巻き込まれ兄弟の話
偶に、夢を見る。
多分内容が同じ夢。起きると覚えていられないのだが、なんとなく「またあの夢をみた」という感覚は残る。寝入り端ふと断片的に思い出せる事もあるが、持続しない。ただ。その夢を見ると、毎回少し弟の事を思い出す。
『満天さん、えぇとその…弟さんは…?』
遠慮がちに確認してきたaの表情が浮かんだ。
『別々に置いてかれたんだっけ?』
召喚の鬼神はボクらを引き離した。その意図は今でも解らない。
『今は解らないけど、前に見た時は元気そうだったよ』
イェソドの小さな勇者さまの同行者として、パーティーを巧く転がしているようだった。その後の事は知らない。国に帰ったのか、はたまた逃げたのか。賢そうだったから恐らく帰国は選ばなかっただろう。
ひょっとしたら彼方側に居たのはボクの方だったかも知れない。
そう思えば、弟には悪いが、自分は当たりを引いたのだと思う。環境は優良で待遇も格別だ。勿論、甘えずに努力したという自負もあるが、努力が報われる環境にあった事自体幸運と理解している。
カルキストの転移に巻き込まれてやって来た異邦人。鬼神が連れてきた親無し子。もしもカルキストの活躍がなかったら、ボクの処遇も変わっただろうか。多分そんなに変わらなかっただろう。
偶に、夢を見る。
見たことあるような気もする知らない人が、自分に話しかけてくる夢。話された内容は起きたら覚えていないけど、なんとなくいつも違う気がする。あの時以降、その夢を見た後は毎回彼を思い出すようになった。黒紫城で会った白衣の青年。雰囲気が夢の中の誰かと似ている所為かも知れない。
『やぁ。君が蒼夜くん?』
一度しか会った事がないのに、その柔らかな笑みを自棄に鮮明に覚えている。
結局皐月がボロ負けして、僕らは敗走。皐月は国に帰るなんてバカな事を言っていたけど、そこで別れたからどうなったのかは知らない。僕はイェソドを素通りして、マルクトの大樹へと向かった。大樹の根下の小さな集落で暫く過ごした。そこに居ると、不思議と夢の内容を思い出せた。
『君は予備だ』
『彼らが失敗すれば、次は君の番だ』
『知恵の回し方は解ったか?』
『力の使い方は思い出したか?』
『私との、接続方法は──』
ああそうか。夢で話された内容が思い出せなかったのは、夢の中の彼は言葉を用いていなかったから。その内容が理解出来たのは──『彼』と、再び繋がれたから。
「そっか、世界は───」
視界を樹の根が覆う。地へと延び、深淵を抜け、虚ろな海へと至る。
脳裏を樹の枝が貫く。天へと延び、世界を越え、多元の宇宙を抱く。
聖霊の力を宿す稀なる子。巫女の導きで現れた聖人。もしもの世界に於いては、世界を救った大英雄。再来の有翼種。全てを知る者。裁定者。
僕はどの世界に於いても此処へ至る。
さあ。繁栄と安寧を。
さあ。永続と歓楽を。
自分の意思でやって来たふたりの軍人と、それに巻き込まれてやって来たふたりの兄弟がいた。
それは、世界に呼ばれてやって来た弟と巻き込まれた兄、弟を連れてくる為に呼び込まれたふたりの軍人…だったのかも知れない。
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