第12話:作戦会議
「では、まずレイから天界の状況と、敵戦力について説明してもらおうか」
会議室にて、未来、レイ、カイルとマリー、そしてストレアが席についていた。部屋はおそらくもっと大規模な会議を想定しているのだろう、三十人は入りそうな広さだ。
「簡単だけど地図を描いてみたわ。これ、見せられるかしら」
「ああ、前に映せる。マリー、頼む」
「はいはーい」
マリーがレイから受け取った紙を四角い機械の上にのせると、書かれた内容がそのまま前のスクリーンに投影された。21世紀の日本と何ら遜色のない技術である。
「すごいわね。これも魔道具?」
「ああ、この辺はコペルフェリアから持ってきてもらったものだ。あそこは異世界の技術を用いた魔道具が日々生産されているからな。さすがに一般普及はしていないが」
映し出された絵には横長の大陸と、城、町、そして監獄塔の位置が記載されていた。
「まず大きさだけど、この地図上全体で大体このメルトの町と同じくらいと思ってくれていいわ。ただ、地図上の南側は畑や果樹園、牧場なんかがあるから町そのものの大きさはメルトの半分くらいで、人口はせいぜい千人くらい。基本的に住んでいるのは天使だけね。ただ、城には神とそのお付きの天使が住んでいるわ。この大陸の神は七名だけ」
「人口はおよそ千人か、町の広さからすると少ないかもしれんが……それより問題は戦闘能力の持ち主がどのくらいいるかだな。神の戦力も気になるところだ」
「私の知る範囲だけど、まず大陸全体の警備兵が二百人ほど。加えて神の警護役が五十人、監獄塔の警備も五十くらいはいたはず。そもそも天界って、神のためにつくられた町だから、娯楽とかほとんどなくて、それに関する仕事についている天使もほぼいない。基本的には衣食住に関する人と戦力しかない、いびつな世界よ。私もこの町を見るまでは正直おかしいという実感はなかったけれど」
「なるほどな。だから人数規模に対して兵士が多いのか。……それで、神とやらはどの程度の戦力だ。七名ってことだからそこまで影響はないのかもしれんが……」
「神は、個体によって戦闘能力が大きく異なる。戦闘向きの能力を持つ神だと、町の兵士が全員束になっても勝てないとは言われているわ。圧倒的な力を持っているから基本的に接触しないように動くのが正解ね。天使は、雑兵は大したことはない。私でも十人単位で余裕で相手にできる。問題は……」
レイは言葉を区切った。
「将軍級の天使。大陸警備には四人。神の警護と監獄塔警備にはそれぞれ二名がついているわ。実力的には、私と同等かそれ以上と思ってもらっていい」
「なるほどな……そいつは厄介だ。で、ライラは監獄塔とやらに捕まっているのか?」
「ええ。将軍が常に交代で見張っているから、最低一人は相手にすることになるでしょうね……。そもそも、監獄塔警備の兵たちは大陸警備とはレベルが違うエリートだから、侮れないわ」
「戦力は概ねわかった。で、具体的な潜入ルートと救出方法はどうする? 私としては物語を何冊か奪っていきたいところなんだが……」
ここまで黙って聞いていたストレアが口を開いた。
「監獄塔は見ての通り、地図上の右、つまり東の端にあるわ。問題なのは、この大陸に侵入可能な入口は西の端にあって、移動が結構大変なこと」
「なぜ西からしか入れんのだ? 東側から潜入できれば移動が最小限で済みリスクも減らせるだろう。私としては町を通って本を持っていきたいから別に構わんが」
「この大陸、神による強固な結界が張られてて、普通の手段では簡単には突破できないのよ。西の出入り口だけが結界を外されている。ただそこには警備兵が何人もいるけれどね……。私はそこの警備兵を全員ぶっ倒して無理やり出てきたから、他のルートはあるかもしれないけどわからないわ」
「んー……カイル。お前の剣で結界斬れないか?」
ストレアが問う。確かに、カイルの持つ剣は魔術を無効化する魔道具だったはず。
「……剣が破損する可能性はあるが、無理ではない気がするな。これ、コペルフェリアにいる魔法使い謹製の試作品だから、実は魔道具としてのクオリティは相当高いんだ。神の結界とやらの特性次第だが……」
「特性って言うと、どういうものならダメなんでしょうか?」
「この魔道具は、魔術に触れると、それを粒子レベル――つまり魔力の最小単位まで分解するんだ。例えば魔力によって生み出された炎を斬ると、その箇所は魔力の粒子に変化する。だから、その結界が魔力によってつくられた壁なのであれば斬れる可能性はある。ただし、例えば魔術で、空間を切り取る、みたいな現象を起こして結界にしているようだったらこの剣ではどうしようもないな」
「それで言うなら、結界は壁よ。ただ、視界含めて偽装されるのと、鳥がぶつかってきたときのために触れたものを受け流す作用があるみたいね」
「なら、突破の可能性は十分にある。とりあえず突破可能なパターンとそうでないパターンを検討したほうが良いな」
「そうね。まず結界が斬れる場合。塔の上部の結界を斬り、最上階から飛んで乗り込む。警備は全員ぶっ倒す。母を見つけたら離脱して、また結界を斬って逃げる」
「雑な……警備に見つかって仲間を呼ばれる可能性は十分にあるだろう? そうしたら突破は簡単にはいかないんじゃないか」
「監獄塔の警備はせいぜい五十人で、将軍クラスは最大二名しかいないから、さっさと突破したほうが良いわ。仮に町の警備兵が集まってきたところで大した戦力ではないし……それより問題は、結界を破ったらまず間違いなく神にはバレるってことね」
珍しく深刻そうな顔で告げるレイ。
「言われてみりゃそうだな。自分の張った結界を斬られたら間違いなくわかる。神は結界が破られたら自分で出向いてくるもんか?」
「結界を担当している神は、好戦的だから可能性は高いわ。神がその気になったらそう時間はかからずに塔まで来れるでしょうね……」
「確か神とやらは、町の兵士が束になってもかなわない、レベルと言っていたな。そうだな……仮にレイやカイルが戦ったとしたらどうなるかわかるか?」
ストレアが眼鏡に触れつつ問う。
「私が直接戦闘の場面を見たわけではないから、母からの伝聞にはなるけれど……将軍レベルでも数分持つかどうかというレベルらしいから、似たようなものじゃないかしら」
「なるほどな……となると基本的には戦いを避けないと話にならんな」
「神が来るまでの間に塔の中からお母さんを探せるか、になりそうですね」
「こちらのプランでいく場合、レイと俺とミクで塔の中に潜入して、ストリアは塔の上から見張りをしつつ陽動および掃討をしてもらうのが良さそうだな。神が来たら……逃げてもらうしかないか」
「書物を直接探せないのが残念だが、まぁそうなるだろうな。見張り役は飛行と遠距離かつ広範囲の攻撃が可能なものが望ましい。このメンバーだとレイか私になるから、調査を考えると必然私だ。神が来る前に手分けしてライラ嬢と何かしらの書物を見つけてもらい、急ぎ脱出しかないだろう」
書物を譲る気はないらしい。
「塔に突入できれば勝算はあるわ。私は微粒子化した魔力を散布することでその範囲に何があるか子細に把握することができる。塔一つくらいなら範囲に巻き込めるから……母がどこにいるかはすぐにわかるはず。牢の突破にどのくらい時間がかかるか次第ね」
「魔力散布か。普通はそこまでの範囲にはできないもんなんだが……天使の特性だな」
「こちらのルートは光明が見えたな。あとは結界が破れなかった場合だが……」
「……正直、正面突破はリスクが高いわね。当然警備兵もいるし、見つからずに突破できたとしても潜入時点で神にはバレる。そこから町を越えて塔から母を救出の上正面から脱出するまで神に遭遇せずにいられるとは思えない」
「そうだな。もしこの剣で結界が突破できない場合は、結界を破る別の手段を準備するか……S級冒険者の戻りを待ったほうがいい」
「母のことは心配だけど、皆を巻き込んで捕まったり殺されるわけにはいかないわ。その場合は退却して作戦を練り直しましょう」
「了解だ。この後はもっと詳細に作戦を詰めるか」
「ええ、必ず、成功させて見せる」
強い意志を感じる瞳で、レイは大きく頷いた。
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