第6話

(ちったあ、まともな判断が出来る奴もいるようだな)

 源十郎、無言のままだが、心中では舌を巻いていた。

「通り悪魔が出た!」

「逃げろ、逃げろっ!」

「巻き込まれたら、俺たちも取り憑かれるぞ!」

「早く……、は、早くっ! 子どもをまず、隠せ!!」

 と、町の人々は叫んで逃げていくが、果たしてそうか?

 この一団、通り悪魔のうわさにかこつけて、それを隠れ蓑にでもして、よからぬことを企んでいるのではないか。

 源十郎の思考はそこまで回っていたのである。


「さっさと行け! 時間を置くな!! 役人が来るぞ!」


 源十郎を遠巻きに、ころがされた一人を助け起こし、まだ町がざわついているうちに逃げ散じようとする鬼面の一団。

 無言でにらみつける山門の仁王像のごとく、源十郎は動かずとみて、ついにダッとみな、また駆け出した。


「そいつは、置いていけ」


「あ……」


 と、いう間もなく、麻袋にくるまれた何か大きなものを源十郎は奪い去った。

 それを足下に置き、再びギロリと一団を、頭目とおぼしきものをにらみつける。

(さて、どう出るか)

 にらみ合い、対峙もしばし。

「くっ……」

 面の裏で歯噛みしたのが聞こえたようだ。

「退け!」

 結局、仲間と共に走り去っていった。

 大事な荷物でも、こだわれば大けがをする。

(そこそこ当然の判断といったところか)

 駆け去っていく一団に、源十郎は納得していた。

 しかし、誰も追えない。

 源十郎も追わない。

 秋の驟雨しゅううのような、一瞬の出来事であった。


 秋風が、何事もなかったように通りを吹きぬけた。

 ざわざわと人が戻ってくる。

 それでもおっかなびっくりではあるけれど。

 寄り合えば、無事を確認しつつ、通り悪魔が人に取り憑けばああなるのだと、「くわばら、くわばら」と首をすくめ、あちらこちらでひそひそ話。

 それを横目に見つつ、

「通り悪魔、ねえ」

 源十郎、ぽつりと独りごちた。


 源十郎の興味は、奴ばらが無念にも置き捨てていった麻袋に移っていたのである。

 それが何か、確認してみようとするのは人情というものだろう。源十郎がお人よしと、ことさらにいうものでもない。


 そこを、またしても源十郎は囲まれたのである。


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