第10話 晴れのち嵐
仕事をするレオンの側で改革の案を考えながら何気なく聞いてみた。
「レオン」
「なんだ?」
ほんの思いつきで、片手間に、世間話のように軽く聞いてみただけだった。
「どれくらいまでに本格的に動いた方がいいのでしょうか?」
「んー、このままではあと一ヶ月ももたないから。今日でも、明日でもいつでもいいかな」
お互いに作業をしつつの会話。周りも特に無反応。
だから明日花はついそのまま流しそうになってしまった。
けれど、明日花の頭にどこかが引っ掛かり、レオンの言ったことを頭のなかで数回流す。
「今なんと? 聞き間違いですよね。もう一度言っていただけますか?」
「出来るだけ早くと言っただけだ」
そんなことは言われなくとも明日花だって理解している。
「その前です!」
「このままではあと一か月持たないってところ?」
やっぱりレオンはなんでもないことのように言う。明日は雨が降るらしい、そんな言葉となんら変わらない。
「えーっと・・何がもたないのですか?」
「貯金がなくなるということだが? 国庫の中身、と言うべき?」
レオンはそれが何か?というような顔で見ている。
明日花は頭が痛くなってきた。予想以上に面倒なものに手を出してしまったかもしれない。
「アスカ、大丈夫なのだ? ちゃんとレオンの言ってることはおかしいのだ」
ピキがそばに寄ってきて明日花にそういった。この場でまともな感覚の持ち主はピキと明日花だけだとやっと明日花は気づいた。
「無くなるって・・無くなるって」
繰り返してもどうにもならないが、言いたくなるのも仕方ないだろう。
「そう。来月の給料は払えないかもしれない」
「そんな大事なことは先に教えてください!」
明日花の叫びも空しくレオンにはなかなか届かない。
「だってここに来てまだ三日だろ」
「そんなこと関係ありません! というかそんなこと言っている暇ないではないですか!」
レオンだけに文句は言えない。一番文句を言いたいのはここまで放っておいた大人達に対して。
「そうなんだけど、どうにかなるかなーと」
給料が出ない国で誰も働く訳がない。外とのつながりも無いようだから、お金をどこからか借りることすらできない。
「どうにもなりませんから」
そもそも収入より支出が多いからどんどん足りなくなっていくのだろう。
「なぜそう他人事なのですか? やる気があるのか無いのかわかりません」
多少の愚痴くらい許してほしい。
「やる気はある。別にいつ始めても問題ない。この前も言っただろう。覚悟はできてると」
「そうでしたね」
不安になっているのは明日花の方なのかもしれない。今までだって大きなことも何度も決めて来たのに。規模の大きさに気が引けてしまう。
「アスカはどうだ?」
「やってみせますよ。そうしなくてはここにいられませんから」
ずるずると後回しにしてもどんどん自分の首を絞めていくだけ。
「レオンは大丈夫なのですか? 私の計画ではレオンはすごーい人にならなくてはいけないのですよ?」
語彙力が無くてこんな言い方になってしまったけれど、レオンに言いたいことは伝わっただろうか?
「リュードにカリアだっているんだからどうにかなるだろ」
勢いだけでは?と心配になり横を見れば、メルシアが大丈夫だというように頷いた。付き合いの長いメルシアがそういうなら大丈夫なのだろう。
「一緒に進めていく人を集めるのは可能ですか?」
「いいけど、どうして?」
「三人寄れば文殊の知恵。そして使えるものは使わなくては!」
ピキにはあきれた目で見られるが気にしない。後は意味が分からないといった顔をしている。
「わかった。午後から作戦会議を開こう」
「では只今より作戦会議を行います」
仕事部屋から繋がるレオンの私室に5人+1匹が集まっていた。
もう少し人数がいるかと思いきやピキを入れてもたったの6人。本当はもう一人いるらしいけれど、今日は外せない用事で来れなかったらしい。
「アスカ、進行は頼む」
「まず、自己紹介をしたいと思います」
そんなことをしている時間がないのも事実だけれど、必要だからと最初に自己紹介をすることにした。
明日花自身は他の人の情報をある程度知っていても、明日花のことはレオンを含めて知らないだろう。
「名前くらい知っているだろう」
「私はまだ余所者扱いされている気がしています。幼馴染同士の皆さんとおなじような仲になれるとは思っていませんが、もう少し近づいた方がお互いやりやすいでしょう?」
誰もこれといって反応をしないということは肯定の意味だろう。
「名前はご存じだと思いますが、明日花と言います。得意なことは頭をつかうことでしょうか? 計算も得意です。身の回りのことを自分でするのは苦手です」
こちらでも通じる程度の自己紹介はこんなものだろう。
