第2話

 浩史は可能な限り自らの暮らしを単調なものにしようと努めている。


 それまでの彼は、周囲の世界を複雑だと感じたことが一度もなかった。


 彼にとっての世界は、教育という一個の大目的を中心に、あらゆる要素がそれぞれ存在すべき箇所に整然と配置されている、そうしたものだった。


 ところが、今やすっかり違っていた。


 何もかも煩雑で、彼自身、己がそうした複雑な煩わしい仕組みの中へ構成要素の一つとして組み込まれてしまうには、あまりにも繊細すぎるように感じられるのだ。


 かといって、死という罪深く甘美な苦痛への親密感に陶酔し、現実に呪詛を吐きつつ涙を流せるほどに若くもない。


 そんな思いに直面するたび、彼はもし生きることに何の意味もないならどんなに楽だろうと考え、哀しい気持ちになるのだった。

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