15.5話 恋バナのはなし
「で、再確認よ。キルトはレイが好きよね?」
「なっ?なななな!」
あの惨劇から2時間。
ミレットが作り直してくれた晩御飯をみんなで食べて、少し外の風に当たろうと出た時。ミレットが追いかけてきた。
なんだろうと思いつつも、暫く世間話しながら二人で歩いていたら急に来た質問がこれだ。
(全く。ここは、まあ。そうですね)
私はまあ、バレバレだろうけど変に揉める事はないし、適当に誤魔化そうか。そう思って口を開いた。
「はい、好きですが?」
「ごめん、質問しておいて急にスンてなるのやめてくれる?それ結構怖いのよ?」
うーん、口と頭が噛み合いませんね。なんて、考えて。
なぜか私をみて怯えるミレットを見ながら、なんとなくレイとの事を思い出す。
10年以上前。
多くの人が死んでいく中でこの国は戦える優秀なものを年齢性別関係なく募った事がある。
その際に魔法使いとしては何百年に一人の天才と謳われた当時10歳と少しの私も招かれたのだが。
年齢ゆえか子供扱いされ。バブイルの魔法使いとしての仕事をしっかり果たしても当時の他のメンバーからは邪魔者扱いされてしまうことも多かった。
それでもめげずに各地の重要拠点を防御したりしながら頑張っていたけど。
でも。守り抜いた拠点でご飯を食べているといつも、なんであんな子供が優先してご飯を貰えているんだ?という目で見られていたのは辛かった。
「魔法使い、一人か?」
だけど、そんな時。任務から帰って返り血をベッタリつけたレイが話かけてくれた。
当時は周囲で人が沢山死んだりしていたから見慣れた光景だけれど、とてもご飯中の人と会話する服装ではないと、今も思う。
だからこそ、印象に残っているのだろうが。
「な、なんですか……?」
「一人かと聞いている。少し、話し相手が欲しいのだがかまわないか?」
「え、ええ。私なんかでよければ……」
当時のレイは今と違って必要なこと以外あまり言わなかった。
話し相手、というのも単に私が魔法使いとしてバブイルで一番だったからという理由でしかない。リガルグには銃使い、ガドベスには戦鎚使いと言っていた筈だ。
「そうか。つまり、その術式は」
「はい。ここが恐らくほつれとなるでしょう」
「……凄いな。助かった。無理やり破壊するわけにはいかないみたいでな」
でも、子供扱いしないのも彼だけだった。
それからは、私は。
「執行者さん、この間の仕事はどうでした?」
「ああ、魔法使いか。順当に魔王軍の陣を崩せている。助かった」
「レイさん、あの時のは」
「む?えと、キルトか。ああ、上手くいった。だがあの術に対抗したのか_____」
「レイ!」
「ん?どうした、キルト」
次第に前線でもレイと共に仕事をこなすようになった。
私と年齢がほんの数年の差で、彼はなんでここまで多くの騎士から、バブイルメンバーから恐れられ、そして畏れられているのかがわかったのもこの時。
「なぜそんなに強いんですか?」
「ん?わからない。俺からすれば誰それが強い弱いじゃなくて、ただ仕事をしているだけだよ」
そう、本当にそれだけで魔王を討ち取るまで行った彼。
私は彼が戦場で肉体ではなく心が傷ついていく様をみた。彼は気が付かないけれど。
ただ、それを見ている内に自分自身の思いに引っかかるものができた。
でも、それを自覚するには当時の私は子供すぎたのだろう。
終戦後、彼が王女から魔王討伐の証として指輪を。つまり、遠回しな結婚して宣言を受けた際に、ようやく私は自分の心を自覚した。
この国、というより古の慣習よりそうした勇者と結ばれるというのは確かにある。
しかも、レイも王女の事はリセスと呼ぶし、なんだろう結婚しちゃうんだろうか?と。体が重く、沈み込むような感覚が現れた。
玉座の間、前王とリセス。そしていずれ王になる者の前。私達バブイルメンバーが見守る中彼が出した結論は。
「リセス、王女。私はただの処刑人です。そのような高価な物は賜れません。それは国同士の友好で使われるような物。大切にされますよう」
そう言って、辞退した彼と。
呆然とするリセス王女、空を仰ぐ前王と王となるものを見て。
私は心の中でガッツポーズを決めていた。
ちなみに、辞退した理由は本当は高価な物だからとかではなく。単に受け取ったらしがらみが増えそうだからと言っていた。
報酬とかなら後腐れないが、指輪などには何かしらの制約があったりする。
要は魔王を打倒した自分=脅威と見做され、なんらかの制約で縛られる可能性を考えて受け取らなかったという事だった。
確かにあの指輪には
"あるいは、知っているからこそ?"
