#3 倒錯
自暴自棄。そこまで、非常識にはなれない。自分を惨めに思って、感傷的になって、最後には嫌気が差す。思い出して、スマホを眺めて、ため息。
ファストフード店のテーブル席は、どこも騒がしい。こんなに五月蝿かったっけ。前に来た時は、確か、もうちょっと。そこまで思い出して。ため息。
顔を上げると、別の顔もまた、嫌味な顔でため息を吐いている。
友人たち。特に目の前に座っているコイツには、特に。呆れられる程に、弱音を吐いた。いい加減諦めろ、二言目には、合コン行こう。そんな気分にはなれない。一週間。まるで、スマートアシスタントに上手く伝わらない時のように。同じ会話を繰り返して、お互い、ため息。これにも少し、飽きてきた。
何度も好きだって、愛してるって、言葉にして、抱きしめて、笑い合って、キスをして。
伝わらない要素が見つけられない。君の全部が好きで、好きで、好きで。なんだって、受け入れた。
もうそれってさ、向こうは違うヤツのこと好きになってたとか、もともとお前の方が浮気相手だったとか、そんなんじゃねぇの?
そこまで言われて伝わってないって、オマエのこと本気じゃなかったか、相当捻くれてるかのどっちかじゃない?
苛立って、席を立つ。トイレ。短く言って、顔は見なかった。
個室に入って座り込んだ。臭い。思考がまとまるわけもなく、すぐに出る。
浮気とか、違うヤツとか、ありえない。思いながらも、胃の奥がざわつくような不快感が滲み出る。
アイツに?それとも。
会いたい、会って話がしたい。席に戻りながら、スマホをいじる。
もう一度、話せないかな。
いや、もうちょっと切実に。今の気持ちを伝えた方が。
会えないかな、どうしても、もう一度話がしたいんだけど。時間、作れそう?
スタンプとか、ふざけてるって思われるかも。やめとこう。もうちょっと、柔らかい表現の方がいいかもしれない。段々、何が言いたいのかわからない文章になっていく。
いつまでスマホ見てんのって、別にいいだろ、少し黙ってろ。こっちは真剣なんだよ。って。
気を取られていたら、誤送信なんて、あるある過ぎて、感嘆符くらいの感想しか聞こえてこない。
あってはな
何だよこれ。取り消す方が気まず過ぎるわ。
ため息と同時に、スマホをカバンにしまう。胃の中の靄が広がった気がした。
コーラを流し込んでみても、靄は胃に張り付いたように消えることはなかった。
オマエじゃどうしようもなかったんだって。帰ってモンハンしようぜ。
呑気な声に、現実逃避。できるわけもなく、沈み切った思考。道路を見つめながら歩く。もちろんそこに答えがあるわけでもないのに、意味もなく、俯いて。
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うるさいハンティングメンバーと解散した後、どうしても気になって、メッセージを確認する。
既読。
それだけで、希望があるかもって、おめでたすぎる。自重してもナチュラルハイ気味のポジティブ思考は止まらない。午前三時。
ごめん。言いたいことまとめてる途中で間違えて送っちゃって。
会って話せないかな?
期待してることを、誰ともなく隠したくて。拒絶の返答を見たくなくて。枕の下に、スマホを隠した。
午前七時。アラームで起こされて、寝ぼけながらも思い出す。寝る前に送った。緊張感。
今度は、既読にすらならない。スマホを放り投げる。
もう一眠りしたい。眠れない。練習不足の発表会の直前みたいな、苛立ちと緊張が入り混じる。
誰向けか、分からない怒り。どこから来たのか、分かりたくない。
汚れたコップを引っつかんで、水道水を飲み干す。
落ち着かない。乱暴に注いだ水は、床に散らばっている。不快感。足で拭った。
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