第十一話 よくわからない話
「……で、言い訳があるなら聞くけども。どうする?」
「言い訳なんてありませんよ。ね?レイ」
「執行者はモテモテねぇ。見てて面白いわぁ」
3人の視線が、それぞれの感情を込めて俺に向けられる。
ライトスにある、ミレットの別荘。
そこに、俺達は戻って来ていたのだ。
「「ねぇ?目、そらさないで」下さい」
「……助けてくれ」
「無理よ。私も怖いもの」
こうなった原因としてはまあ、十中八九キルトを連れて帰って来た事なのだが。
何故かヘリアスの時以上に恐ろしい顔をしたミレットと、俺に「体調がまだわるいのですぅー」とか言いながらしなだれかかってくるキルト。そして役に立たないヘリアスという、まあ妙な状況になっている。
俺はなぜこうなったのかを真剣に考えるべく、窓から空を見上げるのだった。
〜1時間前〜
とりあえずの回復をしたキルトは、残った死体から今回の件の調査をしようとしていた。時間は限られている上に、アリエスの安否も確認しないといけない。
そのため、せめて腕の秘密だけでも解析しておきたいとキルトは息巻いていたのだが……
「「死体が、消えた……?」」
口を揃えて唖然とする。敵の死体が目の前で灰になり、消え失せたのだ。
「あの、レイ。なにをしてんですか」
「待て、俺のせいじゃねえよ」
「だって、レイが倒したんですよ?私、見てました」
「……ああ、たしかにそうだな」
ふと、悩むキルト。そして明確な答えを導き出した時の顔で、俺に向き直る。
「てことは、これはレイの」
「だから違うっつの。今までも斬首した相手が灰になったことないだろうが」
こいつ、さらっと人のせいにしやがる。
でも確かに、最後に触った人が犯人理論で行けば俺が犯人になるのか?
いや待て。まだ結論付けるのは早い。だからその視線はやめろ。
「……ふふっ。冗談です。恐らく、証拠隠滅用に何か魔法を仕込んであるのでしょうね」
キルトは死体があった場所を触り、魔法陣を展開。なにやら解析し始めた。
聞くと大体5分ほどかかるという事で、俺はその間に伝達魔法を使ってヘリアスに連絡をとることにしたのだが。
【おはよう ヘリアス。 ミレットが 目覚めたら 上手い事 取り繕って おいてくれ】
そう送ったのに
【無理 私には 無理 がんば笑】
(……がんば?いやまて、これは)
俺は這い寄る悪寒を必死に抑え、キルトに聞く。
「な、なあ、解析はまだかかるのか?」
「……ん?やけに焦りますね?」
魔法陣の操作と解析に忙しいのは分かっている。しかし、今の俺は一応一般人で妻帯者だ。朝帰りは世間体というか、なんというかそういうものに本来は引っかかるわけで。
心配しながら怒り顔を浮かべる、
「……ああ、うちの嫁が朝帰りを怒ってるかもしれん。とりあえず、早めに解析を終わらせてくれ」
「はあ、それは大変ですね。嫁ですか……」
そう呟いたのを最後に、無言で解析魔法を操作しているキルト。
その手から杖が倒れたのは、30秒後だった。
「お、おい!?キルト?どうした!」
まだどこか痛めていたのだろうか?俺は不安になり駆け寄るが。
なんだ?こちらを振り向くキルトの目が、やばい。何かって、何だこれ。やばい。
白目がなくて全部黒目なんじゃないかってレベルに、なにかがドス黒い。
「……嫁?嫁ってなんですか?あの嫁、ですか?」
「あ、ああ。お前がどの嫁を指しているのかは分からんが、人に対して使う呼称のほうだな」
「へぇ!?ご結婚された?いつ!?誰と!?」
ギギギ、と。解析魔法に対しての手も止めて、首がこちらを向いてくる。
「み、ミレットだが。城から追い出されたあと、何やかんやあって、深い仲になってだな」
どんどん目が怖くなる。
なんだ?俺は別にやましい事してないのに、この視線が俺をすごく責め立てる。
「ええ、はい、それで?」
怖い目をしたままこちらに完全に向き直り、歩いてくる。おかしいな。魔力は回復してないはずなのに。何だろうこの迫力は?
(にしても何でこんな怒ってんだ、コイツ?)
