第13話 街歩き1

 

 

「・・・というわけで、今日もよろしく」


ざっくりとした今日の予定を共有した後は、それぞれの持ち場へと動き出す。


「レオン」


「なんだ?」


ここで言っておかなければ今日は出かけることが出来なくなってしまう。


「今日、街に行きたいのですが」


「今日は忙しいから、また今度に」


「一人で行ってきますから! どうせ私がいても大した仕事は出来ないのですよ? 出かけるくらいダメですか?」 


会話は出来るのだから迷子になっても困らない。何より、帰る場所は王都のどこからでも見えるお城。城へ出入りする為の許可証さえ持っていけば大丈夫だろう。


「文字も読めないのに1人でなんて行かせられない」


街を歩くくらい、世間知らずで文字を読めない明日花でも出来る。


「レオンー、彼女のお願いくらい聞いたら?」


「俺が連れて行ってあげようか?」


横から飛んでくる妙に楽しそうな声。それを聞いたレオンの笑顔がピキッと固まる。


「あの! セルジア兄様、ナテア兄様。邪魔しないでください! そろそろ部屋に戻っては?」


朝から何故かレオンの部屋に入り浸っている二人の王子様。それと、兄2人に連れて来られているナーシャ様。

こちらは仕事をしている横で兄妹仲良く戯れている。


「ナーシャ、レオンが怖いと思わないか? レオンも可愛い恋人の頼みくらい聞いてあげれば良いのに、なあナテア」


すっかり忘れていたけれどそうだった。でっち上げた恋人設定を今になって後悔する。


「仕事なんていつでもできるだろ」


「・・・どうぞ、お帰りください。それとも今すぐお母様に連絡しましょうか? それがいい。カリア、ひとっ走り」


「わかったから、帰る。だから、この年になって母様に言いつけるのは」


セルジア様が異様に焦るがそれはわからなくもない。20歳を超えているのに母親に言いつけられて叱られる、なんてことになったらそれは罰ゲームと変わらないだろう。


「あ、フィーネ様が良かったですか。そうですか。カリア、」


「待って、フィーネに言うくらいなら」


あの可愛い奥様に良くないところを見せたくないのだろうか? ならばもうちょっと行いを改めれば良いものを。


「ナーシャ、お使い頼めるかな? セルジア兄様達が居座って邪魔ってお父様に伝えてほしいのだけど」


「はーい。じゃあ、いってくるね」


椅子から飛び降りて、扉の方へ行こうとするナーシャをセルジア様はぎゅっと捕まえる。


「お兄様、はなしてください」


「兄様、ナーシャばかり見てないで義姉様のところに行ったらどうですか? 娘って可愛いとお父様もよく言ってるじゃないですか。母様達も孫の顔を見たがってますよ」


レオンは、といえばしれっと兄夫婦に子どもの催促をしているらしい。

この国では20代になれば家庭を持っているのが普通なんだとか。


「俺だって早く・・・こっちにも事情があるんだ。親孝行したいならレオンがすれば良いじゃないか」


「あいにく相手がいないので」


レオンがとても余計なことを言う。そんなことを言えば、恋人設定の明日花に目が向くに決まっている。


「アスカ嬢がいるだろ?」


ほら、やっぱり! 心の中で叫ぶが誰も助けてはくれない。


「早くはありませんか? 私まだ15歳ですけど」


年齢の感覚が地球と同じであることを祈る。安全面も考えての結婚が出来る年齢なのだからそれで話を逸せないだろうか?


「今年が成人なのだから、世間体は置いといて無理なことではないでしょう?」


「世間体は大事だと存じますが?」


仮にも三番目とは言え王子様。

それとも、そう言うのはどうでも良いと言う文化だとか?


「まあ、ただの余計な事言う弟への八つ当たりだからアスカさんは気にしないで」


流石にギリギリではあるもののまだ未成年の女性にそんなことは言わないと笑ってセルジアは言った。

こっちとしては笑い事ではないけれど。


「では暇人の俺が町を案内しようか?」


「いや、兄様に任せるわけには」


セルジアの提案に乗ろうとしていた明日花はレオンに抗議の目を向ける。

レオンはそれに少したじろいだものの。


「アスカは突拍子もないことをすることがありますので」


「レオン様、今日の内容でしたら私たちだけでも終わらせられる仕事ですよ」


メルシアがそう言ってニコリと微笑む。


「そうだよ。レオンも一緒に息抜きついでに行ってきたら?」


「いっそのこと今日は午後から休みに」


前の休みは何日前だっただろう? 折った指がすぐに片手を超えたところで数えるのをやめた。


「このままではブラック国家になってしまいますよ? ね、休みましょう!」


「休みなのに出かけるわけ?」


レオンはインドア派なのだろうか? 休みの日に外へ出るのは嫌らしい。


「部屋にいて何をすると言うのです?」


「えっと・・」


目を逸らして言い淀む。


「では、言えないことを? 別に部屋でゴロゴロするのが良いのもわかるので、ありだと思いますけど」


「レオンのことでしょ? きっと裏の部屋か何かで本に埋もれて一日過ごす、とかじゃない? もしくは、なにもしないでゴロゴロして過ごすとか?」


「・・・調達したいものもあったので、ついでに、一緒にいきますよ。途中から別行動しますからね」


それで、結局、気が変わったらしいレオンも入れて5人で街へ行くことになった。







「アスカ、あっち行かない? いい店があるんだ」


街になじむ簡単な服に着替えて、比較的目立たないお城の門から外へ出た。


すると、先ほどまでの不機嫌そうな様子はどこへいったのか、急にレオンは早く行こうと最速してくる。


「そうですね」


今日のレオンをみていると、明日花は弟を思い出した。


嫌々言っていたとしても、連れ出してみれば本人が一番楽しんでいたりする。


「末っ子ってああなのでしょうか?」


ナ―シャとレオンはかなり年齢が離れているから、レオンは10年は末っ子だっただろう。


「アスカさん、面倒になったらレオンのことはナテアに押し付けていいから」


明日花のつぶやきを聞いていたらしいセルジアがそう言ってくれた。ナテアは、といえば、ナ―シャの手を引いてあちこち見て回っている。


「ありがとうございます」


セルジアはともかく、ナテアは噂のまま、という性格ではないように思えてきた。


「アスカ―、まだー」


「今行きます」


店三件分ほど先にいるレオンのところまで走っていく。


まあいいか。と、一度仕事のことはすべて忘れて、人生初めての街歩きを楽しむことにした。

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