兎に角。私はそれから、色々アプローチをしてみたり、色々遊びに誘ったりしてみた。
これは所謂デートなのだろうが、当時の私にその認識はなく、必死に二人の時間を作りたいだけであり。
多分レイも妹分を遊びに連れて行ってやるか程度だったに違いない。
だからだろう。それからなんの進展もなく、月日は流れ。レイに後輩ができて不安になったりしながら迎えた、死刑制度がなくなった日。
「もしかして、俺はお役御免かな」
なんて、談話室でひとり呟いていたレイ。表の仕事は処刑人、裏の仕事は執行者。そして、魔王を討伐した英雄。
どう考えても国の重要人物がいなくなるわけがない、と笑い飛ばして私は特務へ向かった。
特務と言っても内容はなんて事ない前線基地の術式の張り直し。急におかしくなった為見て欲しいとのことで、見た結果確かにめちゃくちゃになっていた。頑張って張り直して、王都への帰路に着き。
レイを探しても、どこにもいなかった
書き置きなんかもないし、他のバブイルメンバーも知らぬ存ぜぬ。
何かしらの特務だろうという声8割、クビになったか、という冗談2割。
「早く帰ってこないかなぁ」
最近、王都近辺で出没する謎のクレープ屋の話を聞いたのだ。二人で行ってみよう。
なんなら、ミレットも誘ってあげてもいい。アリエスはまあ、お土産でいいか。
そう思っていたのに。
「はぁ」
「ちょ、ため息止めて!私、キルトに言いたいことあるの」
「……なんですか?」
真剣な顔でそう呟くミレットは、私に向けて。とても大事な事を言うように、呟いた。
「私、ズルした」
「……はい?」
「キルトに勝てないから、ズルズル行って結婚しちゃった」
「ん?」
喧嘩を売っているのか、と思ったがそうではないらしい。
聞くところによると、レイと私の信頼関係に勝てるわけがなく、ズルをしないと勝てないと思っていた。
だが、例の一件以降、なし崩し的にそういう関係に収まり。ギルドカード的には婚姻関係にあたるようになってしまった、と。
後悔はしていない。でも、ズルをした事は言っておきたい。
だからここに私が来た時に、事情はなんとなく察していたもののああいう態度をとってしまったと頭を下げてくれた。
「だから、レイが私を妹分扱いして態度が元に戻ったんですね」
「うん。ごめんなさい」
全く、可愛い人だと思う。終いには私はキルトにズルをされても仕方がない、と。
そう白状したのだが、はて。
「ミレット、何を言ってるんです?」
「え?」
「ずるしようがしまいが、私は負けてましたよ。レイが言っていたでしょう?可愛い妹分だって」
「でもそれは!」
「ええ。横槍がなければ既成事実だのなんだの、打ってはいたかもしれません。でも、それはいつ?それまでにミレットみたいな不届きものが出てこない可能性がないわけではないでしょう?」
「ふ、不届きもの……!」
ガクリと崩れ落ちているが、まあ。これくらいは許されるだろう。
「まあ、ズル一回分許されるなら、まあ。そのうち、ですね」
「えっ?キルト?今なんて……」
「いえ?奥方の公認をいただいたので。決められる時に決めてやろうかと。略奪愛、ですか」
「ま、え?なんの!?てか、略奪はだめよ!南の大陸は重婚を認めているわ!そっちなら許す!」
「そっちのほうが問題あるのでは!?いいんですか!」
「重婚なら私が二番になっても一緒にいられるでしょ!?」
「貴女結構後ろ向きですね!?てか、病んでません!?」
なんて。くだらないやり取りをしていた時、また真剣な顔をしたミレットが呟いた。
「だって、あいつ。すぐ無茶するから。止められる人が多い方がいいのよ。まあ、こんな事言うのはキルトだからだけどね?」
「……その信頼はどこから、と思いますが。そうですね。止められる人が多い方がいいです」
彼は、その力ゆえに倒せる者が居ないだろうという確信がある。
しかし、ふとしたきっかけで無理が祟る事もあるかもしれない。
だから。
「では、そのつもりで」
「うん。奥様としてキルトのアプローチは容認します。レイには、内緒ね」
二人、密約を交わす。
もう直ぐ夜明けだ。
寝なくて済むように自分とミレットに魔法をかけ、きたる朝に備える。
「まあ、後の理由としてはさ。アイツみたいな奴を狙う物好きな人が他にいないとも限らないじゃない?今判明してる人は除いてさ」
「ああ、止めるってそういうのも……?」
二人、登りゆく朝日を眺めながら。
レイがまた知らぬところでフラグを立てませんように、と太陽の神にお願いするのだった。
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