本気でわからない、わからないが視線が続きを話せと訴えてくる。
「あ、いやまあ、言ってもだな?まだ正式な結婚式をしたわけではないんだが」
「……あぁ!なるほど。そういう体ですか!ミレットさん公爵家ですもんねぇ。後任の人事もきな臭いですし。それなら理解し」
「あ、いや。偽装とかではなくて、ギルドでは夫婦で登録されてるし。そのうちきちんと式はあげたいと思ってるよ」
流れで進展した仲ではあったが、今ではかけがえのない相棒だと確信している。そう告げると。
「うひゅー」
よくわからない息の吸い方して、また井戸の底みたいな目をするキルト。
「なんだ、知らなかったのか。俺の状況はアリエスから聞いてるもんだと思ってたんだが……」
「……あはは!アリエスですか?アリエスなら絶対にレイの居場所は抑えてると思って、例の招集後に真っ先に聞きましたよ?」
「お、おう。なら、どうなってるかも……」
「あのね!あのね?アリエスは、トキガキタラハナスしか言わないの!どうなってんだろ?」
暗い眼が、儚い残り魔力によって煌々と光る。背筋が凍るような目をしないでほしい。そんなもんは敵に向けてくれ。
「そ、そうなのか?」
「そうなんです。だからね?見つけ次第、殺す」
「まて、誰をだ!?おい!キルト!?」
落ち着け、俺。状況はよくわからないが、もしかしたら精神汚染的な攻撃を受けていたのかもしれない。
キルトがその手の攻撃でダメージを負うはずもないが、あの敵は厄介だった。
魔力が少ない今のキルトでは解除が難しいのかもしれん。
(それに……)
チラリと、血だらけの衣服の隙間から見えるお腹に視線を沿わせる。
ポーションの効果とキルトが魔力で無理やり塞いだらしい傷も、しっかり見ないと不安だ。
ヘリアスあたりなら精神汚染がされてても解けるかもしれんし、今はまず。
「よし。キルト、とりあえずうちに来い」
「…そう。まずは見つけだしてそれからってへぁ!?」
ぶつぶつと呟くキルトの肩を掴み、グイッと顔を近づける。
精神汚染系の魔法を受けている相手は意識がとっ散らかり、錯乱することが多いのだ。
こうして目を見て、しっかりと言い聞かせるように説得をしなければならない。
「今のキルトは少しおかしい。とりあえず、ウチならしっかり見れるやつがいるから来い。アリエスはまず大丈夫のはずだ」
「はい!?はい!行きますとも!」
暗い眼のままではあるが、鼻息荒くふんふん言いながら元気に頷くキルト。
(……よかった。やっぱり無理をしてたんだな。休めると聞いて元気になるとか。全く)
妹分の元気さに、自然と笑みが溢れる。ニコォと、キルトの笑みも溢れた。
「とりあえず、家に連絡取るからな。少し待ってくれ」
俺は伝達魔法を使い、ヘリアスに再度飛ばす。
【今から1人 連れて帰る ご飯を用意 しておいて やってくれ】
すぐに返信は来た。
【お前が 飯に なりたい のか?】
「は?」
不思議に思っていると。続きが……
【また この パターン か?と。 ミレットが 鬼】
なんだろう、変な汗が出てくるが。キルトを放っても置けない。
俺たちは行き先を家に定めて歩き出した。
「あはは!たのしみだなぁ」
やけに楽しそうなキルトの声が、耳に残る中、しばらく歩いて。
冒頭に至る。
〜1時間としばらく後〜
「「「…………」」」
長い、長い沈黙が場を支配する。
(キルトとミレットは元々知り合いだから誤解はないはず。はずなのだが?何だろう。このいたたまれない空気感。なぜ?)
俺は周囲を見渡し、考える。よくわからんが、まだこの状況を打開する策がどこかにあるはずだ……!
必死に、答えを求めるように視線を走らせる。
だが、現実は
「……いや、ないでしょうね」
「笑ってんじゃねえぞ、ヘリアス」
いつのまにか、すぐ隣に来ていたにやけ面によって打ち砕かれた。
未だなぜかバチバチに睨み合っているキルトとミレットからこちらに逃げてきたようだ。
「なぜだろうな?」
「うぅん、スケコマシは死ねばいいんじゃない?」
「は?」
絶望したようなヘリアスの顔が見えたが、俺は思案する。俺の前回の反省を生かした立ち回りによって滞りなく、何事もなくおさまったはずの会話。
俺はそのどこかに落ち度がなかったか、必死に探すことにした。
〜5分前〜
『『目、そらさないで』ください』
『……逸らすも何もねえよ。前回と同じような状況だって、ミレットも察してんだろ?キルトの服、血塗れだし。それなのにそんな目をするのか?』
『うぐっ!』
そう、まずは変えられぬ状況を叩きつけ、さらに前回を強調することによってミレットの良心の呵責に訴える。下手な容疑をかけられないように
『キルトも、何でそんな出て行きたがってんだ?まずは休息というのは基本だぞ』
どの口が、というミレットの視線はさておき。
『それは、分かってます。ただ、今にもレイごと私を追い出しそうなので……』
『レイにはそんな事、しないわよ?』
両者ニコォと浮かべる笑顔は怖いがとりあえず。
『ミレットはそんな事しねえよ。とりあえず、お前はどの道帰るわけだし、お前はお客さんなんだから休め。ミレット、客間あったよな。この別荘?』
『おきゃ、く?』
『ん?ああ。すまない。客ってのは、他人行儀すぎたか』
『……そう!そうですよね?私はレイにとって____』
『言わなかったが、お前は俺にとって可愛い妹分だ。そんな雑な扱いはしやしねぇよ』
なんだ?キルトの目が……?
「くっ、ふふふっ」
ヘリアスは笑ってるし
『ふぅん?妹!妹かぁ!仕方ないわねぇ!?さあキルトちゃん。客間はこっちよ!』
ミレットは大変上機嫌になっていらっしゃる。
『う、かはっ』
『どうした!?やっぱり体調悪いのか!?ヘリアス、頼む!』
『たの、頼まれたって!うひっ!ひひひ!もう、もうやめてぇ!』
三者三様に顔色がコロコロ変わる中で、一際ゲラゲラと笑うヘリアス。一体何がおかしかったんだ?
〜5分後に戻る〜
客間に行かず、へリアスの治療も受けず。ただ睨み合ったままの2人を見ながら、1人呟いた。
「やっぱり、何が悪かったんだろう?」
「何もかもじゃないの?」
笑い疲れたようなヘリアスの声が、室内によく響いたのだった。
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