「アスカさんってどこから来たの?」
レオンによるとこの国は島国らしく、隣の国は遠い海の向こうらしい。そして国の外との交流は一切ない。他所の国、と言っても怪しまれるだけなのは明日花にも理解できる。
「その見た目ならやっぱり異世界ってところ?」
「・・多分、そうなんだと思います」
あっさり、向こうから言われるとは思わなかった。どこか身構えていた明日花は急に力が抜ける。
「この世界の人って皆さん色鮮やかですよね」
「これは魔族の血が入っているからなんだ。人間だけの国の人たちは茶色とか、金色とからしい。流石にアスカみたいな真っ黒はいないけど」
ドラゴンに魔族、一気にファンタジー感が増してきた。
「異世界人は珍しくないのですか?」
「時々、現れるらしいです。一生に一人見れるかどうか、くらいでしょうか? 珍しがられはしますけど」
「先祖に異世界人が居る人はまあまあいるよねー。遡ればどっかに一人くらいいるんじゃない?」
日食や流星群くらいの珍しさだろうか? 何百年に一度のものもあれば、十数年に一度のものもある。そういう時はニュースでもよく取り上げられているものだ。
「私が表へ出ても大丈夫なのでしょうか? 見た目ですぐに他所の人とわかってしまうのでしょう?」
「ねえ、ピキと一緒にアスカさんはレオンのバックに付けばいいんじゃない? ほら、やっぱり異世界人は特別視されるところはあるし」
そういう扱われ方をするなら振る舞い方をうまく利用すればやり様も増えるだろう。
「でも、外にはあまり広めない方がいいだろうな」
「取り合えずは身内を落とせばいいだけの話なので大丈夫なのでは?」
「質問なのですけど、どうやって身内を落とすのですか? レオンは上に二人も兄がいますよ。無理に事を進めると諍いが起こるかと」
人数が増えれば見方もふえる。明日花には無かった発想もでてくるというものだ。
「そのお兄さん達ってどんな方なのですか? 傍から見て明らかな問題を持っているとそれも理由につけられるのですが」
レオンの兄弟を悪くは言いたくないけれどそれが早い。
「俺は身内だからよく分からない。外から見てどう思う?」
「そうですね。私から見るとナテア様は問題を多数お持ちでしょうか」
メルシアが気まずそうに言うとレオンは苦い顔をした。
「あのナテア様とは?」
「第二王子であられる方です」
昨日レオンのところに来た人はまともな人に見えた。もう一人のお兄さんのことだろうか?
「昨日突然ナーシャを連れてきたのが第一王子、セルジア・フライスト。ナテア兄様はセルジア兄様とは見た目も中身も似てなくて・・カリア、説明を」
「真面目で頭が良さそうな見た目をしておいて、メイドをとっかえひっかえしているとメイド界隈では有名かな。あとは、よく町で遊んでらっしゃいますね」
メイドのカリアの情報ならそうなのだろう。ナテア様は簡単に王位に向かない理由を付けられそうだ。
「セルジア様は、無能なのか有能なのかよくわからない方ですね。性格、行動には何の問題もなく、奥様は可愛らしい方ですよ」
「セルジア様は優しい。優秀な人だけれど秀でたところは無いように見える。一言でまとめれば、凡人」
メルシアとリュードから聞いただけでは器用な人というくらいの印象だった。やはりピキの力が必要そうだ。
「最後はナーシャ。第一王女で末っ子。能力はまだ5歳だからなんとも。でも、聞き分けも良いし、そこまで周りに迷惑をかけるようなこともしないからいい子だとおもうけど」
「レオン達が可愛い妹を甘やかしてるからどうなるかわからないよ? でも、見た目はとにかく可愛いよね。城の天使って呼ばれてるし」
「疲れた時の癒しですよね。ナ―シャ様を見ると癒されます。たまにお菓子を分けてくださって」
皆さん、ナ―シャ様にはメロメロらしい。それもわかる。あの可愛さはたまらない。
「すんなりいきますかね?」
「大丈夫だと思う」
「リュード、それは何の根拠ですか?」
「多分すんなり譲ってくれる。だから早く場所と時間を考えよう」
リュードが適当なことを言うようには見えない。カリアやレオンも反論しないから大丈夫なのかな?
「リュード、そんな適当な」
でもメルシアだけは違うらしい。どうするべきか。
「その・・ピキパワー?で、どうにかなると思う」
「ドラゴンにはそんな力が。後で実験してみなくては。リュード、付き合ってくださいね」
ドラゴンには思いもしていなかった力も持っているらしい。異世界ってすごい。
「あ・・うん」
そんな流れでピキを押して押してそれで王位を譲ってもらうことになり、時は夜、場所は食堂で作戦決行になった。
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