第二十六話 魔王降臨(後編)

 魔王ではない。その言葉を聞いて動揺した一瞬の隙をつかれ吹き飛ばされる。

 城外に吹き飛ばされ、あわや落下するということろで。


『レイ!無事!?てかその姿何!?』


「ああ、無事だ。コレはまあ気にするな!」


 高速で飛んできたナイチンゲールに着地した。魔力で外側に居ても飛ばされないように足を張り付かせる。


『無事でよかったです。あの距離では通信も届かないですし!』


『そもそもあんな所に飛び込めないしね。なんとか隙を窺ってたんだけど遅くなっちゃった。ごめんよ』


「いや、いい。助かった!主砲を撃ちながら接近し直してくれ!」


『了解』


 高速で夜の空を駆けながら旋回し、玉座の間に戻ろうとするナイチンゲール。

 それをさせまいと黒龍が炎弾を吐いて来る上に、ラルティも翼を背中から生やし、凄まじい勢いでこちらに飛んで来たのだが。


『邪魔よ!』


 ナイチンゲールが炎弾を錐揉みに回避をする中、ミレットがめちゃくちゃに撃ち込んだ一撃がラルティに激突。


「あっ」


 俺は思わず声を出したが、ラルティはそのまま城の中に吹き飛ばされていった。


『あ、あの!?今のラルティの鎧に見えたのですがっ!』


『自分にもそう見えたねぇ……』


「気のせいだ!今は兎に角あの2人を!」


 ラルティの鎧は魔法耐性も高い鎧だ。だからナイチンゲールの砲撃でも無事なはず。それよりあの魔王をなんとかしないと。


「メメントモリ、さっきのはどういうことだ!?」


『言った通りでしかない。彼奴は正確には魔王ではない。中身は複雑に混ざり合った何かだ。それでいて魔王と同じ力、同じ精神性を有していると出た』


 高速で飛来する炎がナイチンゲールを掠めていく中、王城の直上まで抜ける。

 夜天の空に月が見える中、真下には破滅を告げる黒龍。

 赤い目を光らせ、こちらに最大威力の炎を吐いてくるつもりのようだ。

 赤熱した顎からは炎が燻っているのが見える。

 こちらを見上げた魔王も、ナイチンゲールを狙ってか掌をこちらに向けて魔力を上昇させていた。

 たぶん、コレがお互い最後の一撃になる。


「離れてろ!」


 俺はナイチンゲールから飛び降り、魔王達の元へ落下する。後ろから悲鳴のような心配する声が聞こえるが、大丈夫だ。


「相手が誰だか知らないが、魔王を騙るならそれはもう魔王でいいんだよ!メメントモリ、再度存在記憶を!」


『承知』


 存在記憶から洗い出されたその刑罰。それは


『ギロチン刑執行許可』


 月を背に、巨大なギロチンが作り上がる。壊れた天秤の相手を常に上回るというインチキと、この最終手段によって増幅され出来上がったそれは、城を真っ二つにするほどの大きさになっていた。


『執行開始』


 落ちていくギロチンに対して黒龍の炎と魔王の魔力が激突。黒龍の炎は純粋な魔力ではないため単に上回ることはできないものの、ジリジリとギロチンが勝り、落ちていく。


「落ちろおおおぉぉぉ!」


 俺の叫びと共に遂に、魔王と黒龍を捉えた。


 ギロチンが直撃し姿を消していく黒龍の目とすれ違いながら、フライの魔法を使用。真っ二つで壊滅状態の城に着地する。周囲を油断なく見渡すと。


 魔王はまだ、生きていた






『ふはは』


 倒れ伏し、虫の息となっている魔王。

 羽はもげ、腕は吹き飛び。

 しかし、そんな状態で何がおかしいのか、空を見上げて嗤っていた。


「何がおかしい」


『なに、人の世はかくも醜いのに、夜天の星空はいつの時代も綺麗なままだと思ってな』


「……そうかよ。最後の景色が見れてよかったな。じゃあ答えろ。城の他の連中はどこいった?お前の目的は?ラルティを元に戻す方法は?」


『……ククク。私の目的、か』


 そう言って俺を見て来る魔王フェレトは、どこか。俺を憐れむような、悲しむような。



「……どういうことだ」


『そのうちに分かる。城の者たちは皆催眠をかけて城下町に避難させてある。明日には城に戻って来るだろう。あとは、ラルティ。あの者を戻す方法は、コレを飲ませよ。彼奴は完全に合成させたわけではない。取り憑かせただけだ』


 そう言って懐からポーションを取り出した魔王は、徐々に輪郭を保てなくなっているようだった。

 だが、訳がわからない。黒幕かと思ったら誰かが裏にいる?なんで避難させた?ポーション?


