第十四話 能力と、次の目的の話(前編)
あれから10分。
俺たちは再度、応接間で向き合っていた。
室内には人が二人増えたことと、先ほどより距離が近くなっているミレット。そして何処か仄暗い目をしたキルト以外は特に何も変わらない。
「さて、さっきの北の大陸の魔法使いの件というのは?」
俺の問いかけに頷くアリエス。
「ええ。その前に、この場のメンバーってアリアドネの糸の事は知ってるわよね?」
【アリアドネの糸】
これは、ある宝珠が生み出す魔法の糸を用いた最上位の探知、検知魔法だ。その宝珠はミュライト家の者にしか使えない。
街や物、人に対して蜘蛛の糸のように張り付けておく。そうする事で、糸に接したものから様々な情報を拾うことができるようになるという物である。これをアリエスは王都の至る所に張り巡らせ、常に王都の平和に貢献してきた。
ちなみに。この仕組みを知るものはごく限られたものであり、どんなに親しくて仕組みを伝えてはならないという縛りがあるらしいのだが。
ミレットとリセスは公爵家と王家なので、この魔法の特性を伝えておかないと不敬になるため特例で知っている。
キルトはアリエスと何度も組むうちに仕組みを看破してしまったらしい。
俺の場合はまあ、糸が俺自身に張り付かないことを怪しんだアリエスに問い詰められた際、俺の力を教えるのと交換条件で教えてもらった。
「私はシラナイワ」
ヘリアスがすっとボケているが、嘘だ。コイツがこと魔法において知らない事があるわけがない。
「アリエス、コイツのことは知ってるんだよな?」
キルトには伝えていなかったようだが、俺の現状は知っていたようだし。ヘリアスの事も知っているはず。
「え、ええ。でも、知らない?本当に?」
「ああ、知らないんだ」
一瞬リセスの方を見て、アリエスの方を見る。それだけで伝わったようだ。
「……なるほどね。じゃあ、アリアドネの糸っていうのは」
しばし、アリエスからの解説が入る。ヘリアスはふんふんと頷き目を輝かせているが、アリエスは大変やりにくそうだ。腐っても元最強の魔女に講釈を垂れているようで緊張しているのが見て取れた。
「というわけで!本来そこのインチキくらいしか私の糸を防ぐなんてできないはずなのよ!」
顔を赤くし、怒鳴るように話しを終えたアリエスだが、俺に当たらないで欲しい。
更には俺の方をみるアリエスにつられて、みんなが俺を見はじめた為、さらに居心地が悪くなる。
「あの、レイさん。一応の確認なのですが、敵が貴方の技術や魔法を模倣している可能性は?」
「……それは」
それはありえない。とリセスに話そうとした時、意外にも横から否定が入った。
「ありえないわね」
「……なぜ、ミレットさんが否定出来るのです?」
怪訝な顔をしたリセスに対して、否定した割に不安げなミレットが俺の顔を見る。
「……話して大丈夫?」
どうやら確認を求めてきていたようだが、このメンツに対してなら問題ない。
「大丈夫だ」
「わかった。じゃあ、リセス王女。レイの能力はね……」
ミレットが、リセスに語り出す。
俺は二人が話す間、昔ミレットに教えた力の内容を思い返していた。
それは、こいつが後輩になって数件の仕事をこなした後のこと。
王城の談話室にて、次の仕事の計画を練ろうという話をした際だ。
俺の能力が調べても全容がわからない為バックアップが難しいと文句を言われたのだが。
『……壊れた天秤?』
『ああ。俺の能力は、キルト曰くインチキだ。例えば、相手の能力が自分より上だったりした場合。お前ならどうする?』
いいながら、俺はインテリアとして置いてある天秤を用意した。
それに置いてあったお菓子を片方に三つ乗せると、天秤は傾きお菓子の方が下に下がる。
『え?えと。逃げるか、勝てる手を用意して不意をつく、かしら』
『テキスト通りだが、そうだ。が、俺の場合はだな』
俺は何も乗っていない方を手でぐいっと下げてやる。当然、手で下げた方が下がるのだが。
『いうならば、これだ。相手と自分を秤にかけた上で、相手が上回るというその結果を自分の都合のいいように変えることができる。これが俺の力だ。逆に言えば、相手がいないと成立しない力でもあるが』
