偏重

@nilcof

#1 無関心

きれいだね、かわいいね。心の奥がぎゅっとして、心拍が上がる。

語彙が少なくて、簡単な言葉ばっかりで、ごめん。上手く伝えられない。自信がなくて、そう伝えると、君は笑っていた。

ヒグラシの声が公園中に響いている。満たされているはずなのに、まるで鳥瞰図を見ているみたいに、この光景を傍観しているような、空々しい気分になる。喉の奥になにかがつっかえたように、息苦しい。なにも言えなくなった。


----


曇り、薄暗い朝。生ぬるい空気。室外機に占領された埃っぽいベランダは、排気ガスが臭う。到底、気晴らしにはならなかった。


笑った時のえくぼも、目を細める優しい表情も、全てが好きだ。なのに、上手く伝えられないから、不安にさせたんだと、思う。

両腕におさまる柔らかい温もりも、まだ。どこかに残ってて、苦しい。


小さなアパートでよかった、だって離れようがない。誰だよ、そんなこと言ったの。

所狭しと君の痕跡が散りばめられている。なにをしてても、思い出してしまう。


洗濯機の中から、洗いたてのパーカーとジーパンを取り出して、着込む。スマホだけジーパンに突っ込んで、家を出た。

嫌味な程に明るい照明。テンプレ通りの暗い挨拶。

何もかもがチグハグに感じた。カゴの中は君が好きなもので埋め尽くされている。


チューハイで、淡い酩酊状態を長時間過ごす。スナック菓子を箸で食べる君の癖は、染みついたままだ。何度も、スマホを手に取る。何もできないまま、充電が切れるのを待った。


二日酔いもなく、目覚めた朝。カーテン越しに見える外は、よく、晴れている。

体は軽い。その割に、思考は渦を巻いている。頭の中身だけ、昨日に置いてきたような、不釣り合い。

終わらない悪夢を追いかけている。無意味だし、やめた方がいい。そんなことを、延々と続けているような、感覚だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る