第14話 街歩き2
「こんな感じなのですね」
一軒一軒の店を構えているところはもちろんあるが、市のようにテントのような物を立ててそこで店をやっている所もまあまあある。
そこでは声が飛び交いとても活気がある。スーパーと違い見ていて楽しい。
やはり、西洋に近い雰囲気が多い国。季節は四季がちゃんとあるらしい。
「なんか、こういう雰囲気好きですよ」
「そう? 俺はこれしか知らないから何とも言えないんだけど」
街を歩き慣れているだけで、明日花と比べても十分普通だろう。
「うちの国は小さいけど、各領地で雰囲気がずいぶん違うんだ。取れる物も、街の感じも。機会があれば見て回ると良いよ」
「そんな機会ありそうですか?」
「あるんじゃない? 長期休みに旅行がてら行っても良いだろうし、個人的なおすすめはルーラ領。湖に接してるから美味しい魚がいっぱい食べれる」
この国のリゾート地というところだろうか?
そちらの方でも何か改革の一手になれば良いけれど、観光客は国内の人だけ。そこまで効果は見込めないかもしれない。
「一番大きい領地はどこですか?」
「イーザント領。あそこはパンとかパスタの元の一大産地なんだ。端っこだから行きにくいけど良いとこだよ」
つまり小麦粉の産地というところだろう。
明日花のイメージでは北海道。牛もたくさん歩いていたりするのかもしれない。
「イーザント領は雪がたくさん降りますか?」
「んー、一番雪が降る地域はロアン領かな。標高の差で気温が違うだけなんだけど」
この辺りの通りはとても賑わっていて、稀にすれ違う人とぶつかりそうになる。
店に売られている物も見たことがないものが沢山あり、世界の違いが見てとれた。
「あれって食べ物ですか?」
とある店の一角に積まれた直視したくはないものを指差した。そこには伸びた大きめのカエルが雑に積まれている。
「美味しいよ。冬以外は取れるから安くて、一番メインに使われやすい食材」
きっと今までにも、知らず知らずのうちに口にしたことがあるのだろう。
明日花は思わず口元を押さえてしまった。
「どうかした?」
「いや、大丈夫です。ただの気分の問題ですから」
世界にはにはカタツムリや虫を食べる国がある。それを思えばカエルはまだ良い。ちゃんとお肉になっている。
「まさか虫を食べる文化はありませんよね!?」
「無い無い。食文化も領地で色々と違うけど聞いたこと無いな」
心の底からほっとする。郷に入っては郷に従えというのは守るつもりでは居たけれど、どうしても受け入れられないものだってあるものだ。
「それにしても、色とりどりな植物が多いですね」
形は見覚えがあるものと似ていても色が着色料だったり、大きさが全然違ったりと、味なんてまるで想像できない。
「あれは、食べ物ですか?」
大根と似ているけれど、とても色がカラフル。ちょっと和食が恋しくなってきた明日花は似た食材を見つけたかった。
「いや、染料。リーランって名前で、食べれないことはないけどすごく不味い」
「なんでも知ってるのですね」
王子様はもっと世間知らずなものと思っていた。それともレオンが特別なのだろうか?
「昔、自分たちで育てたことがあったんだ。あれって育てるの簡単だからちょうど良いって話らしいんだけど。それでメルシアがあれを何かの料理に使って、とても食べれたものじゃなかったよ」
「メルシアさんにも失敗する時代があったんですね」
「よく失敗してるよ。それで部屋の中ぐちゃぐちゃにして、大体リュードが犠牲になる」
いつかその失敗も見られるだろうか?
今はみんなのことを知っていきたい。そうでなければ、あの場所では何処か浮いてしまい輪の中に入れない。
「リュードさんとメルシアさんは仲良しですよね」
「メルシアはリュードが他人の中で一番気に入ってる人だと思う。リュードって思ってることとかわかりにくいけど、優しくて良い人だから嫌わないでほしいな」
「そういう人なんですよね? メガネかけている時は会話ができますけど、そうでない時はほとんど無言ですし」
メルシアやレオン、カリアに対しては多少表情が動くのも見たことがある。けれど、外にいたり、明日花が相手では必要最低限しか話さない。
「あれのせいで俺といるんだ。他もそう。メルシアは怪我、カリアは・・置いといて。リモレって人がもう1人いるんだけど、その人は文字が全く読めない。みんな努力した上で無理なことだから・・・分かってやって」
レオンと2人っきりになる機会は滅多にない。こういうことを聞くにはちょうど良かったのかもしれない。
「偏見はあまり持たない方なので大丈夫です。何かできなくてもみなさん優秀なのは察してますから」
正直なところ明日花は自分はそれなりに優秀だと思っていた。けれどここに来てからはその自信はポッキリと折れそうになっている。
今知っているだけのことでも、リュードはとても頭の回転が早く周りをよく見ていること、メルシアはよく気が利いて運動が得意。カリアは愛想がとても良くて誰にでも好かれている、それくらいは分かっている。
「そういうレオンは何かないのですか? 私を含めてっきり全員変わっていると思っていたのですけれど」
自分が可愛らしさも女子力も皆無で、同じ年頃の女の子達のように振る舞えないことくらい明日花は自覚している。
「俺は・・なんだろう? 別に普通だし、特にこれと言って何も無いような・・」
「・・いや、私が悪かったです。レオンも十分変わってますよ」
「アスカ、まだまだなんだよ。あの2人って表面はいいだけにギャップがすごいんだ」
何がまだまだで、あの2人とは誰なのだろう?
「それは実際見てからのお楽しみ」
半分呆れているようなレオンの姿にこの人も多少は苦労しているのだなと実感した。
「・・私が言うことでもありませんが、もう少し自分の状況を離れて見てみた方がいいと思いますよ」
大変な道を歩いているように見えて、暗いながらにも舗装されて街灯もある道をレオンは歩いている。本人は気づかないまま進んでいる。
幼い頃はそれでもよかったかもしれないが、いつか手遅れになっては遅い。
「見てるって」
「そうですかねー。いっそ、私のように一度別のお家にお邪魔してみては?」
離れてから気づくことは多かった。
レオンには今は無理だろうと軽く言ってみたことだけれど、しばらく後に別の形でそうなるのは今は知ったことではない。
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