第5話 方針決定?

「ふあぁー」


朝、まぶしい朝日で目を覚まし、ちょっと固めのベットから起き上がり体を伸ばした。


見慣れない部屋に、ここがどこかの世界のお城の一室だったことを思い出す。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


おとなしそうな雰囲気で春の若葉のような薄緑色の髪を肩で揃えている。ふわふわのメイド服を着た少女。


「初めまして、メイドのメルシアです。よろしくお願いします」


「アスカです。よろしくお願いします」


目は大きくて顔は小さい。スラっとした体だけれどただ華奢なわけでもない。メルシアはとても可愛らしい。


「お洋服は洗濯してしまいましたので別の物を用意しておきました。急でしたので、私の物ですが」


そう言って渡されたのは、やわらかな布をふんだんに使い、レースやリボンをあしらわれた服だった。どちらかといえばドレスに近い装飾具合。


「こんなものを借りて大丈夫なんですか?」


「いくつか持っていますし、普段はクローゼットの肥やしになっているだけですので」


「この国では普段着がこれなのですか?」


「貴族令嬢はそんな感じですね」


ならばお城で生活するならこれくらいの物を着ていなければおかしいのだろう。


面倒だなと思いつつ、その服に袖を通した。




「朝食はレオン様の部屋で、と言われておりますので移動しましょうか」


明日花の初めてのこの国の料理だ。どんなものだろうか?と思いつつメルシアの後をついて行く。


「こちらです」


一応ノックをして戸を開ける。どうせ部屋に入るまでもうひとつ扉があるけれど・・・


「失礼しま・・・ん?」


開けて入ろうと思っていたけれど扉の向こうから何か声が聞こえてきていた。


「なんでしょう?」


入って良いとの返事も無いので入るにも入れず、結果的に盗み聞きすることになった。


「ふっ、どうだ?」


「リュード・・・やめろ! あぁー」


なにしてるんだろう? 遊んでいるのかな? ボードゲームをしているとか?


「やめてもいいのか?」


レオンをいじめて、とても楽しそうなリュードさんの声。


「やめないで。でも、だからそこはっ・・・・」


これは半分悲鳴になっているレオンの声。


「痛いか?」


「痛い・・・やめて」


ゲームでは無いらしい。痛いけど、止めてほしくないこと。

なんだかなぞなぞみたいだ。


「ここは?」


「あ・・・痛いけど・・・・気持ちいいかも。って、あああぁーー! 手加減しろ! やめて!」


意味のわからない会話だ。何かバタバタという音と悲鳴が聞こえてくる。

なんだか聞いていられなくなりドアから耳を離しメルシアをチラッとみた。


「これは?」


「リュードがレオン殿下で遊んでいるのです。同意の上なので大丈夫ですよ」


なにをしているのかは結局わからない。


「見た方が早いかと」


「・・・・失礼します」


ドアをそっと開けて中を覗く。


居た。ソファーの上でなんかバタバタしてる人と無表情だけどどこか楽しそうな人がいる。


「・・・おはようございます」


『!』


二人ともこちらを見て固まって、リュードがとても慌てた様子でレオンから離れた。


「おはようございます。アスカさんをびっくりさせないでくださいよ」


「メルシア、ありがとう。アスカ、よく眠れた?」


「はい。しっかり疲れも取れました」


聞かれてつい答えてしまった。ところでさっきのは無かったことにするつもりだろうか?


「あの・・・一体何をされていたのですか?」


「少々、肩揉みを・・・」


「あー、なるほど」


それならレオンのあの声の理由もわかる。あれは痛いけれど、止めて欲しくはない。

 

「そう。これでもリュードはすごく腕がよくて肩こりもすぐ治るから・・・お互いいいだろ。リュードは楽しめて、俺は肩こり解消」


「なるほど」


リュードの趣味がレオンで遊ぶことなのは何となく察した。

レオンが遠い目をしているけれど見なかったことにしよう。




その後、明日花達はは揃って食事の席についていた。もちろんメルシアも一緒である。


「レオン、質問してもいいですか?」


「うん」


パクパクと固めのパンと焼かれた肉にかぶりついているレオンに素朴な疑問をぶつける。


「これが普段の食事ですか? 節約して簡単な料理にしているとか?」


「これが普通。王都はこんな料理が多いかな。領地によってかなり差はあるけど」


パンが主食なのは想定内。でもあまりにパサパサで硬い。肉はよく言えば贅沢にブロックで、悪く言えば切っただけ。


味は・・・、パンは言うまでもないだろう。肉は野性的な味がする。味付けは悪くないけれど、慣れていない明日花には癖が強すぎた。


「苦手?」


「朝からステーキは重いです。出すにしても、もうちょっとさっぱりした味がいいですね」


臭みを消すためにニンニクやショウガのような何かが使われている。そのままよりは良いだろうが、ディナーのこってり具合だ。


「それと、この国って身分社会なのですよね? メルシアさんも一緒に食事を取るのは驚きました」


「普通は違う。メルシアはメイド業もやってもらってるだけで、昨日言ってたメンバーの一人なんだ」


「一応、他に文官、騎士、側近のようなこともできるのでなんでも言ってくださいね」


明日花はメルシアがすごい子らしいことはなんとなく察した。


「今日はどうしたらいいですか? 私はなにを?」


「とにかく早くどうにかしたい」


明日花も昨日の寝る前に少し考えてはみたものの、知らないことが多すぎて進まなかった。


「王位って長男がもらう仕組みなんですか?」


「特別なにか例外になる理由が無い限り。兄様は表面は優秀だし」


ならばレオンが努力したところで無理な話だ。逆に考えればその例外になれば良いということだけど。


「この国の神様や信仰?など絶対的な存在はなんでしょう?」


歴史上、よく力を持っていたのは信仰とかかわる人たちだ。王は神だという文明もあれば、神官が力を持った文明もある。


「ドラゴン、だと思う。国を守ってくれている存在で、初代王はドラゴンを従えていた」


ならばうまくいけばあっさり王位を譲ってくれる方法があるかもしれない。 


「そうですよ! レオンが教えてくれたではないですか」


「? そんなこと教えたか?」


「ドラゴンですよ!」


言った瞬間皆が口をぽかんとあけた。あの固いリュードまで。


「はぁ? ドラゴンって世界最強の生物だぞ」


「だからですよ。ドラゴンは最強の後ろ盾です! 味方にすれば無敵です!」


「今はおとなしいといっても昔は街を滅ぼしたりしていたんだぞ。それにどんな強い人が戦っても勝てたことはないって・・・」


「守ってくださる存在ですが、同時に恐れられてもいるのですよ?」


初代国王は実際に従えていたのだろうから、できないことはないはずだ。


「ひとつ確認ですが言葉は通じるのですよね」


「あぁ、・・・なんか『やれるもんならやってみろ』とか言うらしい。あと・・・負けたあとに『我はどんなことでも負けたことない』とか自慢してくるとかしてこないとか」


とっつきにくい傲慢な生物かとおもいきや、案外そうでもないのかもしれない。


「まあ・・・ならどうにかなるでしょう。というわけでドラゴンはどこにいますか?」


「行く気か?」


「早くどうにかしたいのでしょう。レオンは忙しいのでしょうから一人で行ってきます」


「なら教えない」


「メルシアさん教えてくれませんか?」


「地図を持ってきます。代わりに私も一緒に行きますからね」


ドラゴンの話になってからメルシアの目がキラキラと輝いて見えるのは気のせいだろうか?


「すぐ仕事を終わらせるから待っててくれ」

 

レオンとリュードは無言で目を合わせ頷いている。二人の間でなにか決まったらしい。


「べつに2人で行けますよ」


「そうですよ。私だって、ある程度の実力はありますから」


メルシアは味方をしてくれるらしい。


「いいからおとなしくそこにいろ。リュード今日の仕事は?」


「大した量はない。」


いつ終わるかな? 待ってるのも暇だし・・。


「私も手伝います。なにか私にもできることはありますか?」


「書類仕事だけだが・・・・読めるのか?」


「そうでした」


レオンが仕事を終わらせる間、メルシアに付いて雑用の手伝いをして暇をつぶすことになった。




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