第7話
むかつくような熱気を感じて気づいた時、浩史はいつしか夜の中にいた。
28歳の男なら誰もが経験ずみの、あのぞっとするほど不愉快な夜。
むせかえりそうな女の体臭や、獣の雄叫びみたいな嬌声。
ほの暗い紫の照明の下、囁き交わされる卑猥なセリフの数々に、腐ったバウムクーヘンさながら折り重なって澱んでいる重苦しい暑気もたまらずピンクに染まってしまいそうな夜だった。
ともにテーブルを囲み、ソファで酔っ払い、さっきから女の全身をねちねち撫で回しながら気勢を上げている三人の男には、いずれも見覚えがある。
同じ中学校へ勤務している、浩史にとっては先輩にあたる教師たちだった。
正面に座った痩せぎすで顔色の異様に蒼白な40過ぎと思われる男が最年長の学年主任、女を一人挟み、その横で熟れすぎたリンゴみたいに顔を上気させている眼鏡面で一見学者風の数学教師。
そして、浩史の隣で巨大な背中をアルマジロのように丸めて縮こまり、横の女に愛想笑いを振りまいている筋肉質の大男が、体育科の教師で、彼の三年ばかり先輩だった。
男たちの武骨で毛深い手が、崩れかけの壁をコソコソ這いまわるちっぽけな蜘蛛のように、女たちの大胆に開いたドレスの胸元や、細くくびれた腰や、緑がかったどこか淫靡な雰囲気のする黒髪を、すばやく、器用に這いまわった。
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