第6話
むろん、浩史とて結婚について考えたことがなかったわけではない。
恋愛についても、女性という生き物についても、またそれにまつわるいかなるものについても、考えたことがないわけではなかった。
けれども、それらについて考える時、彼は他のどんな事柄について考える時にもまして憂鬱になってしまう。
浩史は女性の言葉遣いが憂鬱だった。
その笑顔が憂鬱だった。
歩き方が憂鬱だった。
だから、そんな暗い感情を己に納得させるべく、俺はまだそういうゴタゴタに関わるだけの資格がないのだと自らに言い聞かせていた。
資格。
おそらくこの世には、実に数多くの資格が存在している。
運転免許証だの、教員免許状だの、またはそういった類のものとは全然別に。
食事をする資格。
眠る資格。
会話する資格。
女の子と腕を組む資格。
他人と争う資格……やめよう。
つまり、人間の生活はそれら細々した資格の集積として成立している。
ただ、公的な試験がないだけだ。
が、逆にだからこそ人は、己が所有する資格を疑いもせず、あるいはそれが資格であることにすら気づかぬまま、成長と称される老衰へのなだらかな川を静かに下り続けるのだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます