第8話 ピキ確保
「リュード様、私を誘わずに行くなんてひどいじゃないですかー。アスカさんのことも教えてくれないしー」
顔を青くしているリュードに、構わずすり寄って離さない美少女。背が低いところもまた可愛らしい。
「カリア、離れろ! すり寄るな」
「カリア、それくらいにしとけ」
レオンが間に入ってカリアを引きはがす。
カリアなんて見た目だけでなく名前まで可愛いなんて完璧だなと明日花はそれを眺めつつ思っていた。
「えー、いいじゃないですかー。レオン様」
「はいはい、そこで止まるとアスカが部屋に入れないだろ」
メルシアがこれをスルーしているところを見るに、よくある光景なのだろう。
カリアがリュードから離れたのを見てやっと挨拶をする。
「初めまして、アスカです。よろしくお願いします」
「カリアです。レオン様の側付きとメイドをやってます! 雑用なら任せて!」
動く度に跳ねるツインテールがなんとも言えない。この国は美形が多いのだろうか?
「ドラゴンは? やっぱり無理だったんですかー?」
「アスカがしっかり捕獲してきた」
明日花は自慢げに手に持っていた袋を見せた。それは騒ぎにならないようにピキを入れてきた袋だった。
「早く出すのだー!」
「部屋の外には出ないでくださいよ」
袋の口を開けると自分でパタパタと飛んで出てくる。
「おぉー、本物ですか?」
カリアが物珍しそうにピキをつつく。
『そうだ。我はレッドドラゴンのアルフレ・・』
「ピキって言う名前を付けたんです。一応私のペットでピキが名乗る方は無視してください」
ピキがピーピーと文句を言うのでしっぽをムずっと捕まえる。
「ピキ、誰か来たら困るからできるだけ奥の部屋に居てほしい。もしここにいた時に誰か入って来た時は・」
レオンはここに置いてある仕事机のところまで行き・・。
「この下に隠れて」
ドラゴン信仰があるらしいという話だったのに、だれにもそんな風な態度は見えない。明日花と揃ってピキを雑に扱っている。
「レッオンー。遊びに来たよー」
突然大きな声が聞こえて、驚き、声の元凶を探す。
振り返ると、少しくるっとした金髪に青の瞳。背が高くて綺麗な顔をした青年が笑顔で立っていた。けれど、どこかふわふわしていてフニャッとした雰囲気がある。
そしてだれかに似てるような。
「! いきなりなんですか? お兄様」
レオンのお兄さん? 顔は似ているかもしれないが他は似ていない。
そのお兄さんの腕には、まだ5歳くらいの女の子がいる。クルクルした金髪を横だけ左右リボンで結んでいて、肌は白くて目が大きい、まつ毛も長い。
「今、遊びに来たって言ったじゃないか」
「そうですか。すみません、今忙しくて」
赤い飛行物が見当たらず、そういえばピキは?と思っていると視線でレオンに呼ばれた。
しれっとお兄さんに怪しまれないように近づく。
「どうにかしておいてほしい。これ」
まわりに聞こえないくらいの声で言われそこを見れば。
「わかりました」
「そこの右の部屋に入れておいてほしい。そこにクローゼットがあるからその中に」
「はい」
レオンに踏まれたピキがいた。レオンはお兄さんが来たことにすぐに反応してピキを隠したのだろう。
「アスカー、レオンが!!」
ひどい扱いを受けたピキはもちろん怒っている。
「おとなしくしておいてくださいね」
しゃがんでピキをつかみここまでピキを入れてきた袋に押し込む。もちろん暴れるから城まで帰ってくる道中見つけた弱点をつかんでおとなしくさせた。
「どうした。なにかあったのか?」
「いえ、何も。少々・・虫がいただけです」
「ずいぶん大きな虫がいるのか」
我ながら苦しい言い訳だとは思ったけれど、納得してくれた。ピキサイズの虫なんているわけない。いたら困る。それともこの世界にはいるのかな?
ともかくピキを隠すためにレオンに言われた部屋に入った。
ベットとソファー、あの部屋と違って飾りっ気のないものばかり。
かってにクローゼットを開けるのは悪い気もしたが、レオンが言ったことなので遠慮なく開けた。
「ピキ、しばらくここから出てこないでください」
「なんで我がこんなとこに」
「いいからそこに。わかりましたね」
なにかまだ言いたそうにしていたけれど無視して戸を閉めた。
あのお兄さんがいる以上、すぐに戻らなくてはいけない。
「君がレオンが連れてきたって言う子?」
部屋から出てすぐにからまれた。もうソファーに座っているし居座る気満々だ。
「リュード、兄様に言ったのか?」
「バレた」
「それでお兄様は見に来たと・・」
遠い目のリュードに頭を抱えるレオン。親族である二人にどうにかしてもらいたい。
「レオンは女の子とか興味なさそうにしてたからめずらしいなーと思って、兄としてはどんな子か気になるでしょ」
明日花はやっと連れて来たが恋愛的な意味だったことに気づく。
「そうですかー。って違いますからね。アスカはそういうのではなくて、その・・」
いっそのこと、そういうことにしておけば、すぐ帰ってくれる可能性もある。
ついでに計画を隠すためにもその方がいいかもしれない。
「そうなのですよ。レオン殿下にお声をかけていただきまして」
殿下でいいのかな? ここ数日の記憶と知識を引っ張り出してそれらしく繕う。
「! ちょっと、アスカ」
「やっぱりそうなんだ。恥ずかしがらなくてもいいのに。あ、どうぞ座ってください」
「ありがとうございます。ですが私などが同席するわけにはいきませんので」
お兄さんもこの小さな子も王族だろう。仮にそうでなくてもかなり偉い方のはず。
「気にしなくていいから」
「では、失礼します」
ここまで言われては断るわけにもいかないので同じようにソファーに座る。
「色々聞かせて欲しいなー」
ニヤニヤと楽しそうなお兄さんに対して面倒くさそうなレオン。
「どうしてナーシャ連れてくるのですか?」
「行きたいって言ったからだよ。なあ」
「レオン兄さまがあってくれないから」
レオンを兄と呼んだということはこの子は妹。お兄さんは20代になっているようには見える。随分、歳の離れた兄弟らしい。
「ナーシャはレオンに遊んで欲しいんだって」
「ナ―シャ、もう寝る時間が近いから明日にしようか」
「はーい」
「よかったな。ナーシャ」
聞き分けも良いいい子。ナ―シャがここまで可愛いのだからきっとレオンの母親は美人なのだろう。
「お兄様、早く奥方のところにでも行ったらいかがですか?」
「それで、レオンとの出会いは?」
出ていく気は無いらしい。綺麗にレオンの話を無かったことにしている。
「大した話ではありませんよ」
「聞かせて」
本は読んできたものの恋愛が主軸だったものを明日花は好んで居なかったため、知識が少なくでっち上げるのも難しい。
「・・街で会ったんです」
レオンが最初を作ってくれた。これに事実を混ぜつつ、嘘を作る。
「私が街で迷子になっているところをたまたま助けていただいたのがレオン殿下でした。その時はまさか、王子様だとは思わなくて」
「うんうん。それで?」
その後は情報を貰い、流れで協力関係になった。けれどそれを話す訳には行かない。
「何度か会い、良かったらお城へ来ないかと言われまして」
「レオンがもうそんな歳か。そうかー」
お兄さんは面白そうに勝手に納得している。
「兄様、満足しましたか? これ以上はやめてください」
なぜか真っ赤になっているレオン。作り話なのに恥じらう要素があっただろうか?
「で、レオンその続きは? あとででいいから教えてくれない?」
「アスカと今から二人の時間をゆっくり過ごそうかと思っていたのですが」
急にレオンの空気が変わり、近づいてきて私の髪を触りながら言った。
明日花はどういうことですか?という意味をこめてレオンを見つめてみた。もちろん表面は笑顔で。するとレオンは更に身を寄せ、顔を耳のあたりに持ってくる。
「恋人っぽく演技して! 二人の世界を作れば流石に帰るはずだから」
甘さの欠片もない言葉をささやかれた。
身近に居た、甘々ラブラブ夫婦のことを思い出してそれを再現するように努める。
「アスカ。とても可愛いよ」
次は見つめ合う。
「そんな、レオン殿下だって」
演技をすればするだけ行動とは真逆に頭はどんどん冷静になっていく。
「何かな? 教えてくれる?」
正解の言葉がわからない。かっこいい? それとも内面のこと?
「アスカ」
「レオン殿下」
ずっと見つめあい名前を呼びあうのはかなりキツイ。なにかの罰ゲームだろうか?
「ナーシャ、帰ろうか。ナーシャにはまだ早い」
「?」
「ほら、お父様とお母様のところに行こう。レオンは明日遊んでくれるんだから」
「はーい」
帰ってくれそうだ。ナ―シャを連れてきてくれて助かった。でも部屋を出て行ってくれるまで演技はやめられない。
「レオン兄様」
「邪魔してはいけないよ。じゃあ、ごゆっくりって伝えておいて」
二人が出ていき、そして扉が完全に閉まったのを確認して・・。
「はぁー、疲れた。なにがごゆっくりだ」
「これって何の罰ゲームですか? ドラゴンって邪神ですか? 災いの元ですか?」
「さあ」
横でケタケタと笑っているカリアとメルシアは見なかったことにしよう。
「さっきはゴメン。近づいて、髪触ったり嫌だったかなーと」
「理由もなくというのは嫌ですが、今回は理由もありますしレオンは少し密着して髪に触れたくらいしかしていませんから問題ありません」
「良いんだ」
なぜか意外そうにしている。
「演技上手かったですね。本当の恋人同士に見えましたよ、レオン様。私たちを参考にしたんですか?」
とリュード腕をに腕を組みつつ言うカリア。二人が恋人だったとは。けれど、それを聞いたメルシアが更に笑っている。
「カリア、本気で誤解される」
どうやら『恋人ではない』の方が本当らしい。美男美女でお似合いに見えるけれど。
「恋愛って難しいですね。素でささやきあえる人の気持ちがわかりません」
「俺もさっぱり」
経験が無いのはお互い同じらしい。
「それでも演技は上手でしたよ」
「近くに良い手本はいるし、恋愛小説なら読んだことはある」
「私はそれもありません。少し勉強したほうがいいかもしれないですね」
「どうして?」
「またこういうことがあるかもしれません」
その時はできる限り別の方法で切り抜けたい。これは最終手段だ。
「疲れてお腹すきました」
「私がちゃーんと作っておきましたよ?」
今日はいつもよりたくさん食べれる気がする。運動をしたおかげだろう。
「では準備しますね」
「私も手伝いますよ」
台所に行くメルシアについて行く。机を見れば、レオンとリュードが台を拭いている。
「五人分でいいですか」
「俺大盛りで」
この時、とあることに誰も気づかずそのまま・・・
一夜が過ぎた。
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