『ふむふむ、というと、つまり。常に相手を上回れるってこと?』
『ああ』
『……どんな天才や、下手したら魔王みたいの相手でも!?』
『……ああ。なんなら、俺はこの秤の力で他者の魔法が俺に当たらないようにしている。精神攻撃魔法対策でな。だから、キルトの切り札も、お前がアリエスから説明を受けた糸も届かずに遮断するんだよ』
『インチキじゃない!?』
『キルトみたいな事を言うなよ……』
『まって、それを使って処刑や執行をしてるって事?秤にかけて?』
『場合によるが、そうだな。だが、この能力は自分以外の生命相手に力を使う場合は制限がかけられる』
『制限?』
『ああ、生命相手に発動できる条件は、相手に罪がある事だ」
「罪?」
「そうだ。まあ、これもインチキと言われそうだが。相手がどんな存在であれ、生命である限りは人として裁く。例えば魔獣や精霊が人を殺めれば、それは殺人罪として扱う。だから、力が使えるようになる」
「んん?逆に言えば、相手を人の定義に落としちゃうってこと?魔獣でも精霊でも?」
「ああ。相手が純粋な生命でない場合は力が通じない。例えば、
『へぇ。じゃあ、例えば相手がキメラで強かったら負けちゃうんだ』
『ん?いや、天敵とは言ったが。言ったように相手を常に上回れるから魔法や体術で応戦する。場合によってはメメントモリを呼び出して1番切れる剣を使って……』
『わかった!わかったわ!全く、そんなデタラメインチキ、どこで手に入れたのよ?!』
『ん?ああ。昔、殺されかけた。その時だな』
『え?あ、えと。それは、何?相手は魔獣か何か?』
『いや?俺を殺しかけたのは神様だよ』
そこまで思い出していた時、ちょうど二人の話が終わったようだ。
「だから、センの能力は技術とか、そもそも魔法とは違うものかもしれなくて。模倣できるわけがないんです」
「それは、なんとも……」
「ええ、インチキもインチキですよ。私の切り札も容易く無効化しますしね」
「おい、なんだその目は。そんな目で俺をみるな」
ジロリと睨んでくるキルトの視線を躱すと、内ポケットのギルドカードが目に入った。
キルトのいうインチキの効果はギルドカードにも影響する。
前王の時代に、ある事情でギルドの適性検査に似た物を受けさせられた際、数値が高すぎて測定不能という判断になってしまったのだ。
壊れた天秤を弄ると若干結果が変わるため、なんらかの干渉をしているのは間違いないのだが、結局、結果は測定不能になってしまう。
もしあんな結果がギルドの窓口で出たら、確実に面倒ごとになるだろう。
「さ、そろそろ俺の話は終わりにして、北の大陸の魔法使いの話に戻ってくれ」
その場の全員から呆れたような視線を受けた俺は場を切り替えるべく、そう提案するのだった。
「
「ええ。本名、性別、年齢、すべて不明。でも、レイみたいなインチキを除けば私の糸を無効化できるのは、恐らくこの人だけよ」
本題に戻った俺の耳に入ったのは聞きなれない二つ名だった。
魔法使いの話をしていたのに殺し屋みたいな二つ名が飛び出した為驚いたが。
「私たちも今回の件以降初めて知ったの。でも、実力が知れ渡ってないとかではないのよ。一つずつ調べていくと、主に北の大陸での確かな活躍の話は出てくる。でもそれらは完璧に隠蔽されていた」
「……誰によって?」
「多分、本人でしょうね。強力な認識阻害の魔法を使用した形跡があるわ。ただ、問題なのはそこではなくてね」
一枚の紙を渡してくるアリエス。数名の名前と、亡くなった場所などの情報がならんでおり、全員がミュライト家のようである。死因も書いてあるようだ。
(死因は、6人全員バラバラだな?)
「アリエス?これがどうした?」
「……殺されてるのよ。そのリストの全員が。そして、全員が毒殺されている。その事実を完璧に隠蔽されてね。そして、この全員がアリアドネの糸の使い手よ」
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