第12話 なのだ

「アスカさん、これ、お願いできる?」


ピキを使って説得?し、一夜が明けた次の日。


「はい」


たまたまみんな出払っていて、部屋にはリュードと明日花の珍しい組み合わせの二人が残っていた。


「これでいいですか?」


「ああ」


リュードが人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているものだから、当然会話はほとんどない。


ちなみにピキは一人でどこかへ出かけている。


「リュードさん、少し休憩にしませんか? そしてお話でも?」


どうせ、しばらく他の皆は帰ってこない。

リュードはわかりやすく嫌そうな顔をしたけれど強引に椅子に座らせた。


「一度、ちゃんとお話ししたいと思っていたのです。紅茶ですよ。どうぞ」


メルシアに習って、やっと入れれるようになったお茶を出した。


「・・渋い。お湯の温度が高い。せっかくの香りが飛んでいる」


「そうみたいですね」


リュードの評価は厳しいように思えるけれど事実だった。

明日花も、舌は肥えているため良し悪しの判断はできる。けれど淹れるとなると難しい。


「で? 要件は?」


「私は、皆さんの立場があまりわかっていないのですけれど、リュードさんは王族なのですか?」


「・・それを聞きたいわけではないんだろう?」


それも聞きたかったのだけれど、教えてくれるつもりはないらしい。

異様に何かに対してのガードが堅い所を見るに、触れられたくないところがあるのだろう。


「昨日の話なのですけど、どうにもおかしいとおもうのです」


一晩考えて、考えて、するとおかしい所が次々と出てきた。


「まず、レオンのお父様方の反応ですね。想定内、そんな反応に見えたのです。付き合いが浅い私には以前のことはわからないので、前にそんなことを言っていたのならそれも当然でしょうけど」


もしそうならば、レオンはあそこまで身構えただろうか? 譲れる理由さえちゃんとあればすぐに渡すつもりであったように明日花には見えた。


「レオンはあれだけ自信が無さそうにしていたのにリュードさんはどうにかなると断言していたところも気になります」


揺さぶりをかけてみたつもりだけれど、動揺は見られない。


「そして、セルジア様の奥様の反応ですね。もし、何も知らなかったのならとても動揺するのではないでしょうか? レオンが義姉にまでわざわざ話しているというのは考えづらいです。セルジア様が話していたというなら想定していたことになりますね」


セルジア様は次期国王。奥様は王妃になるはずだけれど、レオンが横やりを入れればそれが崩れる。情報が無いままにあの状況になれば将来の見通しが立たなくなり、何かしら発言するだろう。


「私が決定的と思えたのが、ドラゴンへの反応です。驚いていたようには見えましたが、恐れているようにはとても見えませんでした」


「それがどうした?」


「ドラゴンは尊敬され、同時に絶対的な強者として恐れられているものと教えてくださったのは皆さんではありませんか?」


この土地で育った人間ならば、ドラゴンは守ってくれるものの、恐ろしいものだと植え付けられているはずである。


「幼いナ―シャ様はわからなくても仕方ありませんが、大人は一人くらい恐れてもいいと思うのです」


ピキがここへやってきたのはほんの数日前のこと。騒ぎになるからとピキのことは徹底的に皆で隠していた。

内通者が居ない限り、あちらにピキの情報がわたっていることはありえない。


「情報を流しているのは、リュードさんではありませんか? そうだとしても私はそれを止める気はありません。ただ、理由を教えて頂きたいのです」


その方が、無駄な行動をせずに済む。


「・・そうだ。前もって何をするか伝えていた。レオンには、このことは言わないでくれ」


皆に、ではなく、レオンだけ。他にはバレても良いということだろうか?


「どうしてなのでしょうか?」


「・・そもそも、レオンは王になるように誘導されて育てられている。多分、この環境も大人が意図的に作った」


誘導されているのなら、大人の手のひらの上で転がされているのだろう。

だから、言い出すことも知っていた。むしろ、言わせようとしていたのかもしれない。


「リュードさんの目的は? 事によっては協力しますよ」


明日花とて、教えてくれることしか聞くつもりは無い。無理に聞こうとすれば距離が生まれてしまう。

たとえどんなに親しい仲であろうと全てを見せる必要は無いと思っている。


「転がされているように見せかけて、ちゃんとレオンの未来も作ること」


「その動機を教えてくださいませんか?」


そんなことをしたってリュードに利は無い。ただ転がされているレオンよりも大変な立場にいるだろう。


「そんなの知らなくたって動けるだろ」


「それもそうですね」


リュードを懐柔しているメルシアを尊敬する。表面は頑丈な鎧で覆われていて、その内側を見せてくれる気配が全くない。


「ここにいる全員が転がされているのでしょうか?」


「わからない。確かなことは、その大人の中にはそれぞれの親が全員いるということ。メルシアとリモレは実家に戻されそうになっているから違うのかもしれない」


リモレ?がだれかわからないが、二人は大人の中での人数に入れられていないことは確実だろう。


「リュードさんやカリアさんはちがうのですか?」


「カリアは何となく察して、知らないふりをしている気がする。それにカリアもここが家だろう」


多くは語らないリュードの言葉から読み取るのは難しい。

カリアも、そう言ったのだからきっとリュードにとっての家もこの場所なのだろう。


「どうしてレオンなのかご存じですか? 別にわざわざ三男のレオンでなくともいいですよね?」


「大人の考えていることはわからない。顔色を読むのは一番下手だ」


幼いレオンを誘導して、今のように育てたならば長男のセルジアをそのように育てればよかっただけの話。


「共通点など無いのですか?」


「親達が・・カリアの親以外は幼いころから一緒に過ごしていたらしい」


それではないだろうか? セルジアはレオンの5歳は上。明日花達の年代とは歳が離れている。一緒に何かするのにはどうしても距離ができてしまうだろう。皆に兄弟がいるのかどうかは知らないけれど、ここまで揃っていることは無いはず。


偶然か必然か、ちょうど子供の年齢がが揃ってしまった。しかも皆優秀。

そう考えると、メルシア達も必要なのではなだろうか?


「予想、の部分も多いですが何となく理解できました。ありがとうございます」


「ドラゴンの件は大人もかなりの想定外だっただろう」


「だといいのですが・・・」


そうなると、ここに明日花が来たことも偶然なのだろうか? もし、違う方向に向かっていたらレオンとは出会っていない。でも、出会ってしまった。


これは限りなく必然的な偶然なのかもしれない。



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