第6話 ドラゴンの洞窟



「まだ着かないんですか?」


レオンとリュード、メルシアは山道をどんどん登っていく。この先にドラゴンが生息しているらしいが、その山は険しかった。


「もう疲れました」


フライスト王国は周りをぐるっと山に囲まれている。おおきなカルデラのような地形で、足元は木の根でガタガタな場所もあれば、岩がゴロゴロと転がっている場所もある。


すでに明日花達は数時間、森の中を歩いている。ここは王都の北側らしいがどの辺りなのか、この世界の地図がまだ読めない明日花にはわからない。


「そんな疲れるか?」


今のレオンは初めてあったときにようなラフな格好をしている。明日花やリュード達も比較的ラフな動きやすい格好。けれど明日花にとっては慣れない服と靴で余計に動きづらい。


「何年も山を走り回ってるあなたと一緒にしな・・」


言いかけたところをレオンに視線で口を塞がれた。


「余計なことを言うな」


「レオン、隠し事か?」


このメンバーなら思いのほかレオンの立場が弱いことをすでに明日花は理解している。


「レオンはいつも山で鳥を狩っているみたいです」


「それのことか」


「安心してください。みんな知ってることですよ」


リュードもメルシアも知っていて黙ってたらしい。レオンはなんだと肩をおとした。


「ドラゴンってどんな生物ですか? 蛇のような見た目か、トカゲのような見た目か、ってイメージなのですけれど」


世界観的に西洋のトカゲタイプのドラゴンが明日花の予想だ。

けれどヘビ?トカゲ?それは?と皆首をかしげている。


「情報は少ないので確かなことはわかりませんが、凶暴らしいですね。けれど、個々で性格がかなり違うので一概にそうとは言えないとの話も聞いたことがありますよ」


「メルシアさんは詳しいのですね」


「メルシアは生物オタクだから」


「違います。生物はおまけです。関係上必要なので詳しくなってしまっただけですよ」


その事実よりも異世界にもオタクという言葉があることに明日花は驚いた。


そこから少し進むと開けた場所があり、そこに洞窟が見えてくる。ドラゴンはその奥に住んでいるらしく、トンネルくらいの大きさのある洞窟を4人で進んだ。





「意外と明るいですね」


洞窟の中は所々天井から光が差し込んでいて綺麗な光景だった。


「アスカ、罠とかあるかもって話しだから気をつけて」


「その時はその時です!」


洞窟ならば蜘蛛の巣も張っていそうなものだけれど雑草一つ見当たらない。ドラゴンは綺麗好きなのだろうか?


「あ、動物の足跡。ドラゴンって動物食べないのか?」


「雑食だというのが私の予想ですね。問題は手をかしてくれるかどうかかと」


メルシアはそういうけれど、明日花はちゃんと計画を考えていた。何なら、その先のことまでかんがえている。


「ちゃんと考えているので安心してください」


「顔がゆるんでるぞ」


レオンの目が半眼になっている。明日花にとっては二日目にして見慣れたものだけれど、ちょっと仕返しをすることにした。


「レオンは国を変えていく方法を考えるのを私に全て任せるつもりですか? 一人で国を変えろと? さすが王子様です」


「! 違う! そうじゃなくて」


皮肉っぽく痛い所を突いただけ。もう少し変わらなくてはレオンに王はやっていけない気がする。


「ちょっと煽ってみただけです。別に私のことは使っていいのですよ。そういう契約ですから、無理難題言ってください。できる限り叶えて見せます」


「アスカ、かっこいいな」


レオンがしみじみとつぶやくのを見て、メルシアがわらっている。


「ですね。レオンと違ってアスカさんはとてもかっこいいですよ」


「ありがとうございます」


すると今度は拗ねたような顔をレオンは作った。ひとつフォローでもしておこうか。


「レオンはすごいと思いますよ。一人で何もかの背負おうとしていたのでしょう」


レオンはきっと頼ることを知らないんじゃないだろうか? それともそんなところを私が知らないだけだろうか?


「レオンって末っ子じゃないですか?」


「アスカさん、当たりですよ。妹は年が離れていますもんね」


「リュードだって長子じゃないだろ」


「リュードさんの方が何倍もしっかりしていると思いますよ」


リュードに負けたのがよほど悔しかったのか・・


「じゃあ、かっこいいのは?」


「お二人は系統が別でしょう。ね、メルシアさん」


「ですね。二人は仲良しなので喧嘩しても放っておいてくださいね」


二人は、とういうかレオンが一方的にリュードにぎゃあぎゃあと勝っているところを言っている。


「身長は勝ってるし」


「紙数枚分の違いだろ」


リュードは静かに対抗して・・。


『まさかこんな風に喧嘩しながら来る奴がいるとは・・・』


低くて響く声が聞こえた。レオンとリュードの声はそこまで低く無い。


「他に人がいるのですかね? そんなにドラゴン人気なのですか?」


「ドラゴンを商品みたいに言うな」


『そうだそうだ!』


また聞こえた。どこから聞こえているのかは反響してわからないけれど確かに聞こえた。


「どこにいるのでしょうか?」


「それに、そろそろドラゴンが居ても良い場所ですよ」


「岩ばかりですね。人も・・見当たりませんし、やまびことかでしょうか?」


もしくは話す特殊な生物が生息しているのだろうか? オウムみたいな生物かもしれない。


『上を見ろ!』


「はい」


なぜかどこからか聞こえたかわからない声に返事をして言われた通りにしてしまった。


「あ」

「え?」

「ん?」

「まあ!」


4人、同じ方を見て数秒固まった後。


「ぎゃあああぁぁぁーーーーーーー!」

「「わあぁぁっぁぁぁーーーーーーーーー!」」

「ドラゴンですか!!!」


見上げた場所には大きなトカゲのゴツゴツした顔があった。叫ぶのも仕方がないだろう。


「こんなに大きいのですか? 聞いてません!」


「お、俺だって、ほんとにこんな簡単に会えるとは思ってないし」


「レオン、そんな適当に」


レオンのそういうところがかっこよくないと言われる原因なのだ。


「来てドラゴンと会えなかったらアスカだって諦めると思ったんだよ。それに兄様からドラゴンのところは行くなって言われてたし、そのつもりで」


「国を変えるために必要なことだと言ったではないですか。なのにレオンはそんな」


ドラゴンの前にもかかわらず、レオンと明日花の喧嘩が勃発しようとする。


「本物ですか! 大きい鱗ですね! ぜひ一枚ください!」


メルシアのとても楽しそうな声に三人の意識がドラゴンに戻った。


『遊びに来たのか? そんな軽く来る場所ではない』


「メルシア、危ないから」


とてもドラゴンに近づいてその体に触れているメルシアをリュードがたしなめに行く。


「大丈夫ですよ。こんな機会滅多にありませんから」


「ダメだ」


『我は最強のドラゴンなのだ!』


メルシアに好きに触られても怒らないあたり、器は大きいのだろう。それをみて明日花は早速お願いすることにした。


「あの、お願い聞いていただけませんか?」


『ん? 戦いに来たのではないのか? 珍しいな。まあ我にできることならいいだろう。ただし我に勝つことができたら叶えてやろう」


「言いましたね」


明日花は内心ニヤリと笑う。


『そこの金髪のやつはそこそこ強いようだが・・・我に勝てたものは今までいないのはわかっているのだろう』


「はい。どんな方法でもいいですか?」


『今まで魔法やら、百人以上でかかって来たやつもいたが勝てたやつはいない! どんな卑怯な手を使っても勝てると思うな!』


赤い大きなドラゴンは自慢している。次々と今までの戦歴を並べてくる。興味はないが・・でもいい。罠にはかかってくれたのだから。


「では私と勝負しましょう。ババ抜きで」


『・・・へっ?』


ドラゴンがここまで間抜けな声を出すことがあるのかと思いつつ、明日花は勝ち誇ったような笑みでドラゴンを見上げた。


 

 




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