003 無理矢理と無理
…――そして、私の人生譚は、ずいっと時を進める。
当エッセイは、今、決めた事だが、無理なく書くと。
だからこそ私の人生を順に追ってゆくものではない。
兎に角、
今日は引っ越しの日。名古屋から東京へ移住する日。
背中にはビリヤードのキュー。
しかも裸のキュー。無理矢理、背中に括り付けて歩きにくく無理をしながら歩く。
この頃、私はビリヤードにハマっていてマスワリ(※ナインボールルールでブレイクから最後の9番までミスなくパーフェクトで落とす事)も何回かに一回は出来るようになった。そうなると例に漏れずマイキューが欲しくなる。だからこそ……、
滅茶苦茶、ビリヤードの上手い奴から、お古のキューを、無理矢理、奪い取った。
欲しいな、欲しいな、くれっ!
という顔をしてだ。いや、欲しいなという顔だけで。
無理矢理というのは、その友と会う度に、くれくれ、という顔をして上目遣いで見つめた結果、じゃ、やるよ、と呆れられたという事だ。そんなキューを背負って東京に進出した。その時の私は田舎者の不審者がいると周りの目に映った事だろう。
でも別に玉撞きのプロになりかったわけではない。そもそも、そんなウデはない。
単純に、物語の主人公ってマイキューを背負って上京をしそうだな。
それって格好いいよね、という阿呆な理由でである。
今にして思えば、格好いいわけないとは思うのだが。
兎に角、
そうだ。知っている人は知っているだろうが、……私は漫画家になりかったのだ。
だからこそ東京に出たかった。
出版社に持ち込みが出来る東京へと活動拠点を移すべきと判断と決断をしたのだ。
だだし、
関東圏には、友人、知人、親戚など、一切、いない。
ならば、
どうしたかといえば新聞奨学生での漫画の専門学校に入学する事を選んだわけだ。奨学生として、お金を借り、学校に入学する事で無理くり東京に行かねばならぬ状況を作り出したのだ。ある意味で仕事として遠隔地への長期赴任にも似ている。
そして、
専門学校に入学するにあたり、これだけは絶対に達成する、という目標を立てた。
卒業までにプロの漫画家としての道筋を作ってやる、というものだ。
うむっ。
結論から先に言ってしまえば、その目標は達成した。
プロ作家のアシスタントとして雇われる事が叶った。
無論、アシスタントであるから漫画家としてはスタートラインにも立っていない。しかし、それでもプロとして、これから先、やっていくという意味での道筋作りとしては贅沢を言うまいだ。専門を卒業しても何もないよりはマシなわけだ。
つまり、
ギリギリセーフのラインで、無理矢理にも目標を達成したと、今はそう思うのだ。
うむっ。
小学生の時、ソフトボールのチームに入っていて、どうしてもピッチャーになりかった。だから、ひとりで壁に向かって延々とボールを投げ続けた。すると二軍ではあるがピッチャーを任されるまでになった。そして、あの背負って上京した……、
マイキューだってそうなのだ。
欲しいとは言わなかったが、やれやれだという顔もされたが、もらう事ができた。
無理矢理と言える押しかけで。
友人や知人、親戚などがいない東京への移住も、無理矢理なのだが達成した。アシスタントにもなれた。その中で、持ち込みを繰り返して漫画の新人賞での最終選考まで残った。これも無理矢理。週、五回、持ち込み、担当編集さんに迷惑をかけた。
だが、ここで運が尽きるのだ。
つまり、
病気という難敵の出現である。
漫画を描きまくり、それこそ無理が祟り、私は病気を発症したのだ。
そして、
学んだ。
無理矢理は良いのだが、……決して無理をしてはいけないのだ、と。
それこそ信じるか、信じないかは、あなた次第なのである。ふむっ。
チャオ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます