第7話 ピキ

 


「次、レオンですよ」


手作りトランプを明日花がレオンへ向ける。


これは明日花が午前中にこつこつと手元にあったノートとペンで作ったもの。裏面には透けないように要らない書類が張られている。


この世界はもちろん日本とは使われる文字が違う。トランプに書く数字はメルシアに頼んで書いてもらった。


たった13までの数字くらいならば、明日花でもどれとどれが同じかくらいの見分けはつく。


「んー、揃わないなー。どうして俺たちまでドラゴンとババヌキしてるんだ?」


今度はレオンがメルシアにトランプを向ける。


「ババ抜きは二人でしても面白くありませんから。5人くらいが一番盛り上がるんですよ」


「あ、揃いました。次、ドラゴンさんです」


ドラゴンが小さなカードを指先でちまちま取ったり順番を入れ替えたりしているのは面白い。


『揃わないのだ!』


文句を言い、しっぽ?でバンバンと地面を叩きつつ、トランプをリュードさんへ向ける。

ドラゴンなのに行動がなんとも可愛らしい。


「あ、揃った」


ちなみにこの世界にババ抜きはない。トランプもない。

けれどみんな飲み込みが早く一度の説明ですぐに覚えてくれた。


「この遊びは面白いですね。流行りそうです」


メルシアは気に入ってくれたらしい。


「材料費はほとんどかかりませんから利益が大きいはずです。国の稼ぎにしましょうか?」


「この国では、紙は高い」


郷に入っては郷に従え、やり方だって変えなくてはいけない。


「べつに薄くした木の板でもいいと思います。レオン、私の引いてください」


「うん。あ、俺がこれ引いたら」


アスカはニヤリと笑い、レオンにトランプを渡す。


「1抜けです!」


『なっ! そんな、我が負けるなど!』


今回の勝負は一番にカードがなくなった人が勝ちで、チーム戦にした。明日花達4人対ドラゴンさんでは不平等だからだ。かといって、個人戦も面白くない。


「私の勝ちです! 言うことを聞いてもらいましょう!」


『慣れてなかったから負けただけなのだ! もう一回するのだ!』


「良いでしょう。ではみなさんはドラゴンさんチームに入ってください。私一人で勝てますから」


「次は私が勝ちます」


『いや我が!』


「いや俺が! コツはわかった」


きっと勝負のことを忘れている。本気だ。まあいいか。勝てる見込みは見えていた。


「では2回戦にいきましょう」






 

さらに数十分後


「はい! 私の勝ちです!」


駆け引きをすることもなくすんなり明日花は勝てた。


『なに! そんな』


「よしっ! 2抜け」


「無くなった」


「私も終わりです」


三人もコツをつかんだらしい。勝つ方法を分かっていないのはドラゴンだけ。


『・・・・・・もう一回だ!』


「いいですよ。勝てるものならやってみてください!」








 数時間後


「なんで勝てない!」


「強すぎますね。一度くらい勝ててもいいものなのに」


『我はなぜ毎回最下位なのだーーーー!』


レオンとドラゴンは本気で悔しがり、あれから何回もババ抜きをして空はオレンジ色になってきている。


「勝つのはどんな方法でもいいと言ったのがあだになりましたね」


明日花はいつも1抜けで次に強いのはメルシアとリュード。二人は2抜けと3抜けを争う形になっていた。強さは同じくらいだろう。


そしてダントツ弱いのがドラゴンさん。


「ドラゴンさん、もう日も暮れそうですし、負けを認めていただけませんか?」


『わかった。なんでも聞いてやるのだ!』


「では」


ドラゴンは今なんでも、と言った。なら予定よりたくさん聞いてもらおう。取れるとこからは取れる分だけ取らなければ・・・・・


「うわー、アスカがまた悪い顔を」


3人がこそこそ言っている。それを聞き流して、明日花はドラゴンに微笑んだ。


「ドラゴンさん、私のペットになってください」


『・・・・ペット?』


ドラゴンがおおきな口をぽかんと開けて固まっている。そんな中メルシアが『おー、口の中はこうなっているのですか』と楽しそうに覗き込む。


「何かおかしいことを言いましたか?」


「ドラゴンは・・その・・・恐れられ祀られるような生物で」


レオンが恐る恐る説明してくれる。けれど明日花はわかった上で言った。


「だからですよ。これ以上の最強の後ろ盾はないでしょう」


「でも・・」


『面白い。ペットになってやるのだ』


「ありがとうございます」


これで邪魔な王様たちを退かすことができる。そしてレオンは安泰。なんの問題も無い。


「ドラゴン様、アスカのペットになって良いのか?」


レオンが本当に良いのか?と何度も確認している。このアスカとはどういう意味だろうか?


『こんなことを言う奴は初めてなのだ。あの初代フライスト国王でもそんなことは言わなかったのだ』


「会ったことあるんですか?」


「ここに我を連れて来たのはアイツだ」


この穏やかな国を作った初代国王、一体どんな人だったのだろう?

そのうち聞いてみよう。これからずっと一緒なのだから。


『ペットになってなにをすればいい?』


「色々、私のお願いを聞いていただければ結構です」


『そうか。名をなんと言う?』


「アスカです。よろしくお願いします。こちらが」


関わることになるのだから紹介は必要だろう。


「レオン・フライスト」


『アイツの子孫か?』


「それはこっちのリュードも。よろしく、ドラゴン様」


二人は親戚なのだろうか? そう言われてみれば似ているような?


「私はメルシア・ロニアと申します」


『こっちもか』


「ドラゴンさん、一緒にお城に来てほしいのですが」


トンネルのような大きな洞窟にいっぱいいっぱいな体だ。広い庭で放し飼いになってしまう。


『小さくなれるから問題ないのだ』


そうだ! ペットには名前をつけなくては!


『我の名も特別に教えてやろう。我が名はアルフレッ・・・』


「ピキです!」


「ちょっと、アスカ。今ドラゴン様が名乗ってたんだから」


「そうだったのですか。全く聞いていませんでした」


昔の名前を名乗られたところで明日花には関係ない。


『ならば、特別にもう一度言ってやろう。我が名は・・』


「ピキです!」


『ピキとはなんだ?』


「あなたの名前です」


明日花の適当に考えた名前だけれど、呼んでみるとぴったりと嵌ったきがした。

 

『我にはアルフレッドというかっこいい名があるのになんなのだ。その弱そうな名は!』


「ピキです」


せっかく良い名前を思いついたのだから絶対アルフレッドとは言わせない。


「ピキ、帰りますよ。レオン、どっちが城ですか?」


「あっちだ」


『・・飛んでいくのだ?』


それってピキに乗っていいって事だろうか?


「ぜひ!」


「いや、ドラゴンが巣から出てきたって話が広まれば騒ぎになるから」


メルシアが一番前のめりになる。


「どうせピキを連れて帰るのだから見られるのは同じではないですか? 飛んでいくのがいいです!」


明日花としてはもう歩きたくなかった。


「その前に根回しとか必要だろ」


「仕方ないです」


するとピキはどんどん小さくなって、50cmくらいまで小さくなり・・・

見た目が少し可愛らしくなっているのは気のせいだろうか?


いや、気のせいではない。デフォルメ化されている。


「ピキ、意外と可愛いです!」


『可愛くない! 我はレッドドラゴンなのだ!』


そんな姿で言っても。


「余計可愛くなっているだけですよ」


地面でピーピー言っているピキを抱きかかえた。


「早く帰りましょうか」


「ピキ、大人しくしとけよ。街で暴れたら面倒なことになるんだから」


「アスカさん、帰ったら首輪でもつけましょうか?」


『ピキと呼ぶな! ドラゴンに首輪なんて!』


頭の中で想像してみる。首輪をつけたペットのピキ。


「首輪はやめましょう」


『味方はアスカだけなのだ』


すり寄ってくるあたりがっても可愛い。


「頭にリボンでもつけましょうね」


「それは良いですね。何色にしますか?」


「ピンクとか?」


『アスカが裏切ったのだ!!』


ピキの叫びを聞き流して来た道を通る。


そして、ちょっとだけわがままを言って少しピキに乗って飛んでもらった。







  夜

 

「ただいまー」


「おかえりなさいませ。レオン殿下」


レオンとリュードさんのあとに部屋に入ったので姿は見えないが知らない人の声だ。


「遅かったですね。ドラゴンはどうなりましたか?」


「あとで話す。食事の用意はできてるか?」


どこか面倒そうなレオンの声。


「はい」


私もお腹すいたなーと思いつつレオンが部屋に入るのを待っていると。


「っ!」


リュードさんがいきなり後ろに下がってきたようでぶつかった。


「リュードさんいきなり下がって来るのは・」


「やめろ。ちょっ、くっつくな!」


「えー、リュード様酷いですー」


ただ事ではなさそうなリュードの反応によく見てみると、誰かがリュードに抱き着きすり寄っているらしい。細い腕でしっかりホールドされている。


「あ、この人がアスカさん?」


リュードにくっつきつつ顔をひょこっと出したのは、とても可愛い、水色の髪をツインテールにしたメイド服の少女だった。


 

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