「おい、おい!なんだかよくわからないまま姿を消そうとするんじゃねぇ!おい!」


 胸倉を掴み上げ、起こそうとするものの、ダメだ。徐々に消えていっている。


『そうだ、ヘリアス。彼女には伝えておいてくれ。私の生前、よく働いてくれたと。そして、執行者』


「あ!?」


『暫しの一時、楽しかった。武器を取り上げなかったのは、私の楽しみのためだ」


 ケラケラと、嗤う魔王。もうこいつとどめ刺していいよな?どうせ死ぬし。そんなことを考えた時、急に無言になり俺の方を見た。


「ゆめゆめ忘れるな。大きな闇が現れる。そして』


 獰猛な笑みを浮かべた魔王は、かつてをなぞるように俺に告げた。


 "死を司る者。お前に安寧は来ない。死んだとしても、な"


 そんな捨て台詞を残し、夜風に散るように消えていく。


「なんなんだよ……」


 俺は、こちらに向けて降りて来たナイチンゲールからミレット達が降りて来るまで魔王がいた場所をただ見つめていたのだった。




「全く、無茶をして!」


「すまんすまん、あの状況ならああするしかなくてな」


 予想通り、俺はミレットに怒られることになっていた。


「2度も魔王を倒すとはねぇ。もう勇者を名乗るべきじゃないのかい?」


「そうですよ!それに、流石に今回はリセス王女が許さないと思います。前回はあーだこーだ言って逃げてましたけど!」


 リガルグは呆れ顔で、キルトは興奮気味にそういってくれるが、なんだろう。


「俺はそんなもんじゃないさ。ガラじゃない。それに、まだ終わってないしな」


 終わっていないという言葉に対して訝しげな顔をした3人に、先ほどの事を伝えたのだった。





「そういうわけで。とりあえず、キルトはアリエスに連絡を。ヘリアスとガドベスの件含めて状況を報告しておいてくれ」


「りょ、了解です!大変なことになってきました」


 話し終えた時、それぞれの頭にはやるべきことが浮かんでいた。

 その場で魔法陣を展開し、連絡をとり始めたキルト。

 リガルグは魔力も回復した為、場内に吹き飛んだラルティの様子を見にいくと言って急いで降りていった。


 ミレットといえば。


「私は、レイのそばにいる事しかできないし」


「……ん、それで十分だ」


 2人、空を見ながら座り込む。


「なんだか、大変なことになったわね。流石に死んだと思ったわ。遥か遠い大陸で起きた伝説の戦いを目の前で見ることになったんだもの」


「そんな大袈裟なもんじゃないだろ。あと、お前らは死なせない」


「何よそれ。黒龍が出てきた時、ナイチンゲールちゃんの中ずーっとすごい音なってたのよ?ビービービーって。鳴るたびにリガルグとキルトが冷や汗かいてるし」


「ああ、なるほどな」


 魔力感知して危険があれば鳴るあれだろう。やはりナイチンゲールは生き物以外の何かだと思う。意思を感じないもの。


「それよりレイ、その姿は?」


「ん?これか」


 俺の姿が変わっており、周囲に紙片が舞っているのをみてすごい顔をしているミレット。


「なんか見たことない文字がたくさん書いてあるし、背中のその文字は何?」


「俺にもわからんよ。コレはバブイルのメンバーができる最終手段みたいなもんなんだが。メメントモリ、結局コレなんなんだ?」


「え?知らないまま使ってたの?」


 半眼で呆れるのをやめろ。力の内容は把握してんだから。メメントモリの刀身が輝き、言葉を発する。


『その姿は異界の冥王の力だ。お前は天秤に私という死刑器具、冥王の力を持つ者ということになる』


「ん?つまり、メメちゃん。レイは冥王とどこかで契約したとか?」


『……メメちゃん。まあ、そうなるだろう。私が契約する前から持っていた力ゆえわからぬが』


「え?俺が元から?」


 その会話を聞いて違和感を持つ。メメントモリと契約したのは対魔王軍の時。コレを使ったのは魔王との決戦の際にメメントモリを経由して呼び出したのが初めてだ。

 それまで最終手段を使ったことがなかったからわからなかったが、しかし。


(俺が元から持っていた……?)


 何か不思議なものを感じるのと、キルトが声を上げたのは同時だった。


「2人とも!ガドベス達は無事ですよ!勿論、ヘリアスさんも!」


「本当!?」


 ミレットが喜び立ち上がり、キルトに駆け寄っていく。


「はい!今こっちに向かって_____」


「なら_______」


 2人の会話を聞きながら、俺はひとまずの安寧による眠気に、身を任せたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る