第32話 皿洗い

そして宿屋に帰ると

「おかえりなさい、ジェー・・ユウキさん」


「札が満室になってましたよ?」とジェニは言うと

「それはもう、心配で心配で。

 親子二人なので手が回らないし」とフミージャ。


「もう、気にしないでくださいよ。

 立札元に戻しますよ?」とジェニは言うと

 扉の札を「空き」にする。


「手が足らなかったら手伝いますし」と

ジェニは言うと

「とんでもない!」とフミージャ。


「いまは只のユウキです。それにこの名前は

 母さん、ミネルヴァさんにつけてもらったんです。

 なんかここに居ると向うを思い出して。

 雰囲気がそっくりですし。」とジェニ。


「なんか昨日食べた料理も

 懐かしいというか、うん。

 食べたことある味だった。」とも言うと


「そりゃそうですよ、ミネルヴァは私の

 妹です。あれ?知りませんでした?」

とフミージャ。


ジェニエーベルは衝撃を受ける。

母さんは姉の事は一言も言わなかった。

多分、相当心配していたんだろう。しかし

俺にはそう言う事も何も言わなかった。


向うの世界でも一言も。

いつも姉の考えていたかもしれない。でも

俺の前ではそう言ったそぶりも見せなかった。


俺は母さんの事を何も知らない。

そう思うとジェニエーベルは泣き出す。


「泣かないでください。ユウキさん。

 泣いたらミネルヴァが悲しみますよ」と

フミージャは優しく言う。


涙を拭きジェニはフミージャに言う。

「やっぱり店を手伝いますよ!」と。


少し困惑をするフミージャだったが

「じゃあお願いしますね」と

笑いながら言う。


そうこうしているうちに扉が開く。

「2人部屋空いてるかな。あんまり

 お金がないので2泊で飯は・・・

 朝だけでいい」と客。


その身なりはどう見ても冒険者だった。

すると

「仕方ないわね、夜はサービスするから

 一生懸命働いてきな!」とフミージャ。


そうしてジェニは冒険者を2階に案内する。

降りてくると。


「あ、俺厨房にも入れますよ、向こうでは

 母さんに毎日作っていたし」とジェニ。


「母さんは最後、私が物心つく頃には

 もう料理を作る事は出来ませんでした。

 多分病気のせいでしょう。俺はそれを

 知らないで母さんは料理が下手と思っていた。」


「でも母さんは本当は料理は上手かった。

 そんな事も知らなかったんです」と。


「仕方ないなぁ、じゃあ教えますよ」

とフミージャ。


「じゃあその代わり、

 向こうで母さんと一緒に

 食べた料理とかを教えます。

 調味料もありますし」とジェニ。


二人で厨房に入っているとへレスが

帰ってくる。

「へレス、お客様が来たので

 食事の準備をして」と作りながら言う。


そうこうしていると先ほどの

冒険者が降りてくる。

「ほ、本当にいいのか?飯食って」

と戸惑う二人。


「残り物で作ってるだけだから

 気にしないで食いなさい」とフミージャ。


ジェニは目を閉じ微笑む。

「嘘ばっかりだな、今日仕入れた

 食材じゃないか」と心の中で思う。


「あ、俺運びます」とジェニは言うと

皿を手に取り机に運ぶ。


それを見て冒険者は驚く。

「いや!どう見ても残り物じゃ

 ないじゃないか・・・。」と。


「いいんじゃないですか?」と

笑いながらジェニは言う。


「うまい!」といいながらがっつく

冒険者。


「そんなことしてるから貧乏なんですよ」

と意地悪く言うジェニエーベル。

「仕方ないのよ?元冒険者で

 元剣士なんだから。」と笑うフミージャ。


フミージャは決めていた。

ジェニの前では、こちらの世界での

ミネルヴァらしく振舞おうと。

そしてジェニが知らないミネルヴァの事も

教えようと。


そうしていると3人組が入ってきた。

「女将さん!

 ついに俺達ランクAになったよ!」

とうれしそうに言いながら。

「おめでとう!」とへレスも笑う。


「ああ、ありがとう!へレスちゃん!」

と一人が言うと

「もう子供じゃないんだから、ちゃん付け

 やめてよね」と膨れる。

「ごめんごめん、へレス・・・さん?」と

冒険者。

「なんで疑問なのよ!」とへレス。


「おめでとう」とフミージャは言うと

「何泊?」と聞く。


「3泊で。食事は朝と夜ね、後明日は弁当」と

銀貨6枚を机に置く。

「あら、多いわよ。」とフミージャは言うと。

「今までの、ただ飯分だよ」と冒険者。


「それだったら足らないわよ?」と

フミージャは言う。

「す、すみませんでした!」と冒険者は言うと

皆が笑い合う。


1人が先ほどの冒険者の料理を見る。

「お、なんか今日の料理、旨そう」というと

「いつも、と言わないとおこられるぞ」と

もう一人。


「今日は許すわ、その料理はこの人が

 作ったから。」とジェニを指さす。


「今後ともごひいきに」と笑うジェニ。


そして部屋に案内をへレスが案内し

一時して降りてくる。そして食事。

「マジうめえ!というか。これって

 らび焼きじゃねえか」と一人が言う。


「なにそれ。」ともう一人が聞く。

「この間、紫の国に出稼ぎに行った時に

 鉱石堀の時に食ったんだよ。

 まさかここでも食えるとわ!」と。


「やっちまったね、ユウキさん」とフミージャ。

「やっちまいました、フミージャさん」とジェニ。


「仕方ないから教えなさい。らび焼き。

 この店で出し続けるから」と腰を叩く。


一通りかたずくと3人は食事をとる。

「あ、本当においしいわね、このらび焼き。」

とフミージャは言うと

「なんかこのスープ知ってる気がする」とジェニ。


そして3人は食事を終えると

3人で並び皿洗いをする。


「ところでなんで師範がお手伝い

 してるんですか?」と

皿を洗いながらへレスが聞く。


「旅先でいつもこうしてるんだよ。

 こうやって食費を浮かすんだ」と

ジェニエーベルは笑いながら言う。


「なるほど、勉強になる」とヘレン、

そしてフミージャも意地悪く言う。


そうして夜が更けていく。












 

 






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