第3話 始めの0.5歩


一息ついて、レオンは立ち上がり、おもむろに明日花の荷物を持った。


「アスカ、俺とうちを立て直してくれるんだろ。城にくるか?」


「おねがいします」


国を立て直すには政治のあれこれにも関わらなければならないだろう。

突然、よそ者の明日花がそんなところに入って受け入れられるだろうか?という疑問もある。


「レオン、あなたの権力でどれくらいのことができますか?」

 

「ほとんど何も出来ない。精々、上に話をするくらいだ。聞いてくれる方は結構いるが」

 

「ダメなのですか?」


今までにレオンが対策を考えて行動していることは会ったばかりの明日花でも想像できる。


「誰も父に意見するような人はいない。そういう文化なんだ。王はただ、代々の仕事に沿って真似をして動く。決まりとか建国当時から何ひとつ変わっていない」


「それでよく国が安定していますね」


どうして政治が上手くいっているのかわからない。比較的、外との交流の無い日本でさえ、歴史上何度も仕組みは変えられている。


「初代王がすごい方だったらしい。それに建国当初から何も発展していない」


「ではとりあえず、城に連れて行っていただけませんか?」


詳しいことはゆっくり聞けばいいと明日花は思った。この国の歴史も知らない明日花にはイマイチ事情がわからない。


「アスカのことはまだ誰にも言ってないんだ。見た目的にどこかの令嬢ということで通そう」


ならば、明日花はそのままでいればいいだけだ。王子が連れている人にこれは誰だ?と思っても尋ねる人は少ないだろう。


「荷物は持とう。ただ、その足で街まで歩けるか?」


「大丈夫ですよ。ありがとうございます」


「ついて来てくれ」


真っ暗な森を慣れたように歩いていくレオンをついていく。

動きは洗礼されているけれど王子には見えない。その程度の国なのか、それともレオンが変わっているのか。そんなことを考えつつ、明日花は転ばぬように一生懸命レオンを追いかけた。





やがて開けた場所に出て、平で歩きやすい道を少し進むと大きな壁が見えてきた。


「ここから王都ですか?」


「ああ、この壁で魔物から街を守っているんだ」


ここまでしっかり大きな壁で街を囲むほど魔物は危険な存在なのだろう。


そんなところに王子が一人で入って大丈夫なのだろうか? それともレオンはすごく強いのか?


壁のそばに行くと、門が見えた。ここから出入りするのだろう。街を覗き込んでいると門番らしき人に止められてしまった。


レオン何かを門番に見せている。


「明日花は・・そうだった。持ってるわけないよな」


レオンの手にあるのは青色のカードのようなもの。


「これならありますよ」


鞄からあるものを取り出した。


もちろんレオンのそれと同じものではないが、結構似てる気がする。


「ああ、持っていたのですね。どうぞ」


え?!という言葉を飲み込んで、バレないうちに門を潜った。


やっと見えた街は賑やかでキラキラしている。建物は石がふんだんに使われたヨーロッパ風。

石が多く取れる土地なのだろう。


「レオン! すごいです!」


ほとんど夜の街など、いや、昼の街すらあまり歩いたことがない。それで明日花は楽しくなっていた。


「レオンと呼ぶな! それより、あれはどうした? 持ってないはずだろ?」


「私も驚きました。これ、通うはずだった学校の学生証なんです」


レオンは自分のカード見せてくれた。青いカードに文字と思われるものが書いてある。

そもそも文字が違う。似ているのはサイズ感と雰囲気くらい? どうして間違えたのか、そっちの方が不思議だ。


「あれでいいのですか?」


「住んでいる場所でこれの色が違うんだ。細かい所まで見るのは他の土地の色だった時だけだ。今度からもう少しちゃんと見るように言っとくよ」


これなら偽造し放題だろう。それでいいのだろうか?


「意外と適当ですね」


「ほら、早く行こう。知り合いに見つかると怒られる」


「待ってください、私走れません。それと、そのうち文字を教えてください」


ぱっと見た感じでは英語よりも難しそうな字をしていた。。英語のように、書けても読めないものではなく、意味を知らなくても見れば読めるような言語がいいと明日花は思った。


