第2話 女神のギフト

「そ、そういえば自己紹介がまだでしたね。ワ、ワタシは鎧の神、アメルと言います」


 鎧か……。やけに限定的なジャンルを選んでくる。


 というか鎧の神様だったら、鎧を着るとかした方が良いんじゃないか?


 白いワンピースを着ているから、なんだか特徴が薄い。


「私は幸田ミツオと申します。以後よろしくお願いします。それで2点、3点、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」


「ふぇ! は、はい」


 私は早速、質問を始めた。


 ――そして、私の執拗な質問に、女神とされている幼女が涙目になったり、理解力が乏しい幼女のためにボディランゲージを使ったり、途中幼女がうとうとしてきて「こいつ本当は女神じゃないだろ」と疑ったりと、なんだかんだあったが、ひとまず聞きたいことは聞けた。


 幼女の話をまとめるとこうなる。



・神様たちの間で、次の全能神を決める儀式が執り行われるとのこと。


・その儀式の内容は、それぞれの神が、私の元いた世界(つまりは地球)から「戦士」を選び、こちらの世界へ招待する。そして、その戦士たちの中でこちらの世界を救う者がいれば、その戦士を選んだ神が次の全能神になるとのこと。


・私はその戦士に選ばれたとのこと。



 荒唐無稽な話ではあるが。なんとなくの概要は分かった。


「つまりは、女神様の代わりに戦って来いということですね」


「……」


 私の問いかけに女神様は黙ってしまう。


「いえ、大丈夫です。無理難題を言うのが上司から女神様に変わっただけですから」


 思わず皮肉が口から出てしまう。聞く方はいい気がしないと分かってはいるのだが。


「す、すみません。勝手に呼び出したのは確かにそうです。これから激しい戦いが待っているのも……」


「……」


「でも、儀式ことは気にせず、後悔することがないように生きてほしいです。偉そうなことを言うようですが、ワタシはそれを望みます」


 後悔がない人生なんてものはあるわけない。


 少なくとも今までの人生は後悔だらけだ。進学、就職、恋愛、交友関係。


 どれをとっても後悔することばっかりだ。


 あの時ああしていればなんて妄想が、心を占めている。


「後悔のないように……か」


 だけど、今までの人生がリセットされるというのなら。


 異世界で新しい人生を生きられるというのなら、生きてみようじゃないか。


 今まで後悔してきたからこそ、今度はもっとうまくやれるかもしれない。


「……できる限り後悔のないようにしておきます。女神様」


「それはとっても良いことです!」


 おどおどとした先ほどとは打って変わって、屈託のない笑顔の幼女こと女神様。


 この笑顔だけを見れば本当に女神様かもしれないな。


「じゃあ、これを持って行ってください!」


「これは?」


 女神さまは七色の鉱石が埋め込まれたブレスレットを私の腕に着けた。


「これはギフトです! あなたが異世界で生きていくにあたっての、ワタシからの贈り物です。あなたをきっと守ってくださることでしょう」


「そうですか。ありがとうございます」


 お守りみたいなものか。何の足しになるかは分からないが貰っておこう。


 さて、いい感じに気分も乗ってきた。


 そうとくれば、後は出発するのみだ!


「じゃあ行ってきます!」


「はい。あなたのじんしぇ……人生に、大いなる加護を与えることを誓います。お気をつけて」


 若干噛みながらも、きちんと女神さまは見送ってくれた。


 さぁ! ドアを開けて新しい人生への第一歩を踏み出そう!


 意気揚々とドアを開け放ち、一歩を踏み出そうとした私に待っていたのは、先程と何も変わらない足場のない空間。


 落下の始まりだった。

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