私の目の前で甘いものを食べるのは「暴力」

 私の父は糖尿病で癌になり亡くなった。胆管癌だった。晩年は全身に黄疸が広がり、皮膚のかゆみのせいでまともに物を考えることもできなくなり、がりがりにやせ細って死んでいった。


 以来、私は甘いものを楽しんで食べることができなくなった。私の中で糖質が高いもの=糖尿病=ガン=死という強固な関連付けが生じ、なまじそれが完全に間違っているというわけでもないので、「」という思い込みが強化され続けてきた。

 この数年間、私の食生活は激変した。

 食事は納豆や鯖・砂糖無添加無脂肪ヨーグルト、蕎麦、玄米、サラダなどを中心とした低GI値・高たんぱく・善玉コレステロールを増やすものになり、それ以外のものは不健康だと言うことで口にするだけで「病気になるのでは、とひどく焦燥に駆られる。

 結局この辺も思い込みでしかなく、仮に一年に一回饅頭を食ったところで糖尿病になる確率はものすごく低いと思うのだがそれでもやめられないのである。

 これが「強迫観念」や「強迫行為」というやつである。


 さて、そんな私の強迫行為は私と生活を共にする家族にも容赦なく降りかかる。

 私は糖質の多い和菓子(特にあんこの入ったもの)を食べたくないのだが、茶道を習っている母が私の前にお茶菓子を差し出すのである。

 もうこれはだ。

 私に甘いお菓子を差し出すなんていうのは悪意をもって私を苦しめようとしているに違いない。母はきっと私が嫌いなんだろう。母が作った甘い鯖の煮漬けは川に投げ捨ててやったぜ。

 これが例えば会社の同僚でも、「広島旅行のお土産に紅葉饅頭買ってきたんだけど食べる?」とか言って渡してこようものならそれはだ。私に甘いものを勧めてくるなんていうのは言語道断で、そんなことをするヤツは全員極悪人に決まっている。

 ツイッターやインスタグラムにおいしそうなスイーツの写真をアップするのも、私への遠回しな嫌がらせなのだろう。

 


 ……という具合で書き散らしてみたが、私は少なくともので、確かにこう思っていてもそれを他人に押し付けることはない。


 だが残念ながら、上記のような強迫観念に駆られている人物たちは多く自分が異常であることを直視せず、怒りの矛先を他人に向けているように思う。

 こうした誰かの強迫行為の巻き添えを食ってトラブルになったケースはおそらく山ほどあるのだろう。

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