ある夫婦の話

最初は友達として。今では家族として、そいつは俺の側に居る。


「そろそろだよね?」

「ぁん?」

寝たこどもたちを撫でながら、クェイネルバロウは呟いた。何の話か思い至らず目を向ける。クェイネルバロウは目を細めて笑みをみせた。

「彼らが来るの」

「…? ………あぁ」

そういえばそろそろかも知れない。来客の予定など何年も前から一つだけだ。ケテルで秋頃だと言っていたから、この辺りでは春の半ば頃だろう。

「でもまだ会えないんだ」

「そうなん」

その拘りの理由は解らないが、クェイネルバロウはKたちがクェイネルバロウを知るまでは会わないと言っている。

「こどもたちも会わせたいなぁ。シールくんにも、連絡はしたけど会ってないもんね」

同意はしないが頷いておく。

第一子が生まれた時、クェイネルバロウはどうしてもシールに知らせたいと言い出した。クェイネルバロウを連れ帰ってから何年後の事だっただろう。まだ覚えていたかという驚きと、向こうは覚えていないのではという疑念が過った。記憶力は良さそうな奴だったが相手の立場が立場だ。その時既に宰相になっていたのかは知らないが、ただでさえ大国の王家の人間だ。こちらが名乗れる正式な名もなければ相手の正式な名も判然としない。手紙を送るも難しく、直接会えるわけもない。ところが、何かと絡んでくるご近所さん…欲望の神の神官サマが、偶々ゼクトゥーズの王弟と知り合いだと言って勝手に手紙を出してくれた。以来、ごく稀にではあるが手紙でやり取りする事もある。

「彼らグールのこととっても好いてたじゃない。きっとこどもたちにも会ってみたいと思うんだ」

「…」

その評価は解せないが、見たいと言われる気はする。正直態々見せたくはないが母親がそう思うなら好きにすれば良い。

「ふふ。楽しみだなぁ。オレとこどもたちを見たら、きっと驚いてくれるよね」

「あいつら、おまえを男やと思っとったみたいやしな」

グールが少年に目覚めた!と衝撃を受けていたKを思い出す。あれには此方も驚いた。

「そうだよね。オレも彼らともっと行動を共にしてみたかったなぁ」

小さなこどもが2匹も居る今、それは難しい。

「だからせめて話がしたい。家に上げれるようになったら、シセラ神官に保育士を頼もう」

「むっちゃ嫌なカオすんのが見えるわ」

「きっと頼まれてくれるけどね」

郊外に居を構えるご近所さんたるシセラの神官は変わり者だが面倒見が良い。万人に対してというワケではなさそうだが、クェイネルバロウには友好的だ。神官同士通ずるモノがあるのかも知れない。なんやかんや世話を焼いてくれている。二人の神官のお墨付きということで、街の人間から攻撃される事もなく平和に暮らせている。人間を食べたくなったら遠出をしなくてはならないが、不便はそのくらいだろう。

「…なんでそんなに会いたいん?」

「そりゃあ」

「当然」「決まってる」と書いてある瞳で見られても、全く予測できない。クェイネルバロウはクスクスと笑って、

「グールを頂いちゃった挨拶を、ちゃんとしないとね」


答えを聞いて呆れ返る俺の鼻先に軽いキスを落とした。

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