#2 いいなり
優しい君は、なんでも与えてくれる。喜びも、温もりも。
でも。気付いてない。暗くなっていく、心の隅っこに。
あのラブソングみたいに、落ち葉を蹴っ飛ばして歩いて、微笑み合うなんて、心がギュッとなって、温かくなって、幸せな時間だなって、思えたのに。
いつも、不安だった。どう思ってる?何がしたい?
返事はいつだって。好きだよ、好きにしていいよ。って。笑って言う。その表情が、好きだった。
よれたシーツに横たわり、少し目を閉じる。暗闇が大きくなった。
目を開けても、治らない心の靄(もや)に、深呼吸したつもりが、ため息になる。
スマホを眺めて、意味のわからない長文を打つ。時間が経つほどに、頭の中が、整理できなくなる。苛立ちだけが膨れる。裏返して、電源を切った。
勢いをつけて立ち上がると、眩暈がした。白っぽい1Kの部屋は、薄暗くなっていた。
冷蔵庫に残っていた、いつ買ったのかも分からない缶ビール。お酒を一人で飲んだことないって、ホントなんだよ。いつものあの表情で、笑ってたけど。
かき消したくて、そのまま、喉に流し込んだ。苦味が口の中を占拠する。喉が痛くなって、胃が熱くなる。半分以上残ったままのそれをシンクに置いて、家を出た。
カバンには財布と鍵だけ。充分。勢いに任せて、足を動かした。
周りはもう秋色のファッションで、少し肌寒い。今年のトレンドカラーに合わせて買ったカーディガンは、正解だった。
人の流れから外れないように、進む。少なくない人の数。その中で私だけ、仲間はずれにされたような疎外感。同じように進んでいるはずなのに、私を避けて、周りだけが進んでいるような感覚。ズレに、気分が悪くなる。
駅まで来て、結局。どこにも行かず、家に戻った。どこにも行けなかった。シンクに残された、気の抜けたビールを飲み干す。不安定な感情も一緒に飲み込められればいいのに。できるわけもなく、冷蔵庫を開ける。ビールはあと三本。そのうち、飲み込めるかもしれない。ふらついた頭で、ぼんやり考えていた。
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固い。寒い。時計は午前二時。頭に、鈍い痛み。水を飲んで、ベッドに倒れ込んだ。いろんな記憶が一気に飛び出してきそうなくらい、頭の中がぐちゃぐちゃになって、妙に目だけは冴えていた。
布団の中に埋もれていたスマホの電源を入れる。まだ、お気に入りに入っているその番号。
お掛けになった番号は電源が入っていないか・・・
電源を切る。吐き気とは違う気持ちの悪さ。布団を頭からかぶる。唸り声を出して、かき消そうと思ったけど、何一つ消えなかった。
思考を切り替えようとして、出来なくて。気づいたら、空が白んでいた。
諦めて、カーテンを開けた。他人事みたいに、雲ひとつない、まだ薄暗い空。何をしてても、虚しく思えた。
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