第3話 大学一年 夏

3 夏

 急に一月も伸びた夏休みは、どう過ごせばいいのだろう。実家に帰ってもいいけれど、そんなに長くいると邪魔だといわれそうだ。というか、兄がそうわれているのを見てきた以上、そんなに実家に長居もしにくい。じゃあ誰か誘って遊びに行くかといえば、それもできそうにない。結局佐伯と一緒に入ったサークルは、長期休みの活動はしないらしい。学科の友人も、規制だったりバイトだったりと、充実した日々を過ごしている。私だけ一人取り残されてしまったようだ。何となく、孤独にさいなまれる。

 こうしていると、彼に会いたくなる。彼が恋しいからだろうか。それとも、ただ人恋しいだけなのだろうか。この隙間を埋めてくれるのであれば、彼じゃなくてもいいのではないか。私から彼に連絡を取ることはほとんどない。会いたいと思っても、話したいと思っても、自分から動けない。そのくせ、彼からの連絡には一も二もなく飛びつく私がいる。

 翌日、買い物がてら少し離れた大きな駅まで行った。大学近くの下宿にしたのは楽だが、どうも出不精になる。久々の人ごみに少し酔いながら、なんとなく辺りをうろつく。

「へえ、花火」

 何枚も張られているポスターによると、週末に花火大会があるらしい。会場はこの近く。彼の大学の最寄り駅からも、そう離れてはいない。彼も見にいくのだろうか。大学の友人か、それとももしかしたら恋人と一緒に。こんなときでも彼女といえないのは、一体何故だろう。ぐしゃりと肺がつぶれる。一瞬息ができない。

 人を試すのは好きじゃないけれど。もしもまだ夢を見ていてもいいのならば。

 初めて私から彼へ送ったメッセージ。「週末の花火、見に行く?」震える手で、送信の矢印を触る。ぴこん、という音の後、しばらくして既読が付く。「ちょうど実家帰ったとこ」「晶は見に行くの?」

「あーあ」

 笑ってしまう。折角勇気を出したけれど、こんな結果だ。「行かないかな」「すごく混みそう」「人多くてびびる」返事をして、ポケットへしまった。

 君に会えないなら、出かけても意味がない。

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