第16話

「貴様!」

 そこはさすが、一団を率いる男。

 尋常ならざる事態に動揺も刹那せつな。ばね仕掛けともいえる素早さで、すぐさま刀を引き寄せ、抜く手も見せぬ居合いの一閃。

「惜しいな」

 夜陰やいんの冷気をも裂く鋭い刃風も、一寸、源十郎には届かず。

「むう……」

 伸びきった腕を引き、立ち上がれば刀を引き、八双はっそうの構えに移る頭目。

 その後ろでは、悪の算段さんだん含んでいたもう一人、人の気配に驚いて逃げ去るイタチのように、這うようにしつつもさっさと裏口から飛び出していった。


「おまえは逃げないのか?」

 と、源十郎が不敵に問えば、

「そのぶんだと……」

 じりじりと、土間に下りて、頭目は距離を詰めてくる。

「計画は失敗か」

「ああ」

 平然と、源十郎は言い放つ。

 頭目はそれで、さてどうするかと思えば、

「そうか……。なら、おまえを斬り捨て、活路を見いだす!」

 殺気を刀に込め、カッと目を見開いた。

 源十郎、それも鼻で笑う。

「手下がどうなったより、てめえが大事か?」

「当たり前だ!!」

「そういうところが、悪党だよなあ」

「チッ……」


 源十郎、いまだ刀に手をかけることもせず。

 殺気のみなぎる白刃迫ってもなお、源十郎は扉の前に突っ立ったままだ。

 これではでかい的である。


 頭目には、そう見えたであろう。


 じりじりとすり足も、

「きええぃっ!」

 気合声も甲高く、間合い一気に詰める、それは捨て身の飛び込み斬り。

 が、冷静さはやはり欠いている。

「狭い室内ってこと考えやがれ」

 勢いよく振りかぶった刀は、小屋の天井にぶち当たったのだ。

 半歩、源十郎は引いた。それに釣られてさらに大きく振りかぶったのがいけない。

「あ……」

 と、頭目が刀を引き直すよりも早く、

「ぐっ……」

 源十郎の刀の柄頭つかがしらが、胸の急所にめり込んでいた。

 息を詰まらせた頭目が、刀を落とせば、そこで終わり。


「ほらよ!」


 長い足も器用に折り畳み、きゅっと軸足ひねれば、馬ほど強烈な源十郎の蹴りである。

 頭目は吹っ飛ばされ、壁にめり込むようになれば、もはやぐったり起き上がれない。


「あともう一つ」

 やれやれ手間を取らせてくれると、源十郎は逃げた最後の影をのっそりと追った。

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