いてったくせに』


「は?おい待て、なんの話だ」


 最初よりも何か恐ろしいものが増していくのを感じた俺は、慌てて今日あった事を若干のフェイクを入れて話す。

 リステルが珍しい例だからといってキルトが何かするわけがないが、リステルの気持ちとかもあるだろう。


『ん、まあ。ありえは、しますが。ありえません。お互いを構成されている元素がまず違います。人は肉の器、エルフは魔の器。肉に魔力が宿るのか、魔に肉を宿らせるかの違いですが』


「やっぱり?って。あり得るのかあり得ないのかどっちなんだ」


『強いて言うなら、どちらかといえば。あり?』


「まじか」


 そもそもキルトの言うように人とエルフ、ドワーフや魔獣それらは全てが違う元素でできている。

 それらを総じて生物と呼ぶが、同じ生物同士でも種族が違えば子を成そうする行為自体は出来ても結果は成し得ないというのが常識だ。

 だが、リステルのような件は一応はあり得る事だとキルトは言う。



『可能性の話です。魔王がやっていたように他種族を合成するとか、そういう話ではないんですよね?』


「ああ。普通に異種族と子供を作る場合だ」


 俺がそういうと、キルトは大袈裟に咳をして、それから何か言いづらいものを言うように口を開いた。


『えと。人の元素をエルフにその、流しこんだ後になんらかの魔道具を使って中で元素を相手に定着するような変換しちゃうというか。その逆も然りというか……』


 理論的にはそうでも、まあ何かしらの大きな力と施設が必要ですが!と締めくくるキルト。なんだか顔が赤いが……?


(____ああ、そうか。そりゃそうだ。セクハラか?これは)


「……すまないな、女性に変なこと聞いて。でもそうした場合、どちらかの種族がきちんと生まれるんじゃないか?」


 相手に合わせて元素を変化させるのであれば、と思ったのだが。


『いえ、あり得ません。どんな方法を取ろうが人は人以外にはなれず、人は人以外は作れず。他も然りです。そういうです。だから奇跡的にうまくいけば元素が混ざり合った


「なるほど?奇跡的に、か」


『はい。なんにせよ、とんでもない手間暇かけてやらないといけないことですから、そんな例があれば間違いなく両種族の愛の結晶といえますね』


 ロマンティックな話です、と頷くキルト。だが、悲しげな顔でこうも続けた。


『ですが、それを受け入れてくれるかどうかは周りの考え次第。大半の場合は摂理を超えた者は摂理の輪からは弾かれるでしょうね……』


 ある意味、バブイルに居る者たちと一緒だとキルトは締め括る。感謝されたり居場所がある分こっちの方がマシかもしれないとも。


(……種族に弾かれる、ね。トリトスしかりか。ということは、リステルは今まで)


 背負っている時の鬼気迫る様相を思い出し、俺は嫌な想像をしたが頭を振り払う。


「参考になる。ありがとよ。ついでに後一つ、頼みたいことがあるんだが」


『はい、なんです?』


「ふるーい言語の謎解きなんだがどうだ?ロマン溢れるぞ」









「ただいまー」


「えと、お邪魔します」


 通信を切ってからおよそ30分。二人の声が玄関から聞こえた為、出迎えるために向かう。


「おかえり、二人とも」

 

 俺は二人を迎え入れながら、つい先程の件を思い出す。



『謎解き、ですか』


「ああ、ちょっと真剣に困っててな。後で通信魔法通してみせればいいか?」


そう提案すると。


『……手伝うか返答する前に一つ聞きます。レイ、さっき私のこと女性って言いましたよね?妹分ではなく』


「え?ああ。当たり前だろ。って待て、お前まさか……?」


『何想像してるのかは分かりませんが、私は女ですよ。しかし。しかし、そうですか』


 ふふん、と少し嬉しげなキルトは続けて。


『気分がいいので、手伝いに行きますね!』


 と、言うやいなや通信を切られたのだが。どうやってすぐ手伝いに来る気だろうか。

 ここまではインチキなしなら王都から5日はかかる。馬車と船を乗り継いでくる為だ。便の関係でもっとかかることもある。


 リセスの指輪は万が一のことを考慮して置いては来なかったし、向こうはこちらの位置を把握はしているだろうが……


(送る方の空間転移はセブレス大陸内でしかできない、はず)


 あの空間転移には能力の制限があるとリセスが昔言っていた。

 セブレス大陸内であればかなり応用が効くものの、別大陸に誰かを送るのには大掛かりな儀式が必要であり、逆に別大陸から特定の誰かを呼ぶのは相手が答えてくれれば簡単だと。

 細かい事情はわからないが、何かしらの干渉がかかるとかなんとか。


(……まあ、今はそんなことより)


「喜べリステル。遺跡の鍵の解読、もしかしたら思ったよりうまくいくかもしれないぞ」


「本当ですか!?」


 さっきまでの話が想像通りなら、まあ。少しでも力になってやりたいと思う。


「ああ、実は王都の頭がいい知り合いに解読を頼んでな?手伝ってくれるってよ。急いで来るとしても、多分一週間くらいか?」


「それは、楽しみです!」


 目を輝かせるリステルだが、ミレットが何やら思案顔だ。


「……頼んだのってもしかしてヘリアス?いや、多分キルトよね?」


「ん?ああ、頼んだのはキルトだな」


 俺がそう伝えるとミレットはため息をつき、肩をすくめる。


「なら、多分____」



 ミレットが口を開こうとしたその時、玄関のベルが鳴った。あまりのタイミングに一瞬息が止まってしまう。


「……えっ?」


 いやいや、そんな。流石に、ねぇ?と俺は思いつつ、ミレットの顔を見たのだが。


「あのね、レイ。あの子はそういう子よ……」


 ミレットが諦めたようにガチャリと扉を開ける。


 すると、そこには見知った赤い髪。キルト・ミラディその人が立っていたのだった。


「_____さて、謎を解くとしましょうか?」


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