「書けないのか?」


「この国の文字と私のいた国の文字は違うみたいです」


少し歩くとお城のすぐそばまで来た。王都はそこまで広くないのかもしれない。


ただ、お城の規模には明日花は驚いていた。明日花の実家も日本にしてはとても大きな家だったが、それの十数倍の広さがありそうなお城だった。


そんな明日花を他所に、レオンは持ってきていた袋から何か取り出していた。


「それは?」


「城で着てる王子らしい服。これを着てないと顔パスで入れないだろ」


「そんな理由ですか」


王子が顔パスなんて言葉を使うとは。どちらかというと服パスな気もしなくもない。


「それにこんな服で入ったら森に行けなくなる。あいつに怒られる」


レオンはその服を上から着た。

上着だけなのにそれだけで王子様だ。青の生地に白いラインと金色の紐?のついた物。


「平民に見えない理由はもう一つあるかもしれません」


「どこだ?」


「顔です。あなたのような美形な方そういません」


こんな美形がゴロゴロいたら平凡な顔の明日花は困ってしまう。


「あ・・城では王子様扱いしますね」


「よろしく」


城にも門はあったが普通に通れた。

きっと、レオンと一緒だからだろう。

城は綺麗だった。キラキラで豪華で・・・・・・


いや、違うかもしれない。


あちこち埃は溜まっているし、中庭は草が伸びっぱなし。ツタがはってしまっている建物まである。それだけではない。外壁がボロボロになっていたり・・・・


あちこち観察しているうちに城の奥の方まで連れてこられて、レオンが止まった。


「俺の部屋だ。とりあえずここくらいしか場所がなくて」


「そうですか」


「入らないのか?」


「おじゃまします」


中は豪華な椅子や机、絵があって綺麗に整えられていた。王子の部屋だけあって広い。しかも寝室や作業部屋はわかれているらしい。


「そこら辺に座ってくれ」


「どこでもいいですか?」


「あぁ、・・・あと、二人の時はいつもの感じで話して欲しい」


ここは中でも靴で過ごすしっかり洋風な家。日本人としては部屋に入ると靴は脱ぎたくなるがそうもいかない。


「わかりました。なら言わせていただきます。この国は財政難以前の問題があ・・」


「レオン様。どちらに行っておられたのですか?」


感情の籠っていなくて、線のような声が降ってくる。

そちらを見れば、眼鏡をかけた銀髪紅眼の少年がいる。無表情で、歳はレオンと変わらないようにみえる。


「あ・・・リュ、リュード」


「この方は?」


なぜか挙動不審なレオンをよそにその人は私をみている。


「初めまして。アスカ・カズキと言います」


「レオン様の側近、リュードと申します。レオン様とはどういう関係で?」


関係? 友人でもなければ、そもそも知人と言えるほども知らない。


「リュード、アスカの部屋を手配してくれ」


「レオン様が部屋に女性を連れてきていたと報告しましょうか」


別に報告されても良くないか? 連れてきているのは事実だし、私たちにやましいことは一切ない。

そんなことを明日花は思っていたけれど、ひとまず口を挟まず、傍観することにした。


「そうだけど・・・わかった! 話すからやめてくれ。それと、これは私的な客人だからリュードも楽にして」


訳がわからず、首を傾げて見ているとリュードは眼鏡を外し、レオンの隣にドンと座る。


「レオン、それで?」


リュードの口調と雰囲気が急に変わった。レオンもキャラが変わるけどあれは作っている感じがある。この人はまるで別人のように変わる。


大人っぽかったリュードが子供っぽいというか歳相応に見える。静かで淡々としているのはあまり変わらないけれど・・・説明は難しいがとにかく違う。


「この国を変える。アスカはそれを手伝ってくれる・・・いや、一緒にやってくれるらしい」


「やるのか?」


「待ってください。どうやってそんな風に変えているのですか?」


明日花はそれ以上に方法の方が気になった。

明日花自身まだまだ別の顔を作るのが上手くない。わかる人には作っているとわかってしまう。


「この眼鏡で切り替えてるだけ。で、それでアスカを城に連れてきた」


それでは全く参考にならない。


「これは何者?」


「さあ・・・誰でもいいだろ」


『誰でもいい』か・・。明日花が異世界から来たのは隠しておくのだろうか?


「とりあえず、アスカは帰るところがないらしい。城の方が色々しやすいから連れてきた。だから、部屋と言い訳を用意して欲しい」


「わかった。本当に、変えるんだな?」


「遊びでこんなことするわけないだろう」


二人の会話は言葉が少ない。それでも伝わっているのはそれだけ二人が長く一緒に過ごしているからだろう。

そんな中でやっていけるのかと、明日花は少し不安になった。


「リュードは関わらなくてもいい。どうする?」


「協力する。元からそのつもり」


「あとで三人にもアスカを紹介しないとな」


「どんな方がいるのですか?」


明日花としては一緒にやっていく人たちのことは少しでも知っておきたかった。


「・・ちょっと変わっているけど、それぞれ抜き出ている才能があるし、アスカならうまくやっていけると思う」


この時の明日花はまだ知らない。

改革を進めていく仲間となるメンバーがちょっと変わっている程度の人物ではないこと。それぞれ訳アリの存在であること。

そのメンバーたちにアスカが一番変わっていると言われることになることを。


 


そして後に誰かが言った。


国を変えたのは最強の『変人集